170820 薬と副作用の因果関係
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170820 薬と副作用の因果関係
現行の「救急救命士標準テキスト第9版」の作成に私も執筆者の一人として参加した。担当は解剖生理・薬理・検査。誰がどこを担当したかはっきり分かっているので、出版社に寄せられる質問は編集室を経由して執筆者に届く。先日来た質問はアセトアミノフェンと喘息の関係についてであった。
結論は「エビデンスなし」
質問は「標準テキストでは「アセトアミノフェンはアスピリン喘息を誘発しない」としているが誘発するのではないか」というものである。
取り上げるのは過去の論文を横断してエビデンスを導くメタアナリシスの論文1)。2016年8月に掲載されたものである。筆者らは1009年から2015年までの論文を対象に、アセトアミノフェンが喘息を引き起こすか調べた。母親が妊娠中にアセトアミノフェンを摂取した場合にその子供がアスピリン喘息になるかという問いには、いくつかのコホート(集団を決めて時系列で追うこと)研究がなされているものの喘息とアセトアミノフェンの因果関係はありそうだとしている。次に小児期や成人期にアセトアミノフェンを摂取したことで喘息が誘発されるかについては、少なくとも部分的には影響があるだろう、という程度であった。これらの結果より筆者らは、アセトアミノフェンと喘息との因果関係についての論争はたくさんあってもエビデンスと結論づけることはできないとしている。
「ノーシン」と「ケロリン」
アセトアミノフェンという名前は聞いたことがなくても鎮痛解熱剤である「ノーシン」*は誰でも知っている。「ノーシン」の主成分がアセトアミノフェンである。初めて合成されたのが1873年、医薬品として世に出たのが1893年というからすでに120年以上医薬品として使われているすごい薬である。ちなみに「ノーシン」も発売から90年以上経っている。医療用ではインフルエンザの時に処方される「カロナール」がアセトアミノフェンそのものである。
また質問中の「アスピリン」も鎮痛解熱剤を代表する薬であり、一般名はアセチルサリチル酸という。日本では銭湯の風呂桶でおなじみ「ケロリン」や「?頭痛に「バファリン」?」が有名。こちらは1897年に人類初めての合成薬として開発され、その2年後に発売された。「アスピリン」は発売直後から世界を席巻した大ヒット商品のため一般名のような扱いになっており、日本薬局方でも正式名称をアセチルサリチル酸ではなくアスピリンとしている。アセチルサリチル酸に桂皮を混ぜた「ケロリン」の発売は1924年で「ノーシン」と同じく90年以上経つ薬である。子供の頃は歯が痛い時によくお世話になった懐かしい薬でもある。
「ケロリン」は危険で「ノーシン」は安全
アスピリン喘息とは、アセチルサリチル酸によって引き起こされる喘息である。通常服用後10分から30分の間で喘息が出現する。成人の喘息患者の5-10%がアスピリン喘息を持っていると考えられている。その他の特徴として、小児ではまれであること、30?40歳代に初発すること、鼻ポリープや慢性副鼻腔炎を合併していることが多いとされている。アスピリン喘息というから「アスピリン」や「ケロリン」だけが原因かと思えばそうではなく、どんな非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDsといわれる)でも発症する可能性がある。商品名を挙げれば、「セデス」「ナロンエース」「ポンタール」「ロキソニン」「コルゲンコーワ」「ボルタレン」「パッテックス」「イブ」など、有名どころがずらり並ぶ。熱でも頭痛でも薬が使えないのだからこの喘息を持つ人は可哀想である。
一方、アセトアミノフェンである「カロナール」の添付文書にもアスピリン喘息を起こすことが明記されている。しかし、これは報告があるだけの話であってエビデンスがないことは冒頭に書いた通りだ。添付文書には報告のあった重大な有害事象はすべて記載される。
報道には間違いもある
マスコミに煽られて大騒ぎになったにもかかわらず因果関係がはっきりしない、もしくは関係がない例はいくつか存在する。
インフルエンザの時に「タミフル」を飲むと異常行動を起こすという報道が2005年にあった。「タミフル」を飲んだ後に階段から転げ落ちて死亡した例が5例あったという。これを受けインフルエンザの特効薬とされるタミフルは10歳以上の未成年者には原則として使用を差し控えるよう通達が出た。私は当時、死亡した子供の親が「タミフルが悪い」と訴えるテレビを見たが、私はタミフルは無関係だろうと確信していた。私が小学生の時、10歳の兄がインフルエンザにかかって高熱を出し、部屋の中を歩き回って段差に足を取られて転んだのを見ていたからである。私の周囲の医者も全員が、インフルエンザ脳症が徘徊の原因であってタミフルはたまたま飲んだだけ、と考えていた。後日、この異常行動についてはタミフルとの因果関係は否定的という見解が厚生労働省から出されている2)。
慢性肝炎に小柴胡湯を飲むと間質性肺炎になる、という報道は1996年に出た。インターフェロンと小柴胡湯を肝炎治療に併用すると間質性肺炎で死亡する可能性があるというものであったが、これも因果関係は明らかでない。逆にインターフェロン単独投与で間質性肺炎になる確率の方がずっと高いとするデータもある。
逆に副作用から有効患者を絞り込むことも行われる。肺癌の治療薬「イレッサ」は2002年の発売直後から急速に肺障害を起こし死亡する例が相次いだ。製薬会社や専門家委員会では患者背景を追求することで、現在は「イレッサ」が効く症例と効かない症例を事前に知ることができるようになっている。
都合のいいものが「効用」
副作用のない薬は存在しない。薬がもたらす一連の効果のうち、人に都合のいいものを「効用」都合の悪いものを「副作用」としているだけで、その根っこは同じだからである。薬が大好きな人は世の中に多数存在する。使わないでいいものは使わないようにしよう。
*「カタカナ」は商品名
文献
1)J Asthema 2016;30:30-7
2)インフルエンザQ & A。厚生労働省
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17.8.20/7:24 AM
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