手技83:知識を整理しよう(3):酸素・血圧・意識

 
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手技83:知識を整理しよう(3):酸素・血圧・意識



基礎講座の最終回はいろいろな知識を整理する。

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I 酸素投与 救急隊が内科の医者と対立する要因の一つが内科疾患患者に対する酸素投与だろう。「高酸素状態は有害だ」「高酸素で呼吸が止まる」というのが医者のいい分である。
1)呼吸の調整 ヒトが呼吸するのは、脳から呼吸する命令が来ているからで、その命令は普通血液中の二酸化炭素の濃度で決められる。この感知器は頸動脈にある(図1、2)。
 ところがいつも呼吸が苦しい慢性呼吸不全の患者さんだと、常に二酸化炭素濃度が高いため二酸化炭素センサーがだめになっていて、しょうがなく酸素センサーが働いて呼吸をさせている(図3)。 酸素センサーが呼吸を受け持っている状態の患者に高濃度酸素を与えると「しまった呼吸をさせすぎた」と脳が驚いて呼吸を止めてしまう。

実際に酸素マスクをしたとたんに呼吸をしなくなったおじいさんを見たことがある。

2)低酸素への反応 肺気腫などで長期間低酸素状態が続くと体のほうで対応して生き延びる機構ができてくる。代表的なのがヘモグロビンと酸素の結合の強さである(図4)。

また二酸化炭素が上昇することによる血液pHの酸性化に対しては重炭酸が増えることによってpHは一定に保たれる。

3)高二酸化炭素への反応 低分子化合物にはおしなべて麻酔作用を持っている。手術中に患者に吸わせる薬品はもちろん、プロパンガスやエチレンなどの可燃ガスも設備さえあれば麻酔に使うことができる(図5)。

二酸化炭素も高濃度を吸わせると患者は寝てしまう(CO2ナルコーシス)。これらの麻酔作用は可逆性で、吸わせるのをやめると何事もなかったように目が覚める。常に二酸化炭素濃度の高い患者は耐性がついており例えば100mmHg(正常40mmHg)の二酸化炭素濃度でも日常生活をしている。二酸化炭素の濃度は蘇生に影響を及ぼさないことも分かっている。

4)酸素投与の目安は 外傷患者ではいくら酸素を与えても問題とならない。

内科疾患ではCPA以外では高流量酸素を必要とすることはまずない。酸素投与の指標になるのはSpO2だが、これも老人になると92%くらいで生活している人がざらにいる。内科医が口にする酸素投与開始のラインは呼吸苦などの自覚症状とSpO2が90%以下の場合である。しかしこの場合でも患者の意識がある場合には1L/分から開始して徐々に流量を上げていくようにしよう(図6)。そうすれば内科医に怒られる確率は格段に低下する。

II 血圧 血圧は今や器械が測ってくれるので測定に関しては知識のいらない項目となった感がある。しかしその評価となるとなかなか難しい。ここでは初めに高血圧について述べ、次に現場の話題を取り上げる。傷病者ばかりでなく自分のことも考えよう。
1)高血圧とは 現在の高血圧の診断基準では、正常血圧は130/85mmHg未満である。これは収縮期血圧は130を超えず、かつ拡張期血圧も85を超えないということである。高血圧は収縮期血圧が140を超えるか拡張期血圧が90mmHgを超えている場合とされる(図7)。

治療開始は160/90を超えた場合で、70歳以上では収縮期圧が(年齢+100)を超えた場合とされている。

2)血圧が高いと危険か 危険である。北海道端野町と壮瞥町で行った疫学調査では血圧レベルが高いほど段階的に心血管疾患死亡が増加し、生命予後が悪化することが示されている(図8)。
 また虚血性心疾患と脳卒中の死亡を促す因子は年齢、収縮期血圧、血糖値であった(図9)。
 さらに日本人100万人の解析では、いずれの年齢層でも虚血性心疾患死亡率は血圧に従い直線的に上昇する。注目すべきは若い人ほど傾きが急なことで、若い人ほど血圧が高いことが危険であることが分かる(図10)。また血圧が低いほど死亡率が上昇する報告もあるが、日本人の場合それは収縮期で110mmHg以下とされている。 ついでに、茨城県の40歳以上の男性3万2000人の全死亡に対する危険因子の関与度は高血圧11%高血糖3%に対して喫煙が24%であった。

高血圧を気にしている読者諸兄、血圧の治療より禁煙が先である。

3)血圧治療の目標は

高齢者で140/90、若年者・中年者で130/85mmHgとされている。75歳を超えると血圧を下げることにより他の臓器に血液が回らなくことがあるので、症状や検査所見を見ながらゆっくり下げていくことが肝要である。

4)なぜ血圧は測れるのか 標準的な聴診法ではコトロコフ音出現時点を収縮期血圧、コロトコフ音が消失した直前の音の血圧を拡張期血圧としている(図11)。
 コロトコフ音が何物なのかについては今もって分かっていない。聴診法に対して自動血圧計や家庭で使っている血圧計はオシロメトリック法といってカフに伝わる微弱な血管拍動を感知して数値にしている(図12)。自動血圧計が振動に弱いのはそのためである。またコロトコフ音を聞いているわけではないので理論的には正しくない。本当に正しい値を出すためにメーカーは日々プログラムの開発に余念がない。
5)どこで計るか 上腕で計る場合は肘の内側(小指側)に聴診器を当てる。決して真ん中ではない。触診法で計る時は肘か手首の親指側に指を置く(図13)。
6)マンシェットや服について 教科書には
(a)マンシェットの幅は腕の円周の40%の幅とし
(b)服はたくし上げて裸の腕で計る
(c)マンシェットを巻く時は指が1ー2本はいる程度のきつさにする
と書いてある。しかし著者らが検討した結果ではこれらa,b,cの条件は厳密なものではなく、とんでもなく外れたことをしない限り満足できる値が得られる(図14ー16)。

また血圧で大切なのは一回の値よりも時間とともにどう変化したかであることも覚えておこう。

III 意識 意識・A・B・Cは観察の基本である。広く用いられているJCS以外にも意識の評価方法はいろいろある
1)意識とは

自分がどこにいて何をしているか認知する能力を言う(図17)。

 意識障害はJCSで定義しているような直線的なものではなく平面的な広がりを持っている(図18)。
2)グラスゴーコーマスケール 世界的に用いられるのはグラスゴーコーマスケール(GCS)である(図19)。これはイギリスのグラスゴーでの会議でこのスケールが策定されたことによる。意識を見るのだからもともと片麻痺があってもそこは評価しない。いい点は意識の質と運動麻痺の評価も行う点で、逆にそれがこのスケールを煩雑で覚えづらくしている。
3)意識評価での注意点 まずは意識障害を疑うことが一番のポイントである。患者が眠っているときには3回起こしてみる。意識障害がなければ少なくとも3回起こせば起きるし、少なくとも15秒は目を開け続けることができる(図20)。またJCSの場合桁の端数(20と30の違い)はそんなに気にしなくてよい。
4)ついでに瞳孔も観察する意識障害に先立って瞳孔不同が出現することがある(図21)。ついでに見ておこう。瞳孔不同が確認された場合は生命に危険が差し迫っていると考えてバイタルサインのチェックを頻回に行う。

終わりに

連載開始当初は基本的なことを書いて2年くらいで終わるんだろうと思っていて、まさか8年以上も続くようになるとは予想もしていなかった。8年の間に救急隊員の地位は着実に向上し、今や現場で挿管しアドレナリンを投与できるまでになった。しかし大切なのは資格を極めた救命士がその隊にいることではなく、点滴やコンビができなくても有効な心マができ短時間で現場を離脱できる隊が増えることだと思う。筆者の書いたものがこれからも活動に役立てばこれに勝る幸せはない。また一緒に執筆を手伝ってくれた(というより丸投げを受け止めてくれた)救急隊員と、編集室の皆さんにもこの場を借りて感謝申し上げたい。ありがとうございました。



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07.7.22/11:51 AM

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