170820トヨタ脳卒中プレホスピタルスケール

 
  • 170読まれた回数:



170820トヨタ脳卒中プレホスピタルスケール

OPSホーム>最新救急事情目次>170820トヨタ脳卒中プレホスピタルスケール

170820トヨタ脳卒中プレホスピタルスケール

月刊消防のご購読はこちらから

今年1月に行われた救急隊員シンポジウムで、豊田市消防本部の都築賢治さんが「トヨタ脳卒中プレホスピタルスケールが救急隊に与えた効果」という演題を発表していた。私は直接は演題を聞いていなかったが、抄録で見て面白そうだと思い、豊田市消防本部警防救急課から発表スライドを貰って見てみた。

トヨタ脳卒中プレホスピタルスケールとは

トヨタ記念病院脳卒中センター神経内科が2008年に発表したスケールである。通称はTOPSPIN(トップスピン)という。病院の親会社であるトヨタ自動車にふさわしい通称なのだが、中身はTOYOTA Prehospital stroke scale for t-PA intravenous therapyの下線を繋ぎ合わせたという。TPSSとかいうありふれた名前を避けたかったのだろうが、強引さは否めない。

スケールで挙げられている評価項目は5項目。意識状態、心房細動、名前を聞く、両上肢を挙上させる、両膝を屈曲させる、である。それぞれの状態に点数が振ってあり、その合計は正常で0点、最低で10点となる。病院前救護でよく用いられる倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)では、意識状態、名前を聞く、上肢挙上(左右で別々に採点)、下肢挙上(左右で別々に採点)、言語の5項目を評価する。項目数は同じだが手足は左右別なので7回検査を行う必要があり、トヨタスケールに比べて面倒である。逆にトヨタスケールには心房細動の項目がある。論文によれば「脈拍確認時に不正を認めた場合、(心電図)波形を確認、記録し、心房細動を判定すること」となっている。また車内の電気的雑音や患者の体動による筋電図混入などで心房細動の判定が難しい点については、「疑いも含め心房細動「あり」と判定すること」になっている。倉敷スケールは脈取りや心電図といった生理学的検査の項目はないので、この点は敷居が高い。ただ、世界標準であるNIHSS(National institite of health stroke score)に比べると信じられないほどの簡便さである。
このスケールが用いられるのは、「症状が「出現後間もない」と断定、推測される場合」であり、半日以上経ってからの救急要請ではスケールは用いられない。

トヨタスケールは救急隊と病院当直医とで完全に共有される。「救急隊は現場で点数を付け、救急外来(略)の当番医に、例えば「TOPSPINで1-2-1-2-1, 合計7点です。」のように、合計点と共に各評価項目の素点を通報する」としている。当直医はTOPSPINの同じ内容を神経内科医に伝達する。

トヨタスケールの運用

2006年12月12日から救急隊・病院双方で運用が開始された。約1年後の11月6日までの結果では、トヨタスケールで評価されてトヨタ記念病院に搬入された患者は155例であった。筆者らはトヨタスケールで評価し脳卒中を疑って病院に搬送することをTOPSPIN搬送例と記しており、これは都築賢治さんの発表原稿でも同じ表現をしている。TOPSPIN搬送155例においてスケールの平均点は4.2点、中央値は5点であった。TOPSPIN搬送例が実際に脳梗塞だったのは72%であり、内訳は脳梗塞が36%, 一過性脳虚血発作が2%, 脳出血が30%、その他が4%であった。トヨタスケールとNIHSSには有意で強い相関関係が見られ、信頼性も確保できることが明らかとなった。

論文では心房細動についても触れている。TOPSPIN搬送例では16.8%が心房細動ありとされて搬送を受けている。実際に医師により心房細動が確認できたのは9.7%であり、残りの7.1%は他の不整脈もしくはアーチファクトであったことから、救急隊の心房細動の正診率は58%であった。

トヨタスケールに対する救急隊の評価も書かれている。運用2ヶ月半の段階で周知は8割の隊員になされていた。都築賢治さんの原稿によれば「病院側からの特別な教育というものはありませんでした。評価表と少しの説明書きで消防への依頼、運用開始前に症例検討会での紹介がありました」とのことであり、消防側が努力してトヨタスケールを吸収したことが見て取れる。隊員が評価に要する時間は3分以内が74%で搬送の妨げとならず、逆に観察項目を標準化した点で有効であったと論文では述べている。さらに救急隊が判断に迷う例は専門医が診察や諸検査で確定診断しなければならない症例がほとんどであるので、病院前救護のトリアージとしてトヨタスケールを用いることは問題ないとしている。

英語で出版する必要性

脳卒中スケールは世の中にたくさんある。最も有名なのはNIHSSであるが、調査項目が15あり、しかもそれぞれに注意点が書かれていて、とても救急隊が使えるものではない。日本で有名なのはシンシナチ病院前脳卒中スケールCPSSと倉敷病院前脳卒中スケールKPSSであろう。シンシナチのは調査項目が3点しかない。歯を見せる、腕を伸ばす、喋らせる、だけである。ものすごく覚えやすいがものすごくおおざっぱで、実際に運用すれば偽陽性(病気でないのに病気にすること)患者が山ほど出て来る。つまりシンシナチは重症度判断を兼ねるトリアージではなく、病気の有無を見るマススクリーニングと考えるべきだろう。倉敷スケールは重症度も判断できる。この点はトヨタスケールも同じである。

私は失礼ながら都築賢治さんの抄録を見るまでトヨタスケールの存在を知らなかった。勉強会でも聞いたことはない。何故か。論文が日本語だけだからである。世界の論文を集めたデータベースPubmedで検索したが一つも引っかかって来ない。倉敷スケールは5つ引っかかり、川崎スケールMPSSも2つ引っかかってくる。英語で論文を書く重要性がはっきり分かる例である。脳卒中のトリアージとして有効なスケールなのは明らかなので、論文の著者には今からでも英語で出版して欲しいと思う。

文献
脳卒中 2008;30:643-50


OPSホーム>最新救急事情目次>170820トヨタ脳卒中プレホスピタルスケール


https://ops.tama.blue/

17.8.20/8:08 AM

]]>

コメント

タイトルとURLをコピーしました