140727AED:技術と配置

 
  • 79読まれた回数:



140727AED:技術と配置

OPSホーム>最新救急事情目次> 140727AED:技術と配置

140727AED:技術と配置

月刊消防のご購読はこちらから

AEDは今やどこでも見かけるようになった。学校への配備はほぼ完了したし、デパートにいっても駅に行っても集会場に行ってもAEDがある。今回はAEDに関する情報をお届けする。

波形解析の進歩

初めは電気工学の話。AEDが初めて実用化された頃は心電図波形の解析精度は今よりずっと悪くて、100回に1回は間違えるとか悪口を言われていた。現在のAEDが全く間違えないのは心室細動の電気的特性が詳細に解析されているからである。さらに現在は心筋の電気的振る舞いも明らかになっている。つまり

(1)心室細動では心筋はばらばらに収縮しているのではなく、いくつかまとまりになって収縮している
(2)それらの収縮では優位な(dominant)周波数があり、これに従って収縮する
(3)波の部分によって除細動の成功率が異なっていて、波が上昇する部分で放電すれば高率に除細動できる。

これらは心臓に直接電極を刺すことによって得られる知見である。この知見を臨床に応用できるか試した論文1)を紹介する。筆者らはブタを用い、心電図波形の上昇する部分で除細動の成功率が上がるか試してみた。しかし上昇部分に放電を行った場合と、波形に関係なくランダムに放電を行った場合で成功率に差は見られなかった。

表面電極で捉えられる心室細動の心電図波形はたくさんの波形の集まったものである。筋肉一つ一つを見ればブラスの波形もあればマイナスの波形もあって、それらを全部足したものが表面波形として表示される。表面波形で波が上を向いていれば個々の心筋の波がどうあれ除細動の成功率は高くなると思うのだが、そう簡単なものではなさそうだ。

他には波形解析により除細動後に除細動が成功しているか失敗しているか迅速に判断できるアルゴリズムを開発したり2)、一定期間の心室細動の電圧を積算してどれだけの電位があれば除細動が成功するのか分岐点となる電圧を求める試み3)も行われている。

単相式は二相式と変わらない?

次はとっくに忘れ去られている単相式の除細動機の話。現在のAEDを初めとする除細動器はすべて二相式である。これは二相式の方が除細動の成功率が高いためである。また出力が小さくてすむため心筋に対するダメージも少ないだろうと考えられている。ところが論文を調べて行けば単相式も二相式も除細動率に差はないという論文4)が出ている。これは過去の論文を集めて解析したもので、無作為割り付け研究か一定集団を全て対象とするコホート研究による論文を収集し研究対象とした。その結果、無作為割り付け研究の4つの論文から572例の結果を得ることができた。結果として、除細動成功率、心拍再開率、生存退院率のすべてで単相式と二相式で差は見られなかった。

もし結果がこの論文の通りであったとしても単相式が消えて行くのは時間の問題だろう。現在売られている除細動器は全て二相式であり、単相式は病院で過去に買ったパドル式の除細動機に限られるからだ。それにパドル式の除細動器は心室細動を術者が判断してスイッチを押すが、AEDは心室細動を器械が判断してくれる。人が判断するより器械の方が間違いが少ない。

休日と夜間はAEDの半数が使えない

つぎは問題提起にもなる論文5)。AEDは人の多く集まるところに置かれている。となれば人が少ない時間や曜日は置かれている場所が閉じられることになる。学校も公民館も夜や休日は普通は閉じている。この時間に病院外心停止が起きた場合、せっかく置いてあるAEDは使えないことになる。

論文ではデンマークのコペンハーゲンに初めて公衆AEDが配備された1994年から2011年までの公衆AEDの使用状況と病院外心停止1864例のデータを集めて比較している。病院外心停止の62%は夕方から朝にかけてと週末に発生している。執筆時点でAEDは552台あって、そのうち年中無休で使えるのはわずか9%である。平日の日中に使えるAEDは96%である。AEDが年中無休で使えるとした場合、1864例中の29%、537例はAEDが使える公共の場所で心停止となっている。ところが現在のようなAEDのある施設が閉まってしまう状況では、週末の日中に公共の場で心停止となった217例中9例(4%)がAEDが使用不能となり、夕方から朝にかけて公共の場で心停止になった320例中171例(53%)がAEDが使用不能となる。夕方から朝にかけては公共の場での心停止の62%が発生している。この結果から筆者らは、AEDをどこに配置するかだけではなく、必要な時にいつでもAEDが使えるような配置を考えるべきだとしている。

レンタルAED

最後に日本でのレンタルAEDの活躍を示す論文6)を紹介する。日本のレンタルAED市場は年々拡大し、2010年には477のイベントで847台が貸し出された。2008年から2010年までを合計すると1333のイベントで2204台が貸し出された。この3年間でAEDが使われたのが17回、除細動に至ったのが2例(海とマラソン)で生存は1例であった。この1例は東京マラソン2009で心停止となったお笑いの松村邦洋かなとも思う。

AEDの一日レンタルは7000円程度である。マラソンやトライアスロンでは必ず準備されるようになった。これから景気が良くなってくればイベントも増えてレンタルAEDの活躍の場ももっと増えるだろう。

文献

1)Euro Heart J Acute Cardiovascular Care 2012;1:285-90
2)Circulation 2013;128:995-1002
3)Resuscitation 2013;84:1704-7
4)Am J Emerg Med 2013;31:1472-8
5)Circulation 2013;128:2224-31
6)Ohta S: J Cardioi 2013 Epub


OPSホーム>最新救急事情目次> 140727AED:技術と配置


https://ops.tama.blue/

14.7.27/10:56 AM

]]>

コメント

タイトルとURLをコピーしました