140727 口頭指導で直面する問題

 
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140727 口頭指導で直面する問題

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今回は口頭指導の話である。総務省消防庁ではこの記事が出るのと同時期に通信員対象の教科書を発行する。内容は消防や救急のシステムから解剖生理、口頭指導の仕方など、もれなく詳しく書いてあり、内容はすばらしい。ただもっと絵があったら良かったのにとも思う。

口頭指導ではまず患者が本当に心肺停止なのか、心肺停止ならどうやって心肺蘇生を行わせるのかが重要となってくる。今回は口頭指導で直面する問題を考えてみたい。

難しいのは呼吸の確認

口頭指導で難しいのはなんといっても心肺停止の確認である。口頭指導でどの部分が最も時間を食うかを調べたイギリスの報告1)がある。筆者らは心肺停止患者の口頭指導ではマニュアルを用意しており、一つ一つ順を追って確認していけば最後は人工呼吸付きの心肺蘇生が出来るようになっている。そこで、実際に119番通報でCPRの口頭指導を行った47例で、その録音からどの行為にどれだけの時間がかかったかを計測した。その結果、最も時間がかかったのが気道確保を行った上での呼吸の有無の確認で59秒、次に心肺蘇生のやり方を教えるのに46秒であった。逆に最も短い時間で済んだのは患者の年齢を聞くことで6秒であった。

死戦期呼吸は60%で見られる

心肺停止の確認が難しいのは、死戦期呼吸と言われる、心停止直後に見られる呼吸に似た運動(呼吸様運動)が出現するためである。奈良から出た報告2)では死戦期呼吸の出現頻度を調べている。筆者らは口頭指導で心肺蘇生を指導した症例のうち、死戦期呼吸がどれくらいの頻度で見られたか検討した。検討期間は2007年1月から2009年12月まで、この期間に奈良県内で発生した目撃のある心肺停止を対象とした。119番通報後に心肺停止となった症例は除外した。対象となった心肺停止症例は283例。このうち169例、60%が何らかの呼吸運動をしていた。残りの114例、40%は呼吸運動をしていなかった。呼吸をしているとした60%の内訳は、「息をするのがつらそう・難しそう(difficulties in breathing)」が13%、「呼吸が弱い」が11%、「いびきをかいている」が8%、その他が6%で、残り22%は呼吸はしているが観察者がその状態を表現できなかった。口頭指導の実績は、呼吸がないとされた症例の84%で心肺蘇生の口頭指導が行われていたのに対し、呼吸があるとされた症例では28%が口頭指導を受けただけであった。

過去の報告3)では、死戦期呼吸は33%、3人に一人とされていたのだが、今回の報告はこの報告の約2倍、心肺停止患者の6割に呼吸様運動が見られることを示した。つまりそれだけ心臓が動いているか止まっているか判断が難しい症例が多いことになる。

こちらから出向く

電話の向こうから指導されてもやったことない・見たことないことを理解するには時間がかかるのは仕方がないだろう。バイスタンダーにCPRを口頭指導をするのに加え、CPRが出来る人が迅速に現場に向かうシステムも日本の自治医大から提案されている4)。これは非番の消防職員にスマートフォンを持たせ、119番通報が心停止だった場合、スマートフォンで連絡を受けた人が現場に向うというものである。実験的に行われたもので、招集から現場到着まで3分37秒で到着した。これは救急車が到着する時間の2/3である。移動距離は3.4kmであった。

過去にも同じような報告を読んだ覚えがある。だがそれほど普及していないのは、人的資源の問題が大きい。大都市で頻回に呼ばれるようではボランディアは続けられないだろう。

家族は何もできない

これも日本の筑波大学から、興味深い報告が出ている5)。バイスタンダーが家族だった場合と他人だった場合では、家族の方が一生懸命蘇生するだろうから予後が良くなるのではと想像できる。だが家族がバイスタンダーなら慌てふためいて何もできないとか、骨折を恐れるあまり胸骨圧迫は思い切りできないのではという考えもある。この論文では2004年1月から2009年12月までの日本のウツタインデータを用いて検討している。この期間で調査対象となった症例は非外傷患者で目撃のある卒倒症例で559例。このうちバイスタンダーCPRを受けていたのは全体の41%である231例である。バイスタンダーCPRを受けていた割合は、他人が目撃したもの61%、家族が目撃したもの34%で、家族が卒倒を目撃しても何もできない例が多いことが示された。また他人がCPRを行った場合には人口呼吸を加える割合もAEDで除細動を試みる割合も高かった。口頭指導の割合は時期が下がるにつれて増加した。神経学的後遺症の程度が軽い患者の割合は、他人がCPRをした群では年々増加してきたが家族がCPRをした群では上昇は見られなかった。口頭指導の有無で生存率に差は見られなかった。

家族に関しては過去に言われてきたものと同じ結果が出た。慌てるため何もできない、ということである。これは口頭指導であっても同じで、取り乱す家族をなだめるために相当の時間を費やすこと、さらにこの論文では触れられていないが、卒倒の目撃から119番通報するまでの時間も長いと聞いたことがある。つまり119番より身内、娘であったり息子であったり、に真っ先に電話してしまい、119番通報が遅れるのである。

かくいう私も、義理の父親が腰椎骨折したときには義父は最初に自分の娘(私の妻)に電話をした。言うは易し、である。

文献

1)Resuscitation 2014;85:49-52
2)Emerg Med J 2014;0:1-4
3)Circulation 2008;118:2550-4
4)Yonekawa C:J Telemed Telecare 2014 Feb Epub
5)Resuscitation 2014;85:315-9


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14.7.27/10:52 AM

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