030803除細動前のCPRは有効である

 
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030803除細動前のCPRは有効である

除細動前のCPRは有効である

 私が以前この連載1)の中で「電気ショックの前のCPRが心拍再開に有効である」という論文2)を紹介したところ、美方(みかた)広域消防事務組合消防本部の谷田英樹救急救命士から質問を頂いた。
 「AHAG2000では、除細動前の1分間のCPRは評価未確定という結論であり、またACLSのアルゴリズムにも初回除細動前にどの程度CPRを継続するか記載がありません。そこで、AHAG2000を踏まえた、初回除細動前の90秒間のCPRについて、ご意見を伺いたいと思います」。
 そこで今回は除細動前のCPRについて考えてみたい。

やはり除細動前のCPRは有効

2003年3月のJAMAに新しい論文が掲載された。Wikら3)はオスロにおいて病院外心室細動を起こした患者200名を無作為に2グループに分けた。すなわち救急隊到着後ただちに単相式除細動を施行する標準ケア群96名と、最初に救急隊員が3分間のCPRを行ってから除細動を施行するCPR群である。最初の除細動が成功しなかった場合には標準ケア群では1分間の、CPR群では3分間のCPRを行ってから再度除細動を行った。またそれぞれの群にサブグループを作成し覚知から現着まで5分以下と5分超で結果を比較した。
 患者背景の検討では、患者が倒れるところを目撃した割合(標準ケア群94%:CPR群91%)・バイスタンダーCPRの割合(同56%:62%)、倒れてから救急隊が到着するまでの時間(ともに12分)、初めての除細動から自発循環が回復する時間(同13分:14分)、エピネフリン(ボスミン)の使用量(ともに5mg)、リドカインの使用者の割合(ともに21%)は両群で差がなかった。救急隊到着から初めて除細動を行うまでの時間は当然差があって標準ケア群2分に対してCPR群は4分だった。退院まで生存した患者は標準ケア群で15%、CPR群では22%で有意差はなかった。入院時に自発循環が回復した割合も差はなかったし、1年生存率も差はなかった。サブグループの比較では、覚知から現着まで5分以下では上記の項目に両群で差はなかったが、5分超ではCPR群の方が標準ケア群より自発循環が回復しやすく、さらに退院までの生存率も高く1年生存率も高かった。またWikらは、標準ケア群では覚知から現着までの時間が延びると指数関数的に生存率が低下するがCPR群では生存率があまり変わらないこと、覚知から現着まで4分までは標準ケア群で生存率が優れているが4分を超えるとCPR群の方が生存率が高くなることを示した。
 以前紹介した論文2)ではCPR時間は1分だった。今回は3分。それについて著者3)は除細動の準備の時間や連続して除細動をする場合の心筋の負担を考えて3分としたと述べている。

現着までの時間で処置が変わる

 以前に紹介した論文2)は以下の通りである。
 「アメリカ・シアトル市では、最初に到着した救命士がすぐ除細動するよう15年前からマニュアルを変更したが、生存率は逆に悪化してきた。除細動をする前にCPRを数分行うほうが転帰がいいという動物実験から、人間でも除細動の前に必ず90秒間CPRを行うことにした。その結果、生存率と神経学的転帰が向上した。特に覚知から現着まで4分以上かかった症例で顕著であった。」
 この論文を受けて、JAMAでは去年心室細動発作発生から処置開始までの時間と蘇生手技についての論文を掲載した4)。すなわち、発生直後から4分までを「electricphase」と名付けすぐに除細動をすること、4分から10分までを「circulatory phase」と名付け除細動の前にCPRを行うこと、10分以降を「metabolicphase」と名付け虚血性代謝産物によって除細動が困難になるとしている。

なぜ除細動前のCPRか

イヌ5)やブタ6)を使った動物実験では早くから除細動前のCPRが有効だとされて来た。理由はCPR手技によって心筋にエネルギー(ATP)が供給されること、アシドーシスが改善されること、心室細動の波形が大きくなって除細動に反応しやすくなることが挙げられている3)。
 これに対して、ヒトについては除細動前CPRは効果が確認されていないとされている。この差は臨床研究の持つ難しさに起因している。動物実験では主観を入れないように研究を組み立てることができるが、ヒトではそうはいかない。無作為割り付けには「どうして救命に悪いことをするのか」と言う倫理的困難が伴うし、大規模研究になると患者数をそろえるまでに膨大な時間と費用がかかる。また結果の解釈にも問題がある。「CPRなしですぐ除細動を」という主張は集中治療室患者の心室細動治療の結果出て来たもの7)らしく、目の前で心室細動を起こす「electricphase」の患者と、救急車到着に時間を要する「circulatory phase」の患者では治療法が異なるのは当然であろう。またバイスタンダーCPRが6割近くの国と日本では、結果をそのまま受け取ることはできないと思われる。
 いずれにせよ、特に現着時間の解釈にはまだまだ症例数が足りない。4分の妥当性も揺れることだろう。さらなる研究が望まれる。

引用文献
1)月刊消防1999年3月号pp88-9
2)JAMA 1999;281:1182-8
3)JAMA 2003;289:1389-95
4)JAMA 2002;288:3035-8
5)Circulation 992;85:281-7
6)Ann Emerg Med 2000;36:543-6
7)Resusucitation 2000;46:73-91


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