080501さらば バックバルブマスク

 
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080501さらば バックバルブマスク

こちらの手違いで削除されていました。ごめんなさい(2008-11-3)


人工呼吸関連

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 バイスタンダーCPRでは今や人工呼吸は不要であることは、この連載でもしつこいほど取り上げている。でも考えてみれば、救急隊員でも同じ事ではないのか。今回は遂に救急隊員もバックバルブマスクを使わないほうが生存率が良いという論文1)が出たのでこれを紹介する。

「胸骨圧迫の中断を最小にする方法」

 書いたのは人工呼吸が不要と訴え続けているEwyのグループである。バイスタンダーCPRでは胸骨圧迫のみのCPRのほうが生存退院率がずっと良いことを受けて、救急隊員向けに「胸骨圧迫の中断を最小限にする方法(中断最小法)」を編み出し、2005年7月から救急隊員への訓練を、2006年1月から現場での運用を開始した。

 この中断最小法、胸骨圧迫と除細動についてはガイドライン2005の通りで、違うのは人工呼吸の項目である。

(1)患者には非再呼吸式酸素マスクをつけるか、気道確保に困難が予想される場合にはエアウエイを挿入した上で酸素マスクを付ける。
(2)酸素や空気を押し込むようことは避ける
(3)気管挿管は少なくとも胸骨圧迫3サイクル(合計で600回の圧迫)以降に行う。
(4)心拍が再開したあとは通常のサポートを行う

 バックバルブマスクは排除するのに挿管を認めるのは、この地域での蘇生プロトコールの中に「病院到着までに蘇生の徴候が見られない患者に対しては全例気管挿管をすること」という文言があるためである。

1回の訓練だけで生存退院率2.4倍

 筆者らはまずこの中断最小法が有効かどうか、2つの消防署で最小中断法導入の前後で蘇生率が変わるか検討した。運用に当たっては救急隊員たちは1回だけ訓練を受けた。またバックバルブマスク放棄に抵抗する隊員のために、バックバルブマスクを使いたい人には1分間に8回までならバックで空気を送り込んでも良いとした。

 検討対象は心原性卒倒で心肺蘇生の適応患者1243例であり、これらの症例から18歳以下や外傷患者などの不適格症例を除いた886例を解析対象とした。その結果、218例が中断最小法を行う前のグループでガイドライン2000(G2000)に基づいた蘇生を受け、668例が中断最小法を受けた。これら2つのグループの間で年齢や性別、バイスタンダーCPRの割合などに差はなかった。唯一差が認められたのは気管挿管を受けた患者の割合で、中断最小法の導入前が41%、導入前が65%であった。結果として、生存退院率はG2000では1.8%に過ぎなかったものが、中断最小法導入以降は5.4%と劇的に改善した。また目撃者のある心室細動失神の生存退院率についても、導入以前は4.7%であったものが導入後は17.6%と4倍近い伸びを示した。

差は退院時に出る

 この結果で不思議なのは、病院に生きて到着する割合がG2000でも中断最小法でも同じであることだ。G2000では現場で自脈が出る患者数と入院する患者数は約16%とほぼ同じである。それに対して中断最小法では自脈が出るのが23%で入院率は17%となる。いったん自脈が出でも途中で止まってしまうようだ。その後G2000では入院患者は次々と死亡し退院に至るのは1/9に過ぎないのに対して、中断最小法の患者の1/3が生き延びて退院を迎える。搬送だけして入院経過を見ていない救急隊員にとって中断最小法は「ほんの一時脈が戻るだけのもの」と誤解される危険性がありそうだ。

厳密に適用するとさらに差が

 この結果に自信を持った筆者らは2005年から中断最小法の消防署を12に増やし、G2005で蘇生を行っているほかの50の消防署との成績を比較することにした。それによると、対象患者は3508例、除外症例を勘案し検討対象は2460例となった。中断最小法を受けた患者は通常の方法を受けた患者より2歳有意に高齢で、気管挿管を受けた割合も63%と通常の57%に比べて有意に多かった。患者の転帰は前掲の訓練時よりもさらに改善されていて、自脈の回復28%(G2005では17%)、入院率22%(同15%)生存退院率9%(同4%)となった。また退院時の精神神経学的後遺症も中断最小法がG2005より有意に優れていることが示されている。

今までの訓練は何だったのか

 中断最小法が自脈回復率や生存退院率を増加させる理由はこの連載でも去年までの「基礎講座」でも何回も説明している。大きな理由は二つあって、一つは胸骨圧迫を続けるほど血圧が上昇するためであり、もう一つは人工呼吸することによって脳や心筋に行く血液量が減るためである。

 この研究はよく読むと不備が結構ある。それは消防署が固定されているためその消防署の力量を無視できないことだったり、アドレナリンの入れるタイミングがばらばらのことだったりで、この論文だけで今までの胸骨圧迫とバックバルブマスクの組み合わせがすぐ変わることにはならないだろう。しかし、蘇生行為を生業としている救急隊員にとって、今までの訓練は何だったのだろうと思わせるには十分の結果である。先輩からマスクを持つ左手を叩かれもしたし、米田法なんてのも導入してみたのに、この論文が正しいのだったらマスクを持てない奴のほうが患者を助けていたことになるのだ。

 エビデンスの前には努力も無駄なのか。釈然としない感情を押し殺しつつ、次に出てくる論文を待つことにしよう。

引用文献
1)JAMA 2008;299:1158-65


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08.11.3/1:26 PM

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