160808子供の胃腸炎では好きなものを飲ませよう
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160808子供の胃腸炎では好きなものを飲ませよう
お子さんをお持ちの方なら子供の胃腸炎に悩まされた経験があるだろう。私の娘も胃腸炎で2週間も点滴していたことがあった。自宅で点滴していて、状態が良くなって暇そうにしていたので点滴をぶら下げたまま車に乗せてドライブしたのだが、10年以上経ってから「あの時は嫌だった」と言われた時は本当に驚いた。
今回は胃腸炎の話である。胃腸炎で嘔吐や下痢をすれば電解質を喪失するのでスポーツドリンク等の電解質溶液を飲ませた方がいいと思っていたが、そうでもないようだ。
経口と点滴とどちらがいいか
先に挙げた私の娘は入院せずに自宅でずっと点滴していた。点滴の方が確実に脱水が補正できるし、口から飲ませるとそれが刺激になってさらに吐くからである。だが、口から飲ませられるのならそれが一番自然で一番いいのに決まっている。
電解質液を経口摂取するとの点滴するのとどちらがいいか、コクランデータベースで取り上げている1)。コクランデータベースとはこの連載で何度も取り上げている、ある物事に対して過去の論文を集めて正しいかどうか判断する論文集である。今回の対象となったのは1966年から2006年までに発表された論文で、そのうち無作為割り付け論文の17編を採用した。対象患者は小児の胃腸炎患者1811名である。1811名のうち点滴群で6名、経口群で2名が亡くなっている。治療効果については、体重増加率、低ナトリウム血症、高ナトリウム血症の患者の割合、下痢の期間、6時間あたりおよび24時間あたりの水分摂取量に両群で差はなかった。入院期間は経口群の方が短かった。静脈炎の発生は点滴群で、麻痺性イレウスの発生は経口群で高かった。この結果から、点滴群と経口群で重要な差は見られないと結論づけているが、経口群の25人に一人で治療効果が上がらず点滴群に移行したと述べている。
同じ論題でフィラデルフィアから出ている論文2)も紹介しよう。ここでは8ヶ月から3歳までの胃腸炎患児73名を対象とし、点滴と経口での補液で治療効果を検討している。結論は点滴も経口も治療効果に変わりはなかったとしている。
繰り返すが、経口で水分が十分摂取できるならそれに越したことはない。点滴をするのはそれなりの理由があるからで、経口群から点滴群に移行する話もよくわかる。
ジュースかポカリスエットか
自分の子供が口から飲めるとして、一体何を飲ませればいいのだろう。コマーシャルでよく出てくるポカリスエットか、それとも子供が望むものがいいのか。急性胃腸炎患児に対し、りんごジュースと電解質液を与えた論文3)がある。
生後6ヶ月から60ヶ月(満5歳)までの小児を対象とした無作為試験である。患児の脱水は軽度の場合に限定している。入院中、ジュース群323名にはりんごジュースを2倍に薄めたものを与え、電解質群324名にはりんごジュースと同じ色づけと味を施した電解質水(ポカリスエットの類い)を与えた。退院後はジュース群は好きなものを飲ませ、電解質群は維持電解質液を飲ませた。結果として、患児の平均月齢は28.3ヶ月(2歳4ヶ月)、男児がわずかに多かった。ジュース群に比べ電解質群では試験からの脱落が有意に多かったが、これはジュース群が何を飲んでもいいのに比べ電解質群は飲むものを指定しているのだから当たり前だろう。点滴を受ける率はジュース群の方が電解質群より少なかったが、再入院率や下痢・嘔吐の回数は両群で差はなかった。この結果を受けて筆者らは、先進国では電解質液を飲ませることが多いがりんごジュースで十分であると結論している。
アメリカやカナダでもポカリスエットの類いがいいと吹聴されているんだなと分かる。生き物は必要なものを欲しがるのだから、子供が飲みたいと思うものを与えるのが正解のようだ。
吐き気止めの効果
ジュースだ電解質液だと言っても、吐き気があるうちはそうそう飲めるものではない。同じコクランデータベースで、代表的な吐き気止めであるオンダンセトロン(商品名ゾフラン)の効果について検討している4)。日本ではオンダンセトロンは抗がん剤による吐き気を止める場合のみ効能が認められているが、日本以外ではポピュラーな薬なのだろう。オンダンセトロンは偽薬を投与した場合に比べ嘔吐期間を0.34日短縮させる。即時入院を求められる患者の割合を減らすものの、救急外来受診後3日以内に入院に至る患者の割会は減らせない。救急外来に置ける点滴の量と72時間のフォローアップが必要な患者数を減らし、嘔吐が治まる患者数を増やす。副作用として下痢がある。一つの論文では嘔吐を止める割合はオンダンセトロン静脈注射で58%、メトクロプラミド(商品名プリンペラン)で33%、偽薬で17%であった。プリンペランでもまあまあ吐き気は治まるので、オンダンセトロンはかなり強い制嘔作用があることが分かる。
日本ではO-157の集団食中毒以降、吐き気も下痢も積極的には止めなくなった。だが、重大な疾患が隠れていないと判断できる場合には、積極的に吐き気止めを使ってもいいのかも知れない。
文献
1)Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jul 19;(3):CD004390
2)Pediatrics 2005;115:295-301
3)Freedman SB:JAMA 2016 Apr 30 Epub
4)Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD005506
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