140726学校での心停止

 
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140726学校での心停止

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以前プレホスピタル・ケア(東京法令出版)に「中学校での救命事例」1)を投稿したことがある。この症例報告では発見が早かったため生徒は後遺症を残さず回復した。
今回は学校での心肺停止症例について、アメリカからの報告と日本の報告を読んでみる。

アメリカからの報告

2013年4月に出たアメリカ・ミシガン州からの報告2)。筆者らは学校(k-12、幼稚園から高校まで)での心停止について、心停止の状況とのその転帰に加え、そこにいた児童生徒・教員たちがどのように蘇生を行ったかを調査した。調査方法は心肺停止データベースに登録のある児童生徒が在席する(した)学校への電話聞き取りで、2005年8月から2011年8月までの症例についてウツタイン様式によるデータと転帰を収集した。バイスタンダーや保護者に対する電話聞き取り調査は心肺停止事例ごとに実施した。また心停止の報告書(バイスタンダーCPRの有無、AED設置の有無、心肺蘇生訓練の状況、AEDを使用する上での障害など)も入手した。

調査期間中、対象となる地域では30603例の心肺停止が発生した。そのうちk-12での症例は47例,全体の0.15%であった。47例のうち、約半数の21例が高校であり、また16人が未成年であった。目撃割合は高く39例,全体の83%は卒倒を目撃されている。バイスタンダーCPRは36例が受けている。AEDを装着した時点では27例が心室細動であった。28例は授業のある日に起こっていた。転帰としては、生存退院が出来たのは15例,全体の32%に過ぎなかった。電話での聞き取りが可能だったのは47例中30例で、この30例のうち19例の学校でAEDが配置されていた。AEDのある学校の84%はAEDを含めた蘇生訓練を行っていたが、実際の心停止に対してAEDが用いたられたのは19校中11校の症例だけであった。AEDが付けられた11例中8例が心室細動で、生存退院できた4例も全て心室細動であった。AEDを使わなかった8校で使わなかった理由を尋ねたところ様々な理由が返って来た。

筆者らは、AEDが使われることは少ないこと、使われれば高い生存率(11例中4例)が得られたことから、蘇生訓練を通じてAEDの認識を高めることが必要としている。だが同時に、学校全体に蘇生法を含めた救急時の対処方法を浸透させる難しさについても言及している。

日本では

データは少し古いが、平成22年の東京消防庁管内の学校において発生した心停止症例をまとめた報告3)がある。ここで言う学校とは小学校から大学・専門学校まででアメリカの報告とは対象が異なる。1年間で発生した心肺停止症例は19例であった。19例のうち在校生は9例、教職員は10例であり、屋外が10例、屋内が9例であった。バイスタンダーCPRがなされたのは15例、されなかったのは4例であった。学校内の心停止症例のうち75%がAEDの装着を受けていた。

日本のデータは私の探し方が悪いのか、ちゃんとしたものが見つからなかった。文部科学省4)によると、学校におけるAEDの普及率は平成20年度末で全国の学校の67%にAEDが設置されている。今は平成26年だからある程度の人数のいる学校には設置が完了しているはずである。

学校での心停止というと児童生徒ばかりかと思ったら、学校の教職員や学校を訪れた業者の心臓が止まる方が多いのには驚いた。父兄以上の年齢の人が学校の行事中に心肺停止になってそのまま死亡しても、家族は「仕方がなかった」と感じるだろう。だが問題は児童生徒が学校内で心肺停止になり、そのまま死亡したり後遺症が残ったりする場合である。

AEDを使わなかったら裁判になるか

救急関係の連載を持っていたり、学校へ出かけて行って講演したりしていると、世の中の誰でも心肺蘇生ができてAEDも恐れなく使えるものと思ってしまう。だが町内会の花見に出て近所の人たちと話をすると、それは限られた集団の中だけの話だということが認識できる。心肺蘇生のやり方を知っていても目の前にいる人に蘇生をする勇気のある人はまれだし、AEDだって普通の人に付けただけで感電するのではと思っている人が大勢いる。心肺蘇生法も多くの人は知っているのだが、知っていても実際やれるかどうかは別の話である。学校でも程度の差こそあれ状況はそれほど変わらない。児童生徒の健康維持が自分の仕事の領域である養護教諭は熱心に心肺蘇生法を勉強するが、他の先生たちの関心はそれほど高くはない。しかし実際に心肺停止に当たるのは養護教諭とは限らない。

インターネットで探すと学校での心肺停止で裁判になっているものはいくつかある。私も知っていたものに、平成17年に心臓震盪のあと後遺症が残った高校生とその両親が県を相手に約3000万円の損害賠償を要求した裁判がある5)。原告は「野球部部長と監督は心臓震盪の危険を知っていなければならないし、AEDも持ち運ばなければならない」とし、また「心臓震盪で倒れた後も蘇生行為の開始が遅れ、消防への通報も遅れた」と訴えていた。これに対し裁判所は当時は心臓震盪およびAEDの知識は広まっていなかったこと、胸骨圧迫は容態が急変した後すぐ開始されたとし、原告の訴えを退けている6)。

この事故から既に10年近くが経ち、心臓震盪はともかくAEDは広く定着した感がある。そのため「子供が死んだのはAEDを使わなかったからだ」という裁判も起こされている7)。記事によるとが、児童が倒れたときには先生や校長が駆けつけて胸骨圧迫や人工呼吸をちゃんと行っている。だたAEDについて持って来たけど使わなかったから児童が死んだ、だから学校に責任がある、という訴状になっている。AEDを使ったら本当に助かったかは誰にも分からない。だが、AEDを使うことは医者や救急隊員以外にとって非常に勇気の要ることなのは間違いない。

文献

1)プレホスピタルケア 2011;25(1):4-7
2)Resuscitation 2013;84:426-9
3)公益財団法人 日本学校保健会報告
4)文部科学省 「学校の安全管理の取組状況に関する調査」及び「学校における自動体外式除細動器(AED)の設置状況調査」について」平成21年3月26日
5)信濃毎日新聞2008年1月9日
6)第891回長野県教育委員会定例会会議録 下伊那農業高等学校損害賠償請求事件の判決について
7)読売新聞2013年10月5日


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14.7.26/11:15 AM

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