151105胸骨圧迫の中断を最小限にする努力を

 
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151105胸骨圧迫の中断を最小限にする努力を

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現在のガイドラインでは心肺蘇生時には「絶え間ない胸骨圧迫」が求められている。胸骨圧迫停止は脳や心臓への循環停止を意味するから、胸骨圧迫の中断時間を少なくすることで循環停止時間を最小限にし、脳や心筋に常に酸素とエネルギーを送り込むことが「絶え間ない胸骨圧迫」の根拠となっている。

現在の蘇生方法ではどうしても胸骨圧迫を停止せざるを得ない場面がある。それは除細動の時である。心電図解析でもそのあとの放電の時でも胸骨圧迫は中止せざるを得ない。この中止は患者の転帰にどれだけ影響するか調べてみた。

除細動前後にも胸骨圧迫

絶え間ない胸骨圧迫を求められる根拠の一つが2011年にCirculationから出版された論文1)である。ガイドライン2010の時点も胸骨圧迫の中断は避けるように教えられていたが、今ほどしつこくは言われていなかった。論文では、除細動可能な不整脈を有する卒倒患者では放電前後での胸骨圧迫中断時間が長いほど生存退院率が低下することを示しており、回帰分析では胸骨圧迫中断時間が5秒増えるごとに生存退院率は14-18%低下していくと述べている。

3年後、同じ著者らが再度報告2)している。除細動の前後での胸骨圧迫時間を最小限にする手技を導入しした上で、中断時間の短い症例と長い症例を集めて転帰を比較するものである。生存退院率と神経学的後遺症の軽さは中断時間が除細動前10秒未満の群と20秒以上の群とで有意差が見られた。除細動後の中断時間と生存退院率に有意な相関は見られなかった。

充電中に胸骨圧迫

AEDから「患者に触れないで」と言われてから「胸骨圧迫を再開して下さい」と言われるまでに、AEDは連続して3つのことをしている。最初は心電図の解析、次に放電装置への充電、最後に放電である。心電図の解析は体を動かすと余計な波が起きてAEDが間違った判断をする可能性があるし、放電時は自分に電気が流れたら嫌なので触れない。だが、充電中は別に患者に触っていても誰も被害は受けないだろうというので、充電中に胸骨圧迫を行ったという論文がカナダから出た3)。

研究期間は2011年から1年間.この期間中747例の病院外心停止があり、そのうち除細動可能な波形が記録されたのが149例。129例が研究対象となり、充電中に胸骨圧迫を行ったのはそのうちの70例(54%)である。ウツタインデータ上では充電中に胸骨圧迫を行った群と行わなかった群で差は見られなかった。除細動前の胸骨圧迫停止時間は充電中に胸骨圧迫を行った群が3.5秒、行わなかった群では15秒とその差は歴然としていた。蘇生時間全体での胸骨圧迫実施時間割合は行わなかった群で70%であったのに対し行った群では77%にもなった。胸骨圧迫の深さは両群で差はなく、心拍再開率や生存退院率も両群で差は見られなかった。

ぱっと読んで始めに思ったのが、救命講習の間延びした時間を少なくできる、ということであった。救命講習で受講者に蘇生を行わせると、AEDの解析からボタンを押すまでの時間にはすることがなくて妙な雰囲気になる。充電している間にも胸骨圧迫ができるようになれば受講生たちも熱心に動くようになるだろう。充電時間中に胸骨圧迫を行ったとしてもこの論文によれば11.5秒胸骨圧迫が余計にできるだけだ。10秒ちょっとで生存率が上昇するとはとても思えないが、やってみる価値はあるだろう。

手技の進化を

除細動中の圧迫中断はそれほど患者に悪影響は及ぼさない、中断が恐いのは除細動以外の時だ、という論文4)が出ている。オランダからの論文で、319例の除細動実施患者の心電図記録を解析したものである。各症例で平均すると中断時間は32秒間。このうち、除細動時に中断が一番長かった症例をひとまとめにすると、除細動時中断時間は23秒間。除細動以外の時に中断が長かった群をまとめると、除細動以外での中断時間は24秒間。両群ともほとんど変わらない。注目すべきは患者の転帰で、除細動以外で中断が長い分は生存退院率が有意に低いこと。除細動時に中断が長かった群は44%が生存退院しているのに対して、除細動以外で中断が長かった群は27%しか生存退院していない。除細動前の中断時間と心室細動の消失率には関連がなかった。

この論文で言いたいのは、活動をスムーズにしなさい、ということだ。除細動による胸骨圧迫の中断は致し方ないし、この中断の長さで除細動の成功率が変わるものでもない。だが除細動以外で時間を食って胸骨圧迫が途切れることは患者の死に直結する。だから常日頃から訓練を重ねてどんな時でも流れるような活動ができるようにしなければならない。

文献
1)Circulation 2011;124:58-66
2)Resuscitaion 2014;85:336-42
3)Resuscitation 2014;85:1007-11
4)Brouwer TF. Circulation 2015; Epub


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15.11.5/3:55 PM

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