手技56:気道確保方法のいろいろ

 
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気道確保方法のいろいろ

講師:高橋亮介 岩見沢地区消防事務組合

 

 

 

 


目次

はじめに

救急現場においてはCPA症例のみならず、舌根沈下や唾液、血液などの口腔内貯留、気道内異物など救急隊が傷病者の気道を確保しなければならないケースがある。
今回は気道を確保するための手技と注意点、少々のコツについて述べる。

A.用手で気道を確保する

実際の現場では舌根沈下に対する気道確保を行うケースが最も多いと思われる。第一選択は一般的に頭部後屈顎先挙上法、下顎挙上法を用いる方がほとんどであろう。大概はこれらを用いることで事足りると思われるが、自発呼吸があっても体格の大きな傷病者などではまだ気道開通が不十分なケースが存在する。また、吸引処置も併せて必要なケースも少なくないだろう。
こんなケースでは頭部後屈顎先挙上法+下顎挙上法+開口を行う方法を試すのも一つの手段である。

1. トリプルマニューバー

 最初に頭部を後屈し、後屈を維持したまま下顎を挙上する。手のみでの後屈維持が困難であれば膝で頭部を押さえる、頭部を挟み込むなどで後屈を維持する。次に開口を行うのだが、試みるときには母指を除く4指で下顎を持ち上げ、母指と示指で下顎をつまみ、母指で下方へスライドするようにすると開口を行いやすい。(写真1)
 あるいは親指で上顎を押さえつつ、母指を支点として下顎骨に当てた示指を前方へ押し出すようにして開口させる方法もある。
自分にあった方法で試みるとよいだろう。

2. 口を開ける

 また、粘液の吸引目的などで開口を行いたいが障害があるケースなどでは術者の一方の手を頬骨に当てて支点とし、もう一方の手を下顎骨に当て開口するまで内下方へ押しつけて開口させる方法もある。ムンクの有名な絵画「叫び」をイメージすると解りやすい。(写真2)

嘔吐時に顔を横に向けた場合でもこの手技で開口させることが可能である。
BVM使用時も上記の方法で閉口したままでは送気に抵抗を感じる場合に応用できる。

 EC法に慣れれば左手でマスクホールドをする場合、Eを構成する3指で下顎をやや右前方へ押しやることで顎関節を調整し開口することが可能になる。この場合、小指をしっかり下顎角に食い込ませることがポイントとなる。(写真3)

このように意識のない傷病者に対してはまず用手で気道確保を試みる。それでも気道が開通していないと判断した場合は頭部を元の位置に戻して気道確保をもう一度やり直してみた方が良い。
それでも気道確保が不十分と判断した場合は異物、粘液などによる閉塞を疑う。

B. エアウェイを使用する

気道確保を確実なものにしたい場合、病院到着まで長時間を要する場合などはエアウェイを使用して呼吸を管理することも選択肢に入ってくる。

1. 経口エアウェイ


 使用前に嘔吐反射が残存していないことを確認しなければならない。
確認方法の一つとして睫毛反射を見る方法がある。
閉眼している傷病者に対して睫毛を刺激したときに眼瞼の収縮が認められないことを確認する。これは睫毛反射と嘔吐反射はよく相関していることを応用したものである。(写真4)

 口角から下顎角までの適切なサイズのものを選択する。
短すぎると舌を圧迫して気道閉塞を助長し、長すぎると喉頭蓋を圧迫し完全気道閉塞をおこす可能性がある。そのため確実なサイズ選択をする事が重要である。(写真5)

挿入時は口腔内を通過するまでエアウェイの先端を頭部側にして挿入する。咽頭後壁手前まで差し掛かったところで徐々に回転させながら挿入していく。

2. 経鼻エアウェイ


 

 鼻尖から耳朶までの適切なサイズのものを選択する。サイジングを違えると経口エアウェイと同様の危険があるので確実に行う。(写真6)

挿入時はカット面が鼻中隔に当たるように挿入していく。

 尖鋭側を鼻中隔に当てると血管を傷つけやすく、血液の誤嚥を誘発する可能性がある。

右鼻腔からの挿入は地面に垂直に、左鼻腔から挿入する場合は先端が鼻中隔を通過するまで逆向きに挿入し、鼻中隔を通過した段階から反転させつつ挿入していく。(写真7,8)
痛みにより交感神経を刺激し、血圧上昇を招く可能性があるため項部硬直や脳出血が疑われる所見がある場合や頭部、顔面外傷の傷病者は使用を見合わせた方がよい。

どちらを使用しても挿入後直ちに呼吸を確認し閉塞音がしないことを確認しておく。

 

C. 特定行為を行う

傷病者がCPAであれば、救急救命士は特定行為を実施することになる。挿入法については諸氏それぞれの持論があると思われるので今回は細かく説明せず、挿入時の注意点と筆者が勝手に思っているコツを主に述べる。

1. ラリンゲルマスク(筆者は脱気をした形で挿入する)

 サイズは体重毎に設定されている(表1)が、カフ圧を設定値以上にするとマスクが弾性を持ち、喉頭に密着しづらくなり、傷病者を移動する機会の多い救急現場では最悪の場合チューブが抜けてしまうこともある。
そのため口腔内確認の際に1サイズ大きい器具が挿入可能であれば大きいサイズを選択し、カフ圧を規定の量より少々低くする方法も一つの選択肢であろう。(写真9)

(表1)

 チューブ挿入時の舌の巻き込み、気道閉塞を防ぐため頭部後屈を行い挿入完了まで左手でしっかりと維持する。不安定であれば膝を使うなどして頭部後屈を維持し、その場合は左手で下顎と舌を持ち上げることが可能となる。(写真10)

歯牙によるカフ損傷に注意し、マスクが口腔内に収まるまでは慎重に操作する。

 挿入する際は術者の指が自身の体を突き刺すような形で硬口蓋に沿う形である程度の勢いをつけてマスクを進める。(写真11)途中で抵抗を感じる場合がある。そのような状況下では力を加えて挿入しようとするとマスクは折れ曲がってしまうので一旦止める。

 抵抗の原因は解剖学的問題(加齢による咽頭後壁の変形など)によるものであるケースが存在するので抵抗を感じたら頭の位置を高くする、

 後頸部に手を差し入れて頭部後屈角を大きくするなど後咽頭壁の角度を鈍にすることを考慮する。(写真12,13)

あるいは挿入角をやや浅めに変えるなどして抵抗を感じないポジションを見つけると上手くいくケースなどもある。

挿入後は送気圧が20cmH2Oを超えるとシール能力の限界を超え、食道への空気流入や留置位置のずれなどが起こる。特に挿入直後はマスクが馴染まずエアリークが起こりやすいため丁寧なBVM操作を心がける。
換気は心臓マッサージと確実に同期させ、気道内圧を低く保つことも重要である。(注:ガイドライン2005では同期させないことになった)

2.コンビチューブ

サイズは(表2)で掲げるとおりである。固定の際、食道カフへの送気量が多くなると食道損傷のリスクが増すため定められた以上の空気を入れないよう注意する。
このことから、コンビチューブのサイジングに関しては適用基準を遵守すべきであろう。
(表2)

 頭部後屈を行うと気管挿管となる可能性が高くなるため、挿入時は下顎挙上法を行い開口と舌の引き上げを意識する。(写真14)
 コンビチューブでは喉頭展開を行いながらの挿入にもチューブの軌跡を追うことが可能になり、異物の有無も同時に確認することも可能になるメリットがある。縊頸などの頸部に外力がかかったと推測される事案では甲状軟骨骨折などによって食道が変位、狭小化していることも考えられるので喉頭展開を行いながらの挿入が有用な場合もあるだろう。(写真15)

挿入の途中、軽い抵抗を感じる場合がある。これは披裂軟骨にチューブ先端が当たるケースが多いので軽い抵抗を感じたら力はそのままで、位置を少しずつ変えながら挿入していく。位置を変えても入っていかない場合は、前述と矛盾するが少しだけ頭部を後屈すると食道の拡張によって上手くいく場合もある。

挿入後にBVMを揉んだ時に抵抗を感じるケースがある。この時は挿入の深さを調節してみる。特に標準サイズのチューブで試みたケースではチューブの挿入位置が深すぎることが多いようである。体型や解剖学的な問題にもよるが、リングマーク位置を門歯に合わせることに囚われすぎないように注意する。

食道損傷例が報告されているが、実際使用の段階で食道損傷の危険があるということを認識し愛護的に操作することで処置者側の原因による危険はほぼ回避できるものと考える。患者側に原因があり、救急現場でリスクが判明しない場合もあり得るが稀なケースであろう。

コンビチューブによる気道確保時のCPRは非同期でも良いという話も聞くが、気道内圧上昇によって、カフのシール能力の限界や食道の拡張などにより、胃への空気流入や先にも挙げた食道損傷などが考えられ、蘇生に悪影響をもたらす可能性がある。そのため換気は心臓マッサージに同期させた方が良いと考える。

 

D. 結語

 

現場での気道閉塞は一刻を争うものである。どの方法を選択するとしても、迅速に気道を開通させること、時間をかけずに効率良く酸素を送り込むことが「目的」であり、エアウェイを使用した気道確保はあくまでも一つの「方法」である。もしも用手での気道確保手技やバックバルブマスクのみでの換気手技などで気道、呼吸を管理できるならそれに越したことはない。

日頃からいろいろな気道閉塞のパターンを頭でイメージし、現場では即座に対応できるように自分なりの手技を確立しておくことを勧める。

(講師:高橋亮介 岩見沢地区消防事務組合)


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