050902心マ:呼吸=30:2

 
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心マ:呼吸=30:2 現場についたらまずCPR 心マなくして蘇生なし 変わる救命講習 新しい応急処置 日本版救急蘇生ガイドライン


 3ヶ月後の12月には心肺蘇生の国際ガイドライン(ガイドライン2005)が発表される。発表と同時に救急の常識が変わるということで、注目度は非常に高い。今回から6ヶ月間、連続してガイドライン2005について解説していきたい。
 ガイドライン2005で最も注目されているのは、心臓マッサージ(心マ):人工呼吸=30:2になることだ(後述の日本蘇生協議会のページを参照)。今回はこの改正点にスポットを当てる。なお今回の原稿はガイドライン2005用のエビデンスワークシートをもとにしており、ガイドライン2005の正式発表時には変更になっている可能性があることをお断わりしておく。

人工呼吸をしなくても助かる人がいる

 人工呼吸をしなくても心マだけで蘇生に成功する例は早くから知られてきた。これらの例からわかるように、蘇生で最も大切なのは心マであって、極端にいえば気道さえ確保されていれば人工呼吸は行わなくても心マだけで蘇生は成功する可能性がある。
 蘇生時の酸素代謝は普通に心臓が動いているときの酸素代謝と異なることが次第に明らかになってきた。心肺停止状態では脳を含めた体の大部分の生理的機能が停止しているから、例えば私たちが寝ている時よりは酸素需要がずっと少なくなる。また血流が停止した状態では、血液の酸性度が増すため赤血球が酸素を離しやすくなる。さらに通常では利用できない静脈血の酸素も細胞は取り入れることができるらしい。どれだけの低酸素から蘇生に成功するかはヒトや動物を含めて信頼に足るデータがないので断定はできないが、混合静脈血の酸素飽和度が30%を切ってもミトコンドリアは酸素を取り込むことができる。
 一方、呼吸で交換されるものには酸素だけではなく二酸化炭素もある。呼吸回数を減らすとそれだけ二酸化炭素は体に溜まってしまうのだが、いくら溜まっても蘇生には決定的な悪影響は及ぼさないことがわかっている。

人工呼吸の弊害

 マウスツーマウスやバックマスクで空気を押し込むと、胸腔の内圧が上昇する。そうすると静脈にも圧力がかかり静脈血を逆流させるので、全身から胸腔に戻ってくる血液が減る。さらに胸腔内圧の上昇は静脈や髄液を通じて脳にも伝わり、脳圧を亢進させ脳血流量も低下させる。動物実験では人工呼吸を毎分30回もすると蘇生は不可能になるという報告もされている。
 また頻回の人工呼吸は施行者にとっても負担が大きい。マウスツーマウス施行者は息の吹き込みによって過換気になり倦怠感やめまいを覚えるが、呼吸回数が少なくなればそれだけ過換気の危険性が少なくなる。

心マは絶対必要

 心マが蘇生に絶対必要であることは直感で理解できるであろう。いくら酸素を肺に送り込んだとしても、心マで血液を心臓(心筋)に回さないことには心筋がリズミカルに収縮できない。逆に、気道さえ確保されていれば、心マで胸郭が圧迫されることによっていくらかの空気が気道に流れ込み、これが肺まで拡散して、血流に乗って心臓に酸素が到達できる。
 動物実験によれば、心マの回数が120回から130回になるまでは心拍出量は心マの回数につれて上昇する。また、呼吸回数に対する心マの回数で心拍出量がどう変わるかを見た研究によれば、10:1から50:1まで心拍出量はほぼ直線的に増える。血圧をみると、心マ中断と人工呼吸によってほぼ0となった血圧は、心マが続けられることによって次第に上昇していく。そのため人工呼吸に中断されることなくできるだけ長い回数と時間を心マに費やすほうが循環の面からは優れている。

15:2への批判

 G2000以前は一人で蘇生するときには15:2で、二人で蘇生するときには5:1だった。その前には4:1だったらしい。文献を読む限り、なぜ5:1や15:2が出てきたのかは理論に基づいたものではなく、この程度だろうという曖昧な判断によるものであった。
 これとは別に、方法論的にも15:2が蘇生にふさわしくないことが示されている。ガイドライン2000では15:2では1分間に64回の心マができるとしているが、実際にマウスツーマウスをするバイスタンダーは、訓練されていたとしても一回の吹き込み動作(2回吹き込む)に平均で8秒もかかる。呼吸に8秒、それから1分間に100回のペースで15回心マをしたとして、心マ回数は1分間あたり53回にしかならない。ガイドライン2000が期待した心マ回数は確保できないことからも、心マ回数を増やすことが求められるのである。

なぜ30:2か

 動物実験や数学的検討からは、心マを多くして呼吸回数を少なくする方向が示されており、実際に動物実験では15:2, 20:1, 30:2, 50:2, 100:2などいろいろな条件で蘇生率や循環動態が検討されている。しかしながら、最良の割合は明らかでない。数学モデ ルと窒息型動物モデルでは30:2が冠状動脈血流量を増加させる利点が示されている。しかしこの窒息動物モデルでは一回の吸気に2秒も費やし ており臨床的ではないこと、混合静脈血からの組 織への酸素移動が考慮されていないことなど不備も指摘されている。また2回連続して吹き込むことについてはほとんど検討されていない。今回の30:2は多くの実験結果を並べてその中庸をとる形で採用されるように私には思える。
 将来的には30:2よりもっと呼吸回数が減って心マ回数が増えるだろう。今までほとんど分かっていない静脈血からの酸素利用率が解明されることで、最低どれくらいの呼吸回数で蘇生可能か示されることが期待できる。そして、その回数は今までの研究の流れからいって、30:1もしくは50:2くらいになるのではないだろうか。

参考文献
C2005 evidence evaluation worksheets
日本蘇生協議会ガイドライン2005ダラス会議


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