case37:誤嚥性肺炎

 
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62歳男

55歳から肢帯型筋ジストロフィーにて加療中。現在は歩行不可能、食事は自分で摂取可能。
夕食中に喉に食事を詰まらせたと119番通報。現着時患者は居間で仰臥位。家族によって異物除去術と心肺蘇生が施行されていた。JCS300, 呼吸循環なし。AEDでは無拍動性電気活動。喉頭鏡と掻き出し法により気道から中等量の食物を除去し気道確保がなされた後に自己心拍再開。呼吸は浅く遅いため補助換気しつつ救急車へ搬入した。


Q1:異物除去の方法はどのようなものがあるか
Q2:搬送中の留意点は


A1:背部叩打、胸部圧迫、腹部圧迫。背部叩打は主に小児に用いる。腹部圧迫には内臓破裂の危険性がある。胸部圧迫は高度肥満者と臨月間近の妊婦に用いる。心臓マッサージ自体にも強力な異物吐き出し作用があるので、人工呼吸施行時には気道を確保するたびに口の中を覗いて異物が出てきていないか確認すること。指による掻き出しは噛むことのない完全に脱力した患者に対して、すぐそこに異物が見える場合にのみ行う。盲目的に指を入れることは異物をかえって奥に押し込む可能性があるため避ける。掃除器を使う方法は有効という話と口腔内に傷をつけるだけという話があり評価は定まっていない。

A2:胃からの逆流による嘔吐と気道の再閉塞


解説

バイスタンダーCPRがあり自己心拍も現場で再開したが4日後に誤嚥性肺炎で死亡した症例である。
通常の肺の組織は図1のようになっている。肺胞が網目状に広がり、その間を空気が通る。酸素と二酸化炭素の交換は単純に物理的な拡散で行われている。これが肺炎になると図2と図3のように本来空気のあるべきところに分泌物や血液が溜まり、肺胞での換気を妨げてしまう。単純な肺炎であれば抗生剤で細菌を叩き回復させることもできるが、誤嚥性肺炎は細菌の温床となる食物が肺に存在することと、胃酸による肺胞の化学的損傷が加わるため治療に難渋する。
本症例では気管挿管の後気管支ファイバースコープで食物の排除を行った。また頻回の体位変換で分泌物の排泄を促した。しかし原疾患であるジストロフィーにより呼吸筋が萎縮しており、咳による分泌物の排泄ができなかったことから、肺炎は悪化の一途をたどった。最期まで意識は回復しなかった。
図4には参考として普通の肺炎とは異なる間質性肺炎の像を示す。

図1
肺胞の顕微鏡写真。ほぼ正常。

図2
肺炎の顕微鏡写真。肺胞で囲まれる空間は分泌物や血液で埋まり、換気できるスペースがない。

図3
肺胞の強拡大写真。肺胞に溜まっているのは赤血球、白血球、リンパ球、形質細胞。誤嚥性肺炎では食物残渣が顕微鏡で見えることがある。

図4
これは肺炎でも徐々に進行する間質性肺炎の顕微鏡写真。肺胞上皮が図1と異なり厚くなっている。肺胞上皮が厚くなればそれだけガス交換に支障をきたすことになる。ちり紙では簡単に空気を通すのに厚紙だと空気が通らないのと同じ理屈である。中心の黒い点々の集まりはリンパ球。


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