120609小学生に心肺蘇生法を教える

 
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小学生に心肺蘇生法を教える

心肺蘇生ガイドラインではバイスタンダーを増やすことが必要としており、これは2000年発表のガイドラインから変わることがない。日本では系統だった救命講習は1994年から自動車学校で行われているので、現在36歳以下で自動車免許を持っている人は一回は救命講習を受けたことになる。また学校での救命講習は中学校と高校の学習指導要領に盛り込まれているが、実際には何かの授業を潰して救命講習に当てる必要があるためすべての学校で実施できているわけではない。今回は小学校の総合学習もしくは保健体育で行われている救命講習についてお伝えする。

目次

小学4年生でもできる

まずはドイツの論文から1)。小学4年生以上に教えられるか、誰が教えるべきかという論文。10歳の小学生433名のうち251人をトレーニンググループとして救急医療関係者もしくは救急蘇生指導員から講習を受けさせた。残りは182人は対照群として全く訓練を与えず、ぶっつけ本番でマネキンを押した。当然心肺蘇生の技量には差があって、胸骨圧迫の深さはトレーニング群38mm対照群24mm、1分間当たりの胸骨圧迫の回数は74回対42回と全く異なった。さらに異なるのが人工呼吸の回数で、トレーニング群は1分間に9回とほぼガイドライン通りの人工呼吸を行ったのに対して対照群は0回.つまり人工呼吸をしなかった。この論文では筆記試験も行っていて、トレーニング群では正答率が20%だったのに対して対象群では5%であった。これを13歳の中学1年生での結果と比べると、理論的な知識は中学1年生の方が理解が高かった。さらに、10歳であっても、年に1回の訓練と年に2回の訓練では技術的に差は見られなかった。また医療関係者が教えても学校の先生が教えても習得内容に差がなかった。

これらの結果から筆者らは10歳であっても心肺蘇生法は身につけられ、また年に1回の訓練で技術を維持できること、学校の先生も60分の訓練で満足できる指導者になれること、若い時期の訓練は失敗への不安を軽減させ患者を助ける意欲を高めることことができるとしている。

年少だと押しが弱い

次にイギリスからの論文2)を紹介する。これは年齢によってどれくらい胸骨圧迫ができるか検討したものである。学年は小学4年生(9-10歳)55名、小学6年生(11?12歳)54名、中学2年生(13-14歳)48名。男女比はほぼ半々である。胸骨圧迫は少なくとも20分かけて指導者1名に対して児童は4名の割合で教えた。

年齢別に胸骨圧迫の質を検討している。基準はガイドライン2005の38-51mm, 100回である。回数については、正しかった割合が小学4年生の18%、小学6年生の26%、中学2年生の30%と次第に上昇した。深さについては年齢差が最も顕著であり、小学4年生は規定に達する深さを押せる児童が全くいなかったのに対し、小学6年生では19%、中学2年生では45%が規定の深さまで押すことができた。押す深さについては児童の年齢、身長、体重に比例していた。手の位置は小学4年生が最も正しく58%、小学6年生46%、中学2年生52%であった。筆者らは言う。「小学4年生では規定の深さまでは押せないが、胸骨圧迫の理論は学ぶことができる。成長すれば自分がしっかり胸骨圧迫できるようになるだけでなく、周りの大人に方法を伝えることもできる」

2年生以下では難しい

日本人小学生の胸骨圧迫の深さでは炭谷らが詳細な報告3)をしている。これによると1・2年生は1cm程度しか押すことができない。3年生で2.4cm, 4年生で2.1cmであり、これはイギリスの小学生とほぼ一致する。5年生では2.5cmと押す深さが増したが、6年生になると逆に1.7cmと深さが減っている。この研究ではリズムはメトロノームを使っているので検討していない。押す深さと身長体重は小学6年生以外は相関していた。小学6年生については思春期を迎えて周りの目を気すること、胸を押すという行為が恥ずかしいことから小学5年生より押せなくなったものとしている。またこの論文では経時的に押す深さを測定してグラフにしている。これによると与えられた胸骨圧迫時間が1分なのに対して、開始後20秒から押す深さが減少してくることが分かる。小学生ではガイドライン2010でいう1?2分より速く胸骨圧迫を交代する必要がある。

小学生から積極的に教えよう

炭谷らの論文には私もデータ取りに参加していた。5年生以下の小学生はとても素直で、筆者である炭谷氏らが「こうやって押すんだよ」と指導すれば素直に真似してくれた。6年生の女子には手を焼くところがあったが、これも同級生を気にしているからと分かるので、次の講習のときには一人一人仕切りを立てればちゃんとやってくれるだろう。驚いたのは、こうやって恥ずかしがってやっていた子供たちが、中学校で行なった講習会では積極的に胸骨圧迫をしていたことである。炭谷氏らとデータを取った翌年、同じ町の中学校で救命講習を頼まれて参加してきた時のことである。最初に「講習で心臓マッサージやったことある人」と中学生全員に尋ねたところ、中学1年生たちが全員自信を持って手を挙げた。実際に人形相手にやらせてみても、男女とも臆することなく上級生の前で自信たっぷりに胸骨圧迫を行っていた。胸骨圧迫は手技が単純なので、まねごとでもいいから低学年のうちに経験させるべきだと感じた。

これが高校生になると教えるのはかなり難しくなる。松田ら4)によると受講態度は不真面目で、胸骨圧迫も手抜きが多かったとしている。高校生にとって心肺蘇生は縁のない手技だからだ。友人たちをおしゃべりに興じる高校生に対してはこっちも教える気が起きない。小学生のうちから蘇生術を教え、中学高校はそれらの手技の再確認のために短時間だけ講習を行うのが教える方・教わる方両方に負担の少ない方法だろう。

文献

1)Resuscitation 2012;83:619-25
2)BMJ 2007;334:1201-1203
3)プレホスピタル・ケア 2008;21:57-63
4)プレホスピタル・ケア 2009;22:82-86


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12.6.9/9:54 PM


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