160808CPRをする側のトラウマ

 
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160808CPRをする側のトラウマ

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 バイスタンダーCPRをやりましょうとの消防の啓蒙により、バイスタンダーCPRの実施率は増加している。啓蒙の効果は出ているのだが、啓蒙された方の、CPRをする側はどうなのだろう。過去にはバイスタンダーCPRをしたのに患者が助からなかった場合には蘇生をした人がうつ状態になるという論文も読んだことがある、

 今回ノルウエイからバイスタンダーCPRを行った20名に対する調査1)が出ているので紹介したい。

バイスタンダー20名

 インタビューの対象となったバイスタンダーは20名である。20名が対処した心肺停止患者は18名であった。20名が対応した心肺停止患者との関係は、血縁関係が2名、知人が8名、見ず知らずの人が10名である(この数字を足すと20になり心肺停止患者18人とは食い違う。この論文では複数で蘇生に当たった例がどれかは明示しておらず、20人がそれぞれ別の人にCPRを施したような書き方になっている)。20名の中には3名の看護師、1名の医療補助員、1名の看護助手がいたが、蘇生を専門とする職種に付いている人はいなかった。心肺蘇生のトレーニングを受けてから実際にバイスタンダーCPRを行うまでの期間は1週間から36年間。また1名は今まで心肺蘇生のトレーニングを受けたことはない。バイスタンダーCPR後、2名は救急隊からの短期のフォローアップを受けていたが、18名は何らのフォローも受けていなかった。心肺停止患者の転帰は、12名が生存、3名が病院内で死亡、2名が現場で死亡確認されている。1名の転帰は不明である。バイスタンダーCPRを行った時からインタビューまでの間隔は6日から13年間、平均5.5年であった。18名は対面の聞き取り調査、2名は電話インタビューである。

バイスタンダーCPRは人生に影響を与える

 バイスタンダー#3は見ず知らずの人を3ヶ月前にCPR。患者は生存。「眠れなくなった。寝ても悪夢を見る。夢は同じ状況で違った結果になるもの。患者は家族であったり友人だったりする。夢で疲れる」。バイスタンダー#6は見ず知らずの人を1年半前にCPR。生死は不明。「痩せた。食べられない。あれ以来、いろいろなものが変わってしまった」。インタビューでは・悪夢を見る・フラッシュバックする・横たわっている患者が浮き出てくる・疲れる・虚脱感に襲われる・混乱する・痩せる、等の言葉が聞かれた。これは「心肺蘇生患者を前にして良い結果を出すためには何ができたか」という葛藤の結果であると筆者らはいう。再びバイスタンダー#6「死について考えるようになった。恐ろしいことに、自分のミスが原因であの患者のように皆のいるところで倒れて、自分のミスのために死ぬ。そんな妄想に取り憑かれている」。一方健康について知識のあるバイスタンダーは、たとえ患者が死亡したとしても自分が行ったCPRについて誇りを持っている。バイスタンダー#2は2ヶ月前に親族にCPRを行ったが死亡している。「結果が良くなくても、(CPRを行えたことは)良かったのだと思う」。仕事や生活に影響を受けたという人もいる。蘇生の現場を思い出しそちらに気を取られることは、職場や家庭では仕事をさぼっていると見られることがある。バイスタンダー#19は12年前に知り合いにCPRを行ったが死亡している。「思い出す。仕事中も。ずっと長い間。自分のやったことを」

結果を知りたい

 全てのバイスタンダーは蘇生相手の結果(転帰)を知りたがる。また多くはその患者に会って話をしたいと思っている。時には結果を家族や同僚から聞くことがあるが、いつまでも結果が聞けるのを待ち続けている。医療関係者なら職場のネットワークを使い、それ以外でも病院で尋ねたり新聞を見たりして結果を知る努力をする。バイスタンダー#13は8年前に知り合いを蘇生し生存させている。「どうなったか知りたかった。新聞では真っ先に慶弔欄を見た。自分がやったことだから」。結果が不明なのはストレスになる。「もし患者が死んでいたら?」という問いにバイスタンダー#3「それでも知りたい。誰だって突然の出来事で苦しんでいるのなら、一刻も早くその苦しみから逃れたいと思うだろう」。バイスタンダー#4は6年前に見知らぬ人にCPRし生存させている。「死んでいたら」の質問に対して「患者の名前は知らなくていい。興味はない。でも回りが私を助けてくれるのだったら、患者の個人情報なんていう陳腐なお約束で情報を遮断しないで欲しい」。バイスタンダー#14は1週間前に知り合いを蘇生させた。患者は生存している。「ずっとのそのことばかり考えています。携帯に連絡を待っているのですが連絡はありません」。バイスタンダー#7は7年前に見知らぬ人に対しCPRを行い生存させた。「患者から花が届きました。ホッとしました。患者はちゃんと生活しているようです」

カウンセリングが必要な事例も

 生活への影響が大きい場合にはカウンセリングが必要であると著者は述べている。自分で生活を元に戻すには人に話すのが有効であった。バイスタンダー#12は1年前に知り合いの蘇生に成功している。「私は会う人々全てに蘇生の話をした。それが自分の対処法だった」。

バイスタンダーCPRは人生の一大事

 私も一度だけだがバイスタンダーCPRをやったことがある。死亡診断書をたくさん書いてきた私でも、その時の場面は鮮明に思い出すことができる。これが普通の人なら、現場の状況に取り憑かれても無理はない。バイスタンダーCPRを推進する消防としては、バイスタンダーになってくれた人に対するフォローも行うべきである。

文献
1)BJM Open. 2016 May 25;6(5):e010671


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16.8.8/1:11 PM

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