161106アドレナリンは消えるかも知れない

 
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161106アドレナリンは消えるかも知れない

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アドレナリンは消えるかも知れない

ガイドライン2015が出てから1年以上が経過した。目立った変更点は胸骨圧迫の深さとテンポだけでほかに目立った変更点がなかったため、たいした話題にもならないで現在に至っている。

ほかの原稿の執筆でこのガイドライン2015を見直したところ、奇妙な記載を発見した。成人の二次救命処置のアドレナリンの項目で、「心停止患者にアドレナリン投与を提案する」とした上で、「この勧告は長期転帰に関する質の高いデータが出るまで、現状を変えようとするものではない」と書いてある1)。提案するくせに現状維持の言い訳をしている、この奇妙な部分を考えてみたい。

目次

提案の前の文章では

なぜこんな言い訳がましいことを書いてあるのかというと、その前の「科学的コンセンサス」の部分でアドレナリンを使う意味をはっきり提示できなかったからである。
(1)生存退院率についてはプラセボ(偽薬)との比較で有益性も有害性も確認できなかった。
(2)神経学的転機良好な退院(手助け不要で日常生活を送ることができる)についても有益性も有害性も確認できなかった。
(3)生存入院(少なくとも救急外来内で心拍が再開し病棟へ運ぶまで心臓が動いていること)ではアドレナリン投与で入院率が高かった。
(4)病院に到着するまでに自己心拍が再開した割合は、プラセボとの比較でアドレナリンを投与した方が再開率が高かった。
以上、(1)から(4)で言えることは、病院外心停止患者にアドレナリンを投与すれば心臓は動き出すが、結局は入院中に心臓は止まる、ということである。

ガイドラインではその次にイタリアのレビューを引用している。そこではさらにアドレナリンの立場は悪くなり、アドレナリンを使った方が生存退院率が下がり、生き残っても神経学的に悪化させる可能性があることが示されている。

ここまで書かれているのにガイドラインで「アドレナリンを使え」と命じている。なぜそんな勧告が出たのかと言えば、「現状を変えようとするものではない」。今のスタンダードを否定することは影響が大きすぎる、というのでこの表現になったのだろう。

最近の論文を見る

アドレナリンが蘇生に役立っていないのではないかという疑問から、多くの論文が書かれている。ウツタイン統計がしっかり整備されている日本のデータがいくつかある。ガイドライン2015発表後に出た論文を拾ってみると
・アドレナリンの病院前投与は患者の神経学的転機を悪化させる2)(東京大学)
・アドレナリンを追加投与させる場合、最初の除細動から2分以内に追加投与すると患者の生存退院率と心拍再開率を低下させる3)(デンマーク)
・アドレナリンを使うのなら早く使った方がよい(国士舘大学)4)
・アドレナリンの投与量と投与回数が多いほど患者の転機も悪くなる(アメリカ)5)
・外傷心停止患者においてはアドレナリンは2時間以上心拍を維持できる割合を増加させ、短期生存率を上昇させる6)(台湾)。
・病院到着前のアドレナリン使用は心拍再開率を高めたが退院時には神経学的転機を悪化させた8)(アメリカ)

良いとしているものもある

ガイドライン2015より前に出された論文の中で、アドレナリンが蘇生に好影響を与えるというものもある。
・除細動ができない病院内心停止ではアドレナリンは心拍再開率・病院内生存率・神経学的良好な生存者の割合を高める7)(アメリカ)

次のガイドラインでは

アドレナリンの効果を真っ向から否定した論文が出たのが2009年、ノルウエーからであった9)。日本からは九州大学から2012年に発表されていて、その内容は・心拍再開率増加・生存退院率低下・神経学的転機悪化であった10)。今やアドレナリンを積極的に進める論文はないとっていい状態である。

ガイドライン2015では「現状維持」でアドレナリンの使用が認められたが、次のガイドライン2020では使用が否定させる可能性もある。

文献

 

1)JRC蘇生ガイドライン2015 第2章 成人の二次救命処置
2)Eur J Clin Pharmacol 2016; 72:1255-64
3)BMJ 2016 Apr 6;353:i1577
4)Tanaka H, Am J Emerg Med 2016 Aug Epubハ
5)Resuscitation 2016;103:125-30
6)Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2015;23:102
7)BMJ 2014;20:348
8)J Crit Care 2015;30:1376-81
9)JAMA 2009;302:2222-9
10)JAMA 2012;307:1161-8


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16.11.6/2:11 PM

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