140727脊髄損傷からの機能回復

 
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140727脊髄損傷からの機能回復

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 この原稿を書くためにインターネットを見ていたら、脊髄損傷の脊髄に電極を埋め込んで動かすようにするという記事を発見した。これはアメリカのケンタッキー州ルイビル大学での試みで、4名が被検者になっているという。動画に出ていた一人は自分の意志で左右の足を挙上できることを示していた。

 一度損傷を受けた脊髄が機能を回復するのは最初の数ヶ月が限度で、半年を越えると症状は固定してしまう。脊髄損傷を根治させるためにはiPS細胞などで新たに神経のネットワークを再構築する必要があるが、細胞を損傷部位に定着させるためにはウイルスを使うこと、iPS細胞を作る過程で埋め込んだ遺伝子でiPS細胞が癌化する可能性があることなどから、脊髄損傷患者でのiPS細胞の応用はまだまだ先の話である。今回は機能回復に焦点を当て、現在試みられている方法を紹介したい。

横隔膜のペーシング

脊髄損傷でも生きて行くことはできるが例外は上位頸髄の損傷である。第3頸髄より上の損傷では横隔膜が麻痺するためそのままでは死亡する。これを助けるには過去には機械的人工呼吸を続けるしかなかったものが、現在は脊髄や横隔膜に電気信号を送って横隔膜を収縮させる方法がある。紹介する論文1)では31例についての概要を掲載している。

横隔膜ペーシングを受けた患者は17歳から65歳までの29例で、平均年齢は31歳。脊髄損傷となった原因は交通事故7例、ダイビング6例、銃創4例、落下4例、運動時の外傷3例、自転車外傷2例、重いものが落下して下敷き2例、バイク1例である。全例人工呼吸器で生命を維持していた。横隔膜を動かすための手術は受傷から3日から112日の間に施行された。刺激装置は胸腔鏡手術のうえ取り付けられる。手術中に横隔神経がちゃんと生きているか、どの部分を刺激すれば効率よく呼吸ができるかを確認したうえで電極が横隔神経に縫合される。7例では横隔神経そのものの損傷、もしくは横隔神経運動ニューロンの梗塞により刺激装置の装着は不可能だった。残り22例のうち、16例では平均10日で人工呼吸器が不要になった。不要にならなかった6例では、2例は半年後に呼吸器から離脱し、3例は日中だけ呼吸器が不要になり、1例は転院して呼吸器リハビリに励んでいる。さらに特記すべきことに、22例中8例では全く呼吸が回復して刺激装置も不要になった。

8例で刺激装置も不要になるまで回復したのには驚かされる。この方法は脊髄損傷だけでなく側索硬化症にも用いられている。

従来は筋肉に電極を埋め込んでいた

電気で足を動かそうという試みは1961年に初めて発表された。これが実用段階に達したのは1980年代になってからである。日本では秋田大学が積極的に治療を行っている2)が、秋田大学では電気刺激を脊髄に行うのではなく、筋肉に電気を流すことで目的の筋肉を収縮させている。電極は皮膚に貼付けたり筋肉に埋め込んだりする。アメリカでは体に電極も電源も完全に埋め込むものが主流だが、日本では電極を筋肉に埋め込んで電線を皮膚から出す経皮電極が主流という。

筋肉に直接電気をながせば確実に筋肉は収縮する。しかし筋肉全体が収縮するためには多くの電極と高い電圧が必要である。この方法とは異なり、神経を刺激できれば1本の電極に少ない電気を流すだけで広い範囲の筋肉を収縮させることができる。装置も小さくすることができ、体に埋め込むことも、長期間電池で動かすことも可能となる。

電気で神経が再生する

横隔神経麻痺の例は、神経は電気刺激を受ければ機能が回復する可能性があることを示している。神経突起は電流が流れている環境ではマイナス電極に向って成長することがわかっている。これは膜の持つ電気勾配のためであるとか、電流によりいくつかの成長因子が分泌されるためとかいくつかの仮説が提唱されているようだが、はっきりしたメカニズムはわかっていない。

2012年にScienceに掲載された論文3)では、不完全脊髄損傷により下肢麻痺を起こしたラットに対し、損傷部位の下流に電極を埋め込み電気信号を流すこと、ラットにハーネスを付けて足だけで歩けるようにしてリハビリを行ったことで個体差はあれども自分で歩けるようになったと報告している。実験ではラットの第7胸髄と第10胸髄の間で不完全麻痺を起こさせ、腰髄以下で電気刺激を加えることで胸椎損傷部での神経ネットワークの再構築が行われ、歩けなくなったラットが歩けるようになったとしている。

逆に、脊髄に対する電気刺激を行っても、効果があるのは通電の間だけで、電気を切れば効果は消失するという報告4)もある。

目標の大切さ

Scienceの研究責任者はマスコミのインタビューで面白いことを語っている。最初じたばたしていたラットが歩けると気づいた時には「僕、歩けるよ!」とビックリする表情をすること、歩くために「最も効果的だったことはラットの目の前に置いたチョコレートだった」としていることである。

手の届く目標が大切なのはラットも人も変わらないらしい。

文献

1)J Trauma Acute Care Surg 2014;76:303-9
2)Akita J Med 2009;36:1-7
3)Science 2012;336:1182-5
4)Lancet 2011;377:1938-47


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14.7.27/10:41 AM

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