170820_2014年版グラスゴーコーマスケール

 
  • 184読まれた回数:



170820_2014年版グラスゴーコーマスケール

OPSホーム>最新救急事情目次>170820 外傷でのログロールは廃止すべきという論文

170820 外傷でのログロールは廃止すべきという論文

月刊消防のご購読はこちらから

PTCJ, JPTECで紹介され今や患者の移送手段として標準となったログロール。今回メインで紹介する論文はログロールをやめて別の方法を使おうと提案するものである。

外傷対応ガイドラインからログロールを外すべき

真っ正面からログロールを批判しているアメリカからの総説1)を紹介する。2012年時点でのログロールの評価をまとめたものである。この論文でのログロールは最低で4人が必要としている。頭に1人、体に2人、ボードを差し込むのに1人であり、今回紹介する論文は全て同じである。日本の救急隊のように3人でログロールをすることは考えられていない。ロールでは患者は30。から90。に体を引き起こされる。

現在、外傷患者の25%で脊髄損傷を疑われる状態にある。このため体位移動による損傷の悪化を避けるために効果的な移動方法が求められる。「ログロールについては否定的な論文が少なくとも25年前から出されていたにもかかわらずこの手技は今も生き残っている」とし、危険である理由を1つ、生き残っている理由を1つ上げる。

危険である理由は「解剖学的に無理があること」であるとし、説明を加える。「ログロールが危険なのは、人体の解剖で説明可能である。頭、肩、体感、骨盤それぞれの移行部で体表は大きくくねっており、脊髄をまっすぐ保つことはとても難しい。加えて手で頭部を固定した人間の行うべきことは体幹の動きに合わせて頭を前額面と矢状面の2方向(2次元)で移動させることである。頭の動く軌道が間違っていたり体幹の動きと合っていなければ、首は大きく動いてしまう。これに対してLift and slideでは体は鉛直方向に上下させるだけの1方向(一次元)で済むため首が捻られる可能性は少ない」。

生き残っている理由は「神経学的な評価がなされていないため」としている。ログロールによる二次損傷を発見するためにはログロール前の神経学的所見を把握しなければならないのだが、多くの例では外傷センターについて初めて神経学的評価がなされるため、現在の神経学的所見がログロールによって発生・悪化したのかがわからない。このことは施行者が間違った保証を与えることにも繋がる。先輩は「ログロールで問題が起こったって聞いたことないからね」と言う。鈍的外傷患者の4%は脊椎の骨折と神経学的症状を伴っている。逆に言うと残り96%は脊髄の保護をせず振り回したとしても症状は出ないし当然悪化もしない。症例を経験すればするほどログロールの危険性を忘れるようになってしまう。

他の方法はどうか

論文1)では他の方法との比較もしている。Lift and slideは頸椎保護が利点で、人数が必要なのが欠点である。スクープストレッチャーは4人で乗せることができ、頸椎保護に利点がある。欠点としては患者が斜面や柔らかいところに寝ているとストレッチャーの左右の結合が難しいことがある。これらの欠点をふまえて、筆者らは状況別にバックボードへの乗せ方を書いている。患者が仰臥位であればLift and slideを用いる。患者が硬くて水平な面に寝ているのであればスクープストレッチャーを選択する。バックボードから降ろす時は病院で人数が確保できるので6人以上でLift and slideを行う。

最近の論文でもログロールは否定的

この総説が出た後もログロールに関する論文はいくつも出ている。アメリカンフットボール選手の頸椎損傷を念頭に、死体にヘルメットとプロテクターを着けて実験した結果がある2)。死体そのままと、第5第6頸椎感の靭帯を切って手術的に頸椎損傷を作った状態で首の動きを調べると、頸椎損傷では首の動きが前後で3倍、左右で3倍、回転で4倍になった。次にログロール、LIFT and slide, 8人によるリフトスライドを比較すると、前後の動きはリフトアンドスライドで大きかったものの、左右とねじれはログロールが有意に大きかった。

ログロールの人数を増やしても首の動きは改善しない。救急隊員に助手を一人与えてログロールをする場合と助手を3人与えてログロールする場合とで、首の動きは変化しなかった3)。

ネックカラーも廃止せよ

初めに紹介した総説1)は2012年発表でガイドライン2015より前になるが、ネックカラーは無効であることをはっきり書いている。ネックカラーは運動負荷に対し頸椎の移動を抑える力はないこと、さらに頸椎の破砕骨折ではネックカラーが頸椎の捻りを誘発してさらに損傷を与えることが指摘されている。その上で、ネックカラーの最も大切な効果は頸椎を守ることではなく、周囲のスタッフに「患者は首をケガしている」ことを知らせることである、と皮肉を込めて解説している。

ログロールの今後

隊員が3人しかいない状況で患者を移送媒体に移すには、これからもログロールは手段の一つとなるだろうが、スクープストレッチャーなどが改良され、またログロールの危険性が認識されて行くにつれログロールをする機会は減って行くだろう。自分が骨折していたとしたら、ログロールよりログリフトをやってもらいたい。2次元に捻られるより1次元で上下にずれる方がまだ危険が少ないと思うからである。

文献
1)Surg Neurol Int 2012;3(suppl 3):S188-97
2)Orthop J Sports Med 2015;3:2325967115601853.
3)Prehosp Emerg Care 2015;19:116-25


OPSホーム>最新救急事情目次> 170820 外傷でのログロールは廃止すべきという論文


https://ops.tama.blue/

17.8.20/7:20 AM

]]>

コメント

タイトルとURLをコピーしました