040208小児心肺蘇生プログラム

 
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040208小児心肺蘇生プログラム

小児心肺蘇生プログラム

 この連載で何回も取り上げている初療プログラム。今ではJPTECやBTLSを知らない人はいないと思われるほどだし、救急隊員であってもACLSを受講する人が多くなってきている。
 さて、小児心肺蘇生プログラムである。「小児は小さい大人ではない」とは臨床でよくいわれる言葉であり、小児用の蘇生プログラムも工夫がなされている。

小児救急の標準プログラム、PALSとPTLS

 小児救急の病院内標準プログラムPediatric Advanced Life Support(PALS)1983年にアメリカ心臓学会によって提唱されたのが始まりある。しかしこのプログラムがマニュアル化され講習会が開催されるまでには5年かかっている。1992年と2000年の小児心肺蘇生法の改定を受け、PALSプログラムも改定されて今に至っている。またBTLSと対応する小児外傷プログラムPediatricTrauma Life Support(PTLS)も全世界に展開されている。当初は病院内医師用のプログラムであったが、アメリカでパラメディックの医療行為が拡大されるにつれて、今では救急隊と医師が連携を取って治療する上で欠かせないプログラムとなっている。勉強方法は微細な点は成人と小児で異なるものの、講義や実技、資格試験などBTLSやACLSと同じである。プロバイダーやインストラクターが存在する点も同じ。
 これら治療プログラムの習得においてはCDなどのデジタル媒体の有用性が報告1)されている。救急部の小児科領域の訓練において従来のインストラクターの講義と、それに加えてCD-ROMの動画を取り入れた講義と2種類に分け、筆記試験と実技試験の結果を比較した。その結果、筆記試験の結果は両者差はなかったが実技試験の結果はCD-ROMを取り入れた群で有意に優れていた。

現場で行なわれるPALS

 2001年に発表された論文に、ボストン地区で行なわれているPALSの現状が掲載されている2)。それによるとボストン地区では1年間に555人がPALSを受けていた。対象患児は38%が呼吸停止、24%が呼吸器以外の患者、19%は交通外傷、10%が腹部外傷であった。心肺停止は2%であった。施行手技としては静脈確保が33%、バッグマスクが5%、気管挿管が3%であった。骨髄輸液路確保は少なくて0.5%に過ぎなかった。PALS施行資格のある隊員が一年当たりに経験する手技数は、静脈確保3.7回、気管挿管0.3回、骨髄静脈路確保は0.06回であった。これらの数字から、著者らはPALSの手技が使われることは少ないこと、とっさの時にちゃんと成功できるように普段から練習しておくことを勧めている。

PALSは有効なのか

 PALSは本当に有効なのだろうか。みんなやっているから有効なのだと思うのだが、否定的な論文も出ている。
 小児の病院外心停止に対して救急隊員がPALS(この論文ではALS)を施行しても転帰は改善しなかったというものである3)。小児UtsteinstyleによりBLSに加えて救急隊員がALSを施行した時の転帰をみている。ここでBLSは呼吸循環維持にバッグマスク以外の侵襲的な手技を行なわないものを、ALSは侵襲的な手技を用いることと定義している。対象患児にはBLSのみかBLSに加えALSも行なわれているかの二群で転帰を比較した。15年間の記録により対象患児は189人に及んだ。そのうち39人はBLSのみ、150人はBLSに加えてALSが行なわれていた。生存退院は全体で5例のみ,ALS施行の有無によっても差はなかった。生存退院を決めるのは病院到着時に洞性整脈に戻っていることとエピネフリン量が推奨使用量より少なかった場合であった。このことからも救急隊員がALSを行なっても意味がないと結論付けている。
 小児に対する救急現場での気管挿管に絞ってみても、やはり否定的な意見が出ている。この論文4)でも気道の確保には経口経鼻エアウエイとバッグマスクで十分であり、高度なテクニックと高い危険性を持つ気管挿管を行なう妥当性は少ないと結論している。
ガイドライン2000以来、救急現場で気管挿管を勧める論文に当たったことがない。アメリカであっても救急現場での挿管は少なくなっているのだろう。

小児ICUでの応用

 PALSのICU応用編というべきACCM-PALSの報告5)が出ている。このプログラムは循環作動薬に加えて補液の投与方法に工夫が見られる。ピッツバーグの小児病院では9年間で91人が敗血症と診断された。これらの患児に対して、ショックからの離脱率、ACCM-PALSガイドラインの施行率、死亡率を検討した。観察期間では26人が死亡している。ショックからの離脱率は26%で、医療スタッフがベットサイドに駆けつけてからショック離脱までの平均時間は75分であった。死亡した患児群では生存群に比べて循環作動薬の量は有意に増加したが、補液量は差がなかった。ACCM-PALSが認識されてからの患児は27人にすぎなかったが、ACCM-PALSに則った治療での死亡率が8%であり、通常の治療法の死亡率38%に比べて少なかった。これによりこのプログラムは敗血症性ショック患児の救命に有用であるとしている。

小児症例を集める難しさ

 今回の文献を集めて思ったのは、いずれの文献も決定力に欠けるということである。ボストンの報告はただこれだけやっていますというものだし、心肺停止の論文では生存例がわずか5例では何をやっても死ぬ症例ばかりだったのではと思う。小児ICUの報告では敗血症という治療の最も困難な病態に対して結論を導くのにわずか91例ではとても信用できない。Pubmedを一生懸命探してもいい文献は出てこなかった。
 小児症例を集めるのは難しい。つまり今の方法や常識を客観的に検証することが難しいのである。今の常識がいつか変わるかもしれないという柔軟な頭を持ちつつ、子供を助けるために貪欲に勉強していこう。

文献

1)Pediatr Emerg Care 2004 ;20(2):94-100
2)Pediatr Emerg Care 2001 ;17(1):5-9
3)Prehosp Emerg Care 2002 ;6(3):283-90
4)Curr Opin Crit Care 2003 ;9(6):524-9.
5)Pediatrics 2003 ;112(4):793-9.


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