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決着がつかない気道確保論争

決着がつかない気道確保論争

バックバルブマスクと気管挿管のいずれが患者の予後を改善させるか。この問いに対してこの連載では過去に何度も記事にしてきた。私の理解ではバッグバルブマスク(BVM)の方が気管挿管に比べ合併症が少なく患者に有利であると思っていたら、JAMAから2000人を対象とした無作為割り付け研究が報告された。今回はこの論文を取り上げる。

2013例の無作為割り付け研究

今回紹介するのはフランスとベルギーでの多施設研究1)である。筆者ら曰く「BVMは手間が少なく気管挿管より予後を改善させるとされているが本当かどうか確かめる」というのがこの論文の目的である。

症例はBVMが1020例、気管挿管が1023例。無作為割り付けで気道確保方法を決定している。第一の評価は28病日時点での神経学的に良好な患者の割合で決定する。第2の評価は病院への生存入院数、28日後の生存数、心拍再開数、気管挿管とバックバルブマスク保持の難しさや失敗数とした。

2043名の患者の平均連例は64.7歳、男性は68%で、2040例がデータの不足なく研究に参加できた。神経学的に良好だった患者の割合はBVM群で4.3%、気管挿管群で4.2%と有意差はなかった。生存入院率はBVM群で28.9%、気管挿管群で32.6%でこれも有意差なし。28病日の生存率がBVM群で5.4%、気管挿管群で5.3%であった。手技による気道確保が難しかった奨励はBVM群で18.1%、気管挿管群で13.4%でこれは有意差を認めた。手技で気道確保できかなった割合はBVM群で6.7%、気管挿管群で2.1%でありこれも有意差あり。胃内容物の逆転を認めたのはBVM群で15.2%、気管挿管群で7.5%で有意差を認めた。これらの結果に対して筆者らは神経学的に良好な患者生存についてはBVMと気管挿管で優劣は付けられなかったとし、両者のさらなる比較が必要と結論している。

これだけの症例数を揃えても有意差が出ないのならあと1万例加えても有意差は出ないだろう。有意差が出ているのは手技の項目で、この論文では数字だけを見るとBVMより気管挿管のほうが優れているように見える。

差はないという日本の論文

このJAMAの論文より前にも多くの論文が発表されている。2012年の日大の長尾先生の論文2)では後ろ向き研究ではあるがBVMと器具を用いた気道確保との比較が行われている。355例の病院外心肺停止患者を2群に分けて比較したところ、ICU入院率は器具を用いた気道確保群がBVM群より有意に高かった。心拍再開率は病院に到着するまででは両群で有意差はないが、病院内の心拍再開を含めると器具を用いた方が再開率が高かった。神経学的に良好な生存率には差はみられなかった。

BVMが優れているという日本の論文

ハーバード大学の長谷川先生が2013年にJAMAに発表した論3)文は日本のウツスタインデータを用いている。患者数は36万人。そのうち器具(ラリンゲアルチューブや気管チューブなど)を用いた気道確保は6%の4万人あまりに施されている。全体では神経学的に良好な生存率はBVM群が2.9%、器具群が1.1%で有意差があり、これは患者の属性を揃えたデータであってもBVM群は器具群より有意に生存率が高かった。

同じ全国データを用いても、韓国になると話が逆転してしまう。韓国での全国的データベースを用いて32513名の病院全心肺停止患者を解析したところ、BVM群に比べて器具群で神経学的に良好な生存患者割合が有意に高かった4)。

合併症の率もまちまち

フランスの論文1)ではBVMは胃からの逆流の率が高いとか書かれている。気道確保に伴う肺炎(筆者らは人工呼吸器肺炎と称している)についての検討がアメリカから出ている5)。対象は外傷センターに運ばれてきた患者317名であり、病院前心肺停止患者ではない。年齢の平均は37歳。75%が男性である。気道確保方法は、ラリンゲアルチューブなどの上気道器具が5.4%、BVMが8.8%、気管挿管が26.5%、病院到着前には気道確保は行われず到着後に気管挿管した患者が59.3%であった、人工呼吸器肺炎を起こした患者と気道確保方法に関連は見られなかった。

日本の現状ではBVMが有利

私は気管挿管には利点がないと思っていたが、これらの論文を読むとそうでもないようだ。長谷川先生のデータ3)でBVMが器具による気道確保より優れているのは、日本の気管挿管に体する厳しい制限があるためである(長尾先生の論文2)は症例数が少ないため有意差が出なかったのだろう)。救急隊が行う気管挿管はBVMでは気道確保困難な症例に限って認められている。つまり救命困難な症例で気管挿管が選ばれるのだから、最初から結果は明白だ。救急隊員が自由に気道確保方法を選べるのなら、フランスや韓国のように生存率の差は消滅する可能性がある。

文献

1)JAMA 2018;319:779-87

2)J Emerg Med 2012;42:162-70

3)JAMA 2013:309:257-66

4)Am J Emerg Med 2016:34:128-32

5)J Trauma Acute Care Surg 2016;80:283-8





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