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190717最新救急事情(210-1)気道確保方法と長期生存率の怪しい関係

プレホスピタルケア 2019年6月20日号

最新事情

気道確保方法と長期生存率の怪しい関係

はじめに

心肺停止患者に対して救急隊員が選択できる気道確保の方法は3つある。マスク換気・ラリンゲアルチューブなどの上気道換気デバイス・気管挿管である。過去にこの連載で取り上げた際にはマスク換気の予後が優れていること、しかし術者の手が空くことから上気道デバイスや気管挿管も意味がある、と結論してきた。

去年と今年で、気道確保の論文が2つ出た。一つはフランスから、もう一つは京都大学の石見先生のグループからである。今回はこれらを紹介する。

除細動可能なら差はない

石見先生のグループはいつものようにウツタインデータを用いている1)。調査期間は2014年1月から2016年12月までの3年間で、その間に病院外で心肺停止となった患者31万620例を対象とした。これらを、心電図装着時に除細動の放電が可能な波形(心室頻拍と心室細動)であったかなかったかに分類し、さらにマクス換気か器具を使った気道確保を行なったかに分類した。それぞれの群で患者背景を合わせた。結果の評価は1ヶ月後の生存数もしくは1ヶ月以内に生存退院した患者数とした。

結果として、放電可能群ではマスク換気群で1ヶ月後の生存率19.2%、上気道デバイス換気群18.6%で生存率に差は見られなかった。放電不可能群ではマスク換気群1.8%上気道デバイス群2.3%とこちらは上気道デバイス群で生存率が有意に高かった。この結果を受けて筆者らは心電図チェックのタイミングで気道確保方法を選択すべきとしている。

心室細動や心室頻拍では気道確保方法で予後に差はないのはわかる。新鮮な心停止症例でまだ生き返る余力を残しているからだろう。では無脈性電気活動(PEA)や心静止で上気道デバイスを入れたほうが予後が良いというのはなぜだろう。石見先生らの論文でもはっきりしたことは書いていなかった。

マッチングを厳格に行うと差はなくなる

石見先生の論文1)の最初で、過去の論文の欠点を指摘している。それによると、今までの研究では、上気道デバイスよりもマスク換気の方が良いとされてきたが、これは症例が偏っていたためであるらしい。つまり、重症で蘇生時間が長くなりそうな症例には上気道デバイスを使うというという事実である。また筆者ら上気道デバイスを使う症例は、デバイスを使用するまでに一度も自脈が再開していない症例であることも指摘している。筆者らはこの論文では患者取り付きから上気道デバイスを挿入するまでの時間を考えマスク換気群と合致するように症例数を同数にして比較検討している。

マスクと気管挿管でも差はない

上気道デバイスを多用するのは日本だけで、アメリカやヨーロッパは気管挿管を選択する。マスク換気と気管挿管を比較した論文がフランスから出ていたのでこちらも紹介する2)。対象患者は2043名で、マスク換気と気管挿管はほぼ同數である。評価は28日後に神経学的後遺症が軽微は生存率である。次の評価点は28日後の生存率、さらに自脈再開率も見ている。

結果として神経学的後遺症の軽微な割合・長期生存率・自脈再開率の全てで有意差は見られなかった。有意差が見られたのは気道確保の困難な例(マスク>挿管)胃液の逆流(マスク>挿管)であり、マスク換気の欠点が指摘されている。

先行する論文

石見先生らが挙げている先行論文2つも読んでみた。一つ目は2014年に出たメタアナリシス論文である3)。収集対象となった論文は17編。生存率、病院に着くまでに自脈が回復した割合、生存退院もしくは1か月後の生存率で評価している。対象患者は38万人である。この論文では病院までに自脈が回復した率はマスク換気>気管挿管>上気道デバイスであり、長期生存率も同じであった。

二つ目もメタアナリシス論文であった。こちらは10篇の論文から1万7380例を取り上げている4)。結論としては器具を用いた気道確保はマスク換気に比べ生存率が劣るものの、気管挿管だけ取り上げればマスク換気と差はなかったとしている。また神経学的後遺症についてはマスク換気と器具換気で差は見られなかった。この二つはメタアナリシスなので、症例の多い論文に引っ張られて結論が決まる。だから論文を組み合わせたからといってそんな新しい知見が得られるものでもない。例えばJAMAに2013年に掲載された論文5)は36万人を対象としており、1ヶ月後の生存率は脳機能を見ている。ここではどのような気道確保道具であってもマスク換気には及ばないとしている。また同じ年にResusucitationに発表された論文では1万人の病院外心停止患者で気管挿管と上気道デバイスの比較をしている6)。この論文では上気道デバイスの方が気管挿管より長期生存率が高かった。

ラリンゲアルチューブと気管挿管ではラリンゲアルチューブの方が優れているという論文7)はこの連載でも報告した(月刊消防2018年12月号)。

統計のマジックの可能性は

話は石見先生らの論文1)に戻る。細目を見ると、放電可能群と放電不可能群では気道確保の方法と結果が正反対である。放電可能群ではマスク換気が上気道デバイスと気管挿管に比べ生存率・神経学的後遺症の両方とも優っているのに対して、放電不可能群では両方等も劣っている。ここまで結果が異なるものだろうか。この論文のイントロダクションではアドレナリンの論文2つを挙げ同じ日本のウツタインデータを用いても処理の仕方で結果が異なることを指摘している。この論文も症例数を同数にするなどかなり恣意的なデータ採取を行っているので、どこまで信用していいのかわからない、というのが正直なところである。

文献

1)BMJ 2019;364:1430

2)JAMA 2018;319:779-87

3)Prehos Emerg Care 2014;18:244-56

4)Am J Emerg Med 2016;34:210106

5)JAMA 2013;309:257-66

6)Resuscitaion 2014;85:617-22

7)JAMA 2018;320:769-78

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