手技87:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(2)安全管理と接遇

 
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手技87:救急隊員を目指す初任科生へ

第二回
安全管理と接遇

今月の先輩

沼田一成(ぬまた かずなり)

42歳

北海道岩見沢市栗沢町 出身

昭和58年消防士拝命

趣味は鮭つり

→沼田一成の他の著作

・「阿寒湖消防が語る「冬の救急」」 (0)-総論

・「阿寒湖消防が語る「冬の救急」」 (1)-設備資器材編

山原清一、山崎達生、森豊、沼田一成、八幡誠八、野沢秀一、日村義彦:口頭指導用CPRイラストの有用性について。プレホスピタルケア 2002;15(1,通巻47):44-47

月刊消防2001 2月号「最新救急事情」転院搬送の問題点


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


はじめに

第1回では救急隊の発足から現在までの発展について説明しました。第2回目は活動時に大切な安全管理と接偶について説明します。


A。安全管理
 安全管理とは、一言でいうとこと故や怪我に遭わない、遭わせないことです。そのためには救急隊が一つのチームであること、3人もしくは4人の隊員各人が自分の役目をしっかり理解し活動することです。

隊員間の意思疎通が安全管理で一番大切なことです。救急現場では一人では活動できないことの方が多く、資器材の搬送(1)、観察、処置、傷病者(2)の収容などすべてにおいて息が合っていなければうまく行きません。隊長が指示をすべて出さなければ活動できない隊では現場(3)出発までの時間の遅延が予想されます。結果として、注意力が欠如し様々なこと故や怪我を招いてしまうことになりかねません。あうんの呼吸で活動が進み、肝となるところでは隊長が判断し指示を出す。そのためには日頃からの勉強と訓練を充実させておくことが大切です。

さて、具体的な安全管理として、出動前、活動中、帰署後と3つに分けて考えてみます。各員の任務については第1回を参照してください。

1、出動前

写真1
左端、燃料メーター
(a)車両および器材の点検 もちろんどこの隊でも日朝夕点検していますね。

車両点検はネンオシャチエブクトオバシメ+赤灯、サイレンですね

(これはオートバイの点検方法として昔習いました。自動車にも応用できると思います)。

燃料(4)(写真1)、


写真2
エンジンオイル量の点検。ブレーキ、ラジエターはオイルではありませんが一緒にチェックしましょう。また一緒にプロペラシャフト、ドライブシャフト、ジョイント等もチェックしましょう。
オイル(5)(写真2)、

写真3
ブレーキ。フットブレーキ、ハンドブレーキの遊び踏みしろをチェックしましょう
車体、チェーン(6)(駆動系)ブレーキ(7)(写真3)、

写真4
締め付け。普段からのチェック(写真4ー1)に加え、特にタイヤ交換後のハブボルトの増し締めは大切です(写真4ー2)。
クラッチ、灯火(8)、バッテリー、締め付け(9)(写真4)。

写真5
AEDのプリントペーパー。事例によってはあっという間になくなります。
器材は正常に作動するか?電源を必要とするものは容量が十分か?

プリントペーパー(10)(写真5)等の必要な物の残量、


写真6
なくなって慌てるものは決まっています。普段から予備の補充を確認しましょう。
予備は十分か(写真6)?

写真7
ストレッチャーの軽い動きは傷病者を守るだけでなく救急隊員の腰も守ってくれます
ストレッチャー等可動部分がある器材は稼動がスムーズか?(07年3月号参照)(写真7)救急用消耗品(11)は必要な数量補充されているか。

写真8
酸素の残量はボンベ内圧で分かります。酸素は単純に圧縮されているので、圧力がそのまま残量に比例します。
酸素(12)の残量は十分か(写真8)。

写真9
予備ボンベ。
 予備ボンベ(13)(写真9)を積載しているところはその残量も確認するとベストでしょう。 出動前にできる安全管理は、点検を十分行うことだと思います。

私の隊では2002年まで2B型の救急車を使用しておりました、酸素は3。6リットル2本を積載、予備ボンベ1本を積載していました。予算の都合上、なるべく残量を使い切ってから充填に出すようにしています。しかし、残量が30キロから50キロ位のところが交換するかどうかの迷いどころです。3次救急医療機関まで80キロ、時間にして80分。今は酸素10リットル毎分で使用することはよくあることと思いますが、その頃は3。6リットルのボンベが標準装備でした、最初に使用するボンベの残量によってはどうしても足りなくなることがありました。搬送経路途中にある救急隊に路上でボンベを借りたり、傷病者の状態を見ながら酸素を節約したり等の苦労もしました。今は10リットルが標準装備ですから、それぞれの隊の1出場最大消費量+少々積載していればベストでしょう。

また、サンバー(14)を積載しているとこはさらに酸素消費量が多いことと思います。

それぞれの隊の活動状況を十分考慮しましょう。

2、活動中

写真10
感染防御アイテムを装着したところ。
(a)装備 個人の装備をきちんと身に付けることです。

ヘルメット(15)、ゴーグル(16)、マスク(17)、感染防止服(18)、手袋(19)(写真10)などで感染防御はしっかりと行いましょう。現在では救急出動時において手袋とゴーグルは標準装備であり傷病者の状況に応じて感染防止衣、マスクを着用します。実際には通報内容から傷病者が感染症の可能性がある場合や嘔吐、吐血などのある場合は内因性疾患・外傷症例に関わらず感染防止衣とマスクも必要です。また、ヘルメットは外傷症例では欠かせません。


写真11
車内に保管されている予備手袋。
 手袋は車内にも積載しておきましょう(写真11)。 田舎では状況によっては、どうしても複数の傷病者と接触しなければならないことがあります。その時はそのつどグローブを履き替えましょう。また、手袋は活動中に容易に破れるので、常に感染防止衣や救急用ジャンバーのポケットに予備の手袋を数枚入れておきましょう。

私の住む田舎では、交通量が少ないせいか、それなりにスピードを出している車が多く、単独事故でない限りは傷病者が複数になります。救急車は1台、場所によっては応援の救急車が来るまで40分から60分もかかってしまうため、2名収容する時もあれば、現場では応急処置のみ行い一番の重傷者のみをまず搬送することもあります。どちらにしても、複数の傷病者が出血していた場合には止血処置を行います。交差感染をさけるために可能な限りそのつど手袋を替えるようにしています。

(b)緊急走行中 緊急走行中でも車両の運行は交通法規(20)、関係法規(21)を遵守しましょう。

赤信号の交差点、見通しの悪い交差点はその直前で一時停止しましょう。

走行速度は十分に安全を確認できる場合を除き一般法定速度で走行しましょう。

現在の自動車は密閉性が高く外部の音が聞こえづらいのでサイレンを過信しないようにしましょう。

走行中処置を行う時は着席または床面に膝をつく、など低い姿勢で処置をしましょう。

走行中に心肺蘇生を行う場合は姿勢の保持が困難になるので、機関員は発進、停止、方向転換時は声をかけましょう。
緊急車両が2台以上で続いて走行する場合は車間距離を十分に取りましょう。救急車が2台続けて走ってくるとは思っていない人が多く、1台が通過すると一般車両は動きだします。

私が救急隊員になった頃、橋の欄干に乗用車が衝突する事故があり、重傷者が3名発生しました。救急車と指令車(ライトバン)と2台で走ったことがありました。2台で走行すると、一般車両は緊急車両1台目が通り過ぎると、左に寄って道を譲ってくれた車両が、本来の車線に出てきます。交差点では1台が通り過ぎると、停車していた車は、一斉に動き出します。そうそう2台続けて緊急車両が走ってくると思うドライバーは少ないようです。病院到着までの時間が非常に長く感じ、危険を感じながら乗車していたことがありました。緊急車両2台以上で走る時は、周りの状況に十分に注意して、車間距離は可能な限り十分に取りましょう。


写真12
通信手段として使用している衛星電話、携帯電話、消防無線マイク。
(c)現場到着、観察、収容 現場に到着したら、その場所の安全を必ず確認しましょう。

特に屋外は二次的災害に注意しましょう。交通は遮断されているか、地面は滑らないか、危険物(22)の流出は無いか、救急隊1隊で対応可能か、通信手段(23)(写真12)は有効に使える場所か。

救急隊の増隊、消防隊、救助隊、警察官が必要と判断したら、迷わず早めに出動を要請しましょう。必要なければ、判断した時点で引き上げてもらえばよいのです。しかし要請が遅れると思わぬこと故に遭うかもしれません。

観察時はまず感染に注意しましょう。すべての体液(24)は感染の危険性があるものとして対応しましょう。


写真13
滅菌軍手。傷病者への感染を防ぎ自らの手を守る優れもの。
 鋭利なものや刃物等が刺さっている傷病者の処置をする時は自分の手に受傷しないように気をつけましょう。我が隊では軍手を滅菌(写真13)して積載しています。ケブラー(25)ならなお良いでしょう。 担架(26)、ストレッチャーへの収容時の隊員の腰部への負担は大きく腰部を負傷することがあるので十分に腰を下ろして、作業しましょう。場合によっては関係者(27)の協力を得るのも一つです。
階段、段差、側溝のある場所での搬送では後部保持者は足下が見えにくいので前部保持者が声をかけて搬送しましょう。

傷病者搬送時、ストレッチャー曳航時、車内収容時の振動が傷病者の容態悪化を招くことがあるので、曳航する場所を十分に選択し、静かに素早く曳航しましょう。


写真14
左が清浄綿。右が酒精綿。どちらも滅菌品。
 傷病者引き渡し(28)後、車内、器材に血液体液の付着等があった場合は、酒精綿(29)、清浄綿(30)(写真14)などで清拭(31)しましょう。 災害はどんな場所で発生するかわかりません、救急活動も同じです。山、海、川、湖沼、屋内、地下、その他にもいろいろな場所が考えられます。現在は携帯電話が発達し、一見通信手段に不自由はなくなったように思えますが、携帯電話は民家の少ないところでは不感地帯も少なくありません。私の所属は3つの峠に挟まれており、場所によっては国道上でも携帯電話の不感地帯は多々あります。衛星電話も通信不可能な場所もあります。そんなときはやはり消防無線が頼りになりますが、消防無線でもだめなときは、現場と基地局の間のロケーションのよいところに消防車を一台出動させて、無線の中継をして、通信手段を確保しています。

写真15
どの地点から携帯電話が通じなくなるか、電話会社の資料をもとに独自に調査する必要があります。
 それぞれの地域の実情に合わせた臨機応変な対応でどんなところでも通信手段を確保できるように、日頃の調査(写真15)が大切です。
3、帰署

写真16
署にある消毒用薬剤。それぞれ向き不向きがあるので大まかに性質を把握しておきます。
 帰署したら次の出動に備え資器材の補充と洗浄(32)、消毒(33)(写真16)を行いましょう。 次の出動に対する安全管理は帰署後の資器材の補充、洗浄、消毒から始まります。

写真17
車内は水平面に埃がたまります。資機材の上の埃はこまめに拭きましょう。
 車内の水平面(写真17)は埃がたまりやすいので、その都度清拭するとよいでしょう。

写真18
バイオハザード容器。この箱は黄色のマークがついています。
 ガーゼ、三角巾、針等、使用後体液、血液の付着した、廃棄物は一般廃棄物と区別し感染性医療廃棄物(34)(写真18)として、処理しましょう。

写真19
使用済み注射針を入れる専用ケース。
 手袋、感染防止服等も感染性医療廃棄物として処理しましょう。 感染性医療廃棄物はバイオハザード(35)マークのついた容器に入れましょう。バイオハザードマークは感染性医療廃棄物の容器に表示するマークで国際的に統一されています。マークの色によって容物が分別されています。


・赤色:血液等の液状物
・橙色:血液等の付着した固形物
・黄色:注射針などの鋭利なもの(写真19)

感染防御には帰署後の手洗い、うがいも含まれます。出動毎に励行しましょう。

数年前、車を運転中陣痛が始まった、という傷病者を搬送しました。当時の救急車には臍帯クリップ以外は特に出産に備えた専用の器材等は積載していませんでした。妊婦さんは経産婦で陣痛の間隔も車内収容時点でかなり短く、結局、車内で出産しました。病院は直近の産婦人科を選定し搬送しました。直近と言っても片道60分かかり、後産まで排出されました。当然、車内は羊水と出血に暴露された状態でした。お母さんと、ベビーちゃんそして胎盤を医師に引き渡し、ストレッチャーや車内をシーツ等で可能な限り清拭し、そのシーツ等をビニール袋に入れて帰署し、医療廃棄物として処理しました。

帰署後、すぐに先ほど搬送した病院の医師から電話があり、母子からの感染の心配はありません、と連絡をいただきました。感染防御はそれなりに行っていても、夢中で処置をしているときは気づかずに血液・体液に触れてしまうときもないわけではありません。この医師からの連絡で安心したのと同時に母子ともに健康で搬送できたことを隊員みんなで喜びました。この医師には本当に感謝しています。医療機関と救急隊員間で感染リスクに関する情報の共有はお互い安心して処置をするために大切なことと思いました。

また、この出動をきっかけに、お産セットを購入し積載しています。

B。接遇
 接偶とは救急活動に限らず、立入検査時、受付や業務時等人と接するときに相手に不快な思いをさせることのない基本的なマナーを言います。正しい接遇は相手を和ませこちらの仕事をスムーズに運ばせるために重要です。
1、身だしなみ

写真20
靴を磨いているところ。磨くことによって靴の痛みをいち早く発見でき、事故を未然に防ぐとこができます。
 救急隊員として相手に不愉快な印象を与えない程度の身だしなみに気をつけましょう。 あまりにも長過ぎる頭髪はやめましょう。目や耳にかかるようではいけません。また、ヒゲにも注意が必要です。

整髪剤、香水は付け過ぎないようにしましょう。現場で臭気がわからなくなります。

服装は清潔に、アイロンをきちんとかけ、ほころび等は繕っておきましょう。ほころびはおもわぬ所で引っかかり怪我の原因になります。

ズボンはきちんと履きましょう。最近、街でズボンを下げ気味で履く若者を目にします。救急服をそうしている人はいないと思いますが、どう見ても俊敏に活動できる履きかたとは思えません。

靴はきれいに磨きましょう(写真20)。ソールのはがれや、穴あき等を磨くことによって発見できます。靴の傷みは思わぬところで怪我をします。

私が救急車に初めて乗った昭和58年はまだ感染防止服どころか、手袋も、マスクもしていませんでした、また交通事故も多く、救急車の床が血液だらけになることもありました、そんな時代の交通事故での出動後、帰署したら靴にも当然血液がついていました、そして靴を脱ぐと靴下にも血液がついていたことがありました。靴を点検すると靴のソールの一部がはがれ気味でした。手・足は自分が気がついていなくても小さな傷があったりします。幸い未だに感染したことはありませんが、皆さんも気をつけましょう。

身だしなみは感染防御の第一歩でもあります。

2、挨拶、立ち振る舞い
 救急現場でも自分の身分を明らかにするため、挨拶しましょう。 「こんにちは○○救急隊の○○です。」など、手短でよいと思います。傷病者もその家族も救急隊員を選ぶことができません。突然、知らない人に搬送されるわけですから、不安や心配もあります。身分を告げ一刻も早く信用してもらえばその後の活動のスムーズに運びますし、傷病者の情報を少しでも多くもらえば正しく病院を選定できることに繋がります。

私の所属は観光地です。全国からまた外国からもお客様が訪れます。旅行は人それぞれいろいろな思いで旅行にしているのだなと感じたことがありました。

ホテルで急病人の指令を受け出動すると、ホテルのベッド上で年配の男性がかなりの量の吐血をしていました。観察中も吐血する状態で、重症でありかつ緊急性もあることはすぐにわかりました。しかし、本人は搬送を拒否したのです。「病院へ行きましょう」という救急隊の説得にはなかなか応じず、搬送を拒否しつづけました。私にはとても長い時間に感じました。そんな時、傷病者の奥様に廊下に誘われ話を聞くと、本人は癌の末期であり告知はしていないが気ずいている、覚悟をして旅行中に来ました。とのことでした。しかし、このまま不搬送で引きあげることはできないので、まずは奥様と十分に話しあい、助かる見込みが少しでも有るうちは病院へ行きましょうとお話しし、なんとか納得していただき無事搬送できました。奥様が一緒に話をして下さらなかったらたぶん時間だけが延々と過ぎ、どうしていいのかわからなくなったと思います。その時のことを思い出すと、話したくないことを話してくれた、奥様に本当に感謝しています。

3、救急現場で
 観察時は威圧的にならず、相手が安心できる、理解できる言葉を使って聴取しましょう。「主訴(35)は?既往(36)は?現病(37)は?」と聞く人はいませんよね。 誰でもわかる言葉で話しましょう。相手に合わせるためには時には方言もいいかもしれません。

傷病者やその家族とお話する時の自分と相手との位置や距離にも気を付けましょう。相手と自分の距離が近すぎると馴れ馴れしい印象を与え、遠すぎると孤立感を与えます。近すぎず遠すぎない適切な距離(40cm-1m位)でお話しましょう。また、目線の高さも大切です。傷病者は座っている、または横になっていることが多いため、救急隊が立ったまま話を聞こうとすると相手に威圧感を与えます。状況聴取等する時は立ったまま行わず、なるべく相手の目線と同じ高さか、ちょっと低いくらいの方が、相手も話しやすく、顔の表情もよくつかめます。

私は救急現場で一番苦手なのが子供の観察です。子供は大好きですが、銀行強盗とも間違える救急隊員の完全装備は子供が泣き出ししまうことが少なくないからです。泣かれてしまうと、観察はほとんどうまくいきません。お母さんに普段との違いを聞くか体温を測る程度が限度です。元気よく泣かれるとさらに体温は上昇します。子供といえども言葉は大切です。特に言葉の通じない赤ちゃんでも話すことができないだけで、理解はできていると信じて、なるべく優しく話すようにしています。それでもだめなときもあります。そんなときは、子供が一番好きな、ぬいぐるみやおもちゃを借りてきます、車内収容してからは、重病そうでなければまずは一緒に遊んじゃいます。聴診器がおもちゃになったり、ゴム手袋を風船代わりにしたり、タオルでたこを作ったり、子供用の絵のついたタオルも積載しています。笑ってくれたらこちらのペースで観察を開始します。

傷病者は年齢、性別、職業すべてが様々です。すべての人にあわせられる人はなかなかいないと思いますが、普段から他人を思いやる心があればきっと威圧的になったりすることはないでしょう。

4、接遇は現場だけではありません
 最近救急車の安易な利用が話題に上がることが多いですが、みんなが安易に救急車を要請しているわけでもないのです。 ある日、夫婦二人が自家用車に乗って来署しました。傷病者は40代の妻です。2、3日前より風邪症状があり昨日診療所を受診しています。昨夜より頭痛があり、段々強くなっていて、嘔気もあるため再び診療所を受診しようと訪れましたが、日曜日で休診であったため、市内の受診できる病院を探してほしいとのことでした。直近の受診可能な内科を手配しながら念のため観察させてもらうと、意識清明、呼吸24回、脈拍72回、体温38.2度、髄膜刺激症状はありません。血圧167/136、普段の血圧を訪ねると、収縮期で100一桁台とのことでした。既往は皮膚の疾患、現病は風邪とのことでした。

単なる風邪にしては様子がおかしいし重篤な感じがするので念のため救急車で行きましょうということで納得していただき、救急搬送としました。病院選定は、選定中の内科からさらに25分先の脳神経外科に変更しました。
車内収容後、体位は坐位とし頭部を用手にて保持し、車内の照明は必要最低限とし、サイレン音は弱を選定、とにかく振動の無いように搬送開始しました。

搬送中血圧が168から117に低下するとともにSpO2が99%から96%に低下したため酸素投与を開始しました。搬送開始から50分で病院到着。診断名はくも膜下出血でした。すぐ緊急手術となり、現在は軽快退院、職場復帰しています。自家用車で行っても結果は同じだったかも知れませんが、救急車で搬送してよかったと思っています。

夫婦は自家用車で病院を受診しようと思っていたようです。何かおかしいと思いながらも、風邪による頭痛と考えていたため、救急車での搬送を促しても、救急搬送してほしいような、顔見知りのためか遠慮しているような感じでした。頭痛の発症も急激ではなく、よく言われるようなバットで殴られてような傷みでも急激に発症したわけでもありません。この事例でくも膜下出血を思いつくのは経験が必要でしょうが、遠慮がちな傷病者を安心させ話ができる雰囲気を作るのは新米消防士さんでも可能なことです。


まとめ

日頃の点検、訓練、自己研鑽ができていること、そしてお互いに相手(隊員間、傷病者、その家族)を思いやる心を持ちながら活動することが安全管理であり接遇でもあります。一歩先を考えて活動できる救急隊員になれたとき、仲間からも市民からも信頼される救急隊員に成長しています。
頑張れ、新米消防士!


用語解説

(1)搬送:はんそう。傷病者を担架等に収容して車内へ、または病院へ移動すること

(2)傷病者:しょうびょうしゃ。救急現場で発生した怪我人、病人

(3)現場:げんば。傷病者のいるところ

(4)燃料:ねんりょう。内燃機関(エンジン)で燃やすための材料。ガソリン、軽油などを指す

(5)オイル:Oil。金属の摩擦を軽減し熱の発生を低くする潤滑油。エンジン、ミッション、デファレンシャルに入ってる。

(6)チェーン(駆動系):chain(くどうけい)。ミッションから車輪まで動力を伝えるところ。

(7)ブレーキ:Break。制動装置。

(8)灯火:とうか。前照灯、尾灯、方向指示灯のこと

(9)締め付け:しめつけ。各種ねじの締め付けを確認しましょう。

(10)プリントペーパー:Print paper。ファックス、除細動器、モニター等の記録紙のこと

(11)救急用消耗品:きゅうきゅうようしょうもうひん。三角巾、巻軸隊、滅菌ガーゼ、テープなど使用することによりなくなるものを指す

(12)酸素:さんそ。酸素吸入時の医療用酸素、サンパー(14)の動力源にもなります。

(13)予備ボンベ:よびぼんべ。積載され加湿流量計につながっている酸素・携帯式酸素以外に予備で積載しているもの(2L、3。6L、10L等)

(14)サンパー:Thumper。酸素圧で動く機械式自動心臓マッサージ(胸骨圧迫)装置の商品名。

(15)ヘルメット:Helmet。頭部の怪我を未然に防ぐためにかぶる保安帽。一般的に乗車用を使用している。

(16)ゴーグル:goggles。飛散物からの目を保護します(体液、血液、その他異物)

(17)マスク:Mask。細菌、ウイルス等の口からの侵入感染を予防する

(18)感染防止服:かんせんぼうしふく。身体への体液、血液による暴露を防止する。

(19)手袋:てぶくろ。手、指等の傷からの体液、血液の侵入を防止するとともに、履き替えることにより傷病者間の交差感染防止するために着用する。素材はゴム、ラテックスがある

(20)交通法規:こうつうほうき。道路交通法等を指す

(21)関係法規:かんけいほうき。市町村条例等を指す

(22)危険物:きけんぶつ。危険物の規制に関する政令別表1に掲げる物等を指す

(23)通信手段:つうしんしゅだん。無線機、携帯電話など

(24)体液:たいけき。血液、粘液等。それに触れることにより感染の可能性がある。

(25)ケブラー:Kepler fiber。高強度、耐熱性がある、おなじ重さで鋼鉄の5倍の強度がある繊維のこと。

(26)担架:たんか。平担架、スクープ、ストレッチャーなど傷病者を乗せて移動させる道具

(27)関係者:かんけいしゃ。家族、同僚等傷病者に関わりのある人

(28)傷病者引き渡し:しょうびょうしゃひきわたし。傷病者を医師に引き継ぐ、搬送中の経過の申し送り

(29)酒精綿:しゅせいめん。脱脂綿にエタノールを含ませたもの

(30)清浄綿:せいじょうめん。本来肌を拭くためにできたもので酒精綿より純粋に近い薬液をしみ込ませたもの

(31)清拭:せいしき。タオル等で体等の汚れを拭き取ること。

(32)洗浄:せんじょう。洗うこと、流水でよく洗うことが洗浄の基本。

(33)消毒:しょうどく。病原菌を殺滅すること

(34)感染性医療廃棄物:かんせんせいいりょうはいきぶつ。病院で廃棄されるもののうち感染のおそれのある針や血液などのついたガーゼなどを指す

(35)バイオハザード:Biohazard。Bio=生物の、hazard=危険。病原菌が生き残って人体に危険を及ぼすこと

(36)主訴:しゅそ。傷病者が主に訴えること。通常は最も苦痛である症状だが全く別なことを訴える場合もある。

(37)既往:きおう。現在は治っているが過去にかかった病気

(38)現病:げんびょう。今かかっている病気


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07.8.18/11:32 AM

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