症例43:やっかいな、女性の下腹部痛

 
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症例43:やっかいな、女性の下腹部痛

中路和也(なかみち かずや)

留萌(るもい)消防組合消防署

救急救命士


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「やっかいな、女性の下腹部痛」

「おなかが痛い」といった救急要請は幼児から高齢者まで多くある。
その中で、妊娠可能な年齢の女性の救急疾患では、吐き気でも腹痛でも「女性をみたら妊娠と思え。」とよく聞かされた。また、過去に病院搬入後に緊急出産をした「患者は嘘をつく」痛い経験もした。
そこで、いくつかの女性の下腹部痛について紹介する。

症例1

「23歳女性、急な下腹部痛、嘔気あり、動けない」との内容で出動。
現場はマンション3Fで居間に寝間着姿で座位でおり、意識清明、顔面蒼白、嘔気あり、2時間前に下腹部痛を発症し持続した鈍痛であり、生理について問診すると1週間前にあったことを聴取した。しかし下腹部の触診はしていない。
BP109/74mmHg、HR~95回、SPO2~99%。
婦人科及び内科疾患を疑い本人希望の仰臥位で搬送した。
(診断名:子宮・卵管周囲炎:中)

症例2

「35歳女性、急な下腹部痛で動けない」との内容で出動。
現場は一般住宅で居間に普段着姿で仰臥位でおり、意識清明、顔面蒼白、嘔気あり。
3時間位前に腰背部痛を発症、安静にしていたが下腹部の間欠痛となってきたことを訴えた。生理については通常とおりあることを聴取した。
BP159/88mmHg、HR~85回、SPO2~100%。
非妊娠であり、婦人科、内科、泌尿器科疾患を疑い、本人希望の仰臥位で搬送した。
(診断名:尿管結石:中)

症例3

「25歳女性、急な下腹部痛、嘔気あり」との内容で出動。
現場はマンション1Fで居間に普段着姿で座位でおり、意識清明、顔面蒼白、嘔気あり、朝から下腹部の鈍痛を発症、本日が生理初日で出血量が多いことを聴取した。
非妊娠であり、婦人科、内科疾患を疑い、本人希望の仰臥位で搬送した。
(診断名:生理痛:軽)

症例4

「55歳女性、急な下腹部痛、陰部が腫れ上がっている」との内容で出動。
現場は一般住宅で居間に普段着姿で仰臥位でおり、意識清明、苦悶様顔貌、発汗なし、鎖骨上部から頸部に皮膚紅潮所見を認めた。
昼食後で2時間位前から下腹部痛と嘔気があり、特に股間(陰部)の横が急に腫れ上ってきたことを気にしていた。
女性の下腹部の確認をするため丁寧にIC後観察したところ、右鼠径部に卵大の腫瘤を視認、触診するも激痛を訴えた。
BP194/95mmHg、HR~78回、SPO2~99%。
局所の疼痛、腫瘤所見のため急性腹症を疑い、本人希望の仰臥位で搬送した。
病院収容後緊急開腹手術が行われた。
(診断名:大腿ヘルニア嵌頓:重)

症例5

「21歳女性、下腹部の激痛、嘔気あり、動けない」との内容で出動。
現場はマンション2Fで居間に寝間着姿で側臥位でおり、意識清明、顔面蒼白苦悶様、冷汗あり、嘔気あり、突然の下腹部の激痛を発症、少量の性器出血あり、生理について問診すると予定月経が遅れていることを聴取した。
BP80/58mmHg、HR~106回、SPO2~97%。
婦人科疾患を疑い、本人希望の側臥位で搬送した。
(診断名:子宮外妊娠:中)

考察

(1)急性腹症とは、急激に発症した強い腹痛を主訴とする腹部疾患で迅速な治療を必要とするものであり、問診・バイタルサイン・疼痛の性質や部位・視診・触診等が重要である。特に下腹部痛は下部腸管疾患以外に泌尿器科や産婦人科領域の疾患が含まれ解剖生理学上複雑であるため知識と経験が特に必要である。

(2)女性の下腹部痛は妊娠を疑うことが最も大切で、生理の有無等の問診が重要である。
しかし、意識清明で若い女性患者の場合は、観察が不十分なことが多く常に反省している。

(3)全国で390名(H17版消防現勢による)の女性救急隊員が現場で活躍している。乳幼児や女性患者への対応には、これら女性隊員の必要性を特に感じる。


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06.7.31/9:31 PM

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