症例9:急激に進行する呼吸困難

 
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症例9

60歳男性が呼吸困難を訴え、某日10時32分に救急要請されたもの。6分後現着。現着時、傷病者は布団に入っていたが上体を起こしていた。頻回に咳をし、妻が背中をさすっていた。

観察結果
意識清明。顔色不良、瞳孔3mm、麻痺なし、四肢は冷たく指先にはチアノーゼを認めた。上半身に発汗あり、体温35.6℃、血圧90/76mmHg、脈拍150回/分、不整。SpO2 92%。

車内収容からの経過
傷病者をストレッチャーにて車内収容し、心電図モニターを装着するとともに酸素をマスクで3L/分投与した。心電図では脈の不整を認めた。現着から車内収容まで6分。患者は呼吸困難を訴え、傷病者は頻回に咳をし痰を排出していた。病院到着まで7分を要した。


Q1. 問診と観察の要点は

Q2. 処置は


A1.

疾患として考えられるのは、覚知時点では通報内容が「息が苦しい」だけだったので、いくらでも考えられる。窒息、肺炎、心臓病などである。覚知時点で家族が「朝からだんだん具合が悪くなってきたようだ」と言っていたので、進行性の疾患が考えやすい。この進行原因とその程度を聞くのが問診の要点となる。既往歴を聞くだけで疾患はかなり絞ることができる。特に、以前同じような症状があったかは絶対落とせない。
本症例の場合、家族に聴取したところによると、1週間前から風邪を引き、仕事を休んでいた。前日夜から胸が時々苦しくなったが短時間で治まるため様子を見ていたこと、当日朝からだんだん呼吸が苦しくなってきたため出場を依頼したとのこと。本人は以前にも似たような経験があったがこれほど苦しくなったのは初めてとのことであった。

A2.

体位は変えない。自宅で既に起座位でいたので、そのまま担ぎ上げて起座位のまま車内収容・搬送した。余っていた毛布を丸めて抱えさせることにより状態を安定しさせ車の揺れに耐えやすくした。
ショック体位はこの場合禁忌である。
酸素は可能な限り高流量で与える。リザーバーマスクがあれば使う。


病院での経過

病院到着時のバイタルサインは救急隊の報告と同じ。胸部聴診にて湿性ラ音を認め、外頚静脈の怒張も認めた。

胸部レントゲン写真では中肺野にバタフライ陰影を認めた。

胸部CTでは肺水腫と大量の胸水を認めた。

入院時心電図モニターでは頻脈性の心房細動で脈拍100~160/分、心室性期外収縮が散発していた。ホルター心電図では頻脈発作が頻発していた。

治療は来院時に脈拍を抑える薬、一般名ベラパミルを投与し心拍数を80程度に下げましたが心房細動は消失しないため、ジギタリスとフロセマイドを併用することにより3日後に胸水は消失した。


Q3. 考えられる病態は


心不全。

不整脈によって血液を運ぶ働きが低下し、それで肺に血液が溜まって呼吸困難になったもの。初めのきっかけは不整脈ではなく感染かもしれないし、それは断定できない。不整脈を抑え心臓の収縮力を高めることによって心臓のポンプとしての機能を向上させ、さらに利尿剤で体の中の余分な水分を排出させることによって心臓の負担を軽くた。その結果、心臓は元気になり肺に溜まった水もなくなったのである。

ショック体位は心臓が弱っているのに足をあげてさらに心臓に血を戻すことは致命傷となりかねないので禁忌である。


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