手技94:救急隊員を目指す初任科生へ
第8回
病院や一般市民との関わり
内田麻美(うちだあさみ)
26歳
熊本県熊本市出身
熊本市消防局中央消防署
平成15年消防士拝命
趣味:カヤック・音楽鑑賞・ドライブ
「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」
シリーズ構成
亀山洋児(猿払)
はじめに
このシリーズでは、これまで心電図波形の見方や病態生理など、活動技術の分野について述べてきました。今回は、技術を支える大事な要素でもある、病院や住民との接し方、救急隊員としての態度の話です。
救急活動は、非常に難しい一面があります。それは、ひとえに救急現場と言っても、実際の現場では、傷病者の緊急性の差、救急車を呼ぶ傷病者の思い、家族や周囲の皆さんの思いなど、さまざまな背景を抱えた人達に囲まれて活動しなくてはならないからです。活動は、患者第一という考え方もできるかもしれません。しかし、救急隊が救急現場で市民と接する時間は極めて短いので、市民の評価は、救急隊の技術よりも第一印象で下されてしまう危険を常に内包していると言えます。さらに、救急隊には、活動後に不信感を探知するチャンスも関係修復を図る機会もほとんどありませんから、私たちが誠意をこめて活動している「つもり」でも、現実は市民の意識の中に消防救急へのわだかまりを残したままになってしまいます。
今回のテーマである接し方や態度は、相手の様子をよく観察し、相手の心情を斟酌して活動する。ということにほかなりません。このことを踏まえ、すこし具体的に話を進めてゆきたいと思います。
1救急現場での市民との関わり(図1:手書きの絵はクリックで拡大します)
図1:基本は共感的態度。しかし、緊急度によって基本姿勢は異なる
救急活動時の隊員の態度を考える上で重要なことは、傷病者の緊急度によって基本の姿勢も異なるという点です。傷病者が医師の管理下に置かれるまでに、時間の猶予がある状態の場合には、傷病者や家族にも十分な配慮をして、言葉を尽くし、相手の心情をくみながら進めてゆくことができます。
しかしながら、危機的状況では、病院の選定や活動方針など、家族や関係者へも管理的な対応をとならざるを得ない状況も生じえます。
(1)時間が許される事案を丁寧に処理する意義
救急要請の多くを占めるのは、傷病者の状態から一定の時間が許される場合です。こうした場面で丁寧な活動を心がけることが重要な理由は、このことが非常に難しい対応を必要とする緊急時の対応能力を磨くことにつながっているからです。時間が許される活動で適切な配慮ができない救急隊員が、危機的状況下で適切な態度で活動できるとは到底思えません。緊急時においても、日ごろ培った、目配せ、声かけといった、自然な立ち振る舞いの基盤の上に、危機的状況下でも適切な配慮ができるものです。
ア.服装が与える第一印象(図2)
たとえば、「服装の乱れは心の乱れ」とは消防学校の教官がいいそうな言葉ですが、短時間で良好なコミュニケーションを確率するには、第一印象を決定づける服装にも配慮が必要です。制服がシワだらけだったり汚れが目だっていたりしませんか?救急隊員は消防職員と違い屋内で活動することがほとんどです、足元にまで気を配りましょう。派手な靴下などは気をつけましょう。意外と目立つものです。もちろん、靴下に穴なんてあいていませんよね?
イ.身だしなみが観察や活動に与える影響
身だしなみの問題は、単に第一印象だけの問題ではありません。たとえば香水の問題。つけている本人はいい香りかもしれませんが、気分のすぐれない傷病者が鼻にツンとくる匂いを嗅いだらどう思うでしょうか?もしかしたら匂いでさらに気分を悪くさせてしまうかもしれません。また、観察の技術から見ると傷病者が発する臭い、たとえば、アンモニア臭やアルコール臭などがその人の状態を把握する重要な手がかりとなることもあります。そのような大切な「臭い」も、自身や他の隊員から強烈な臭いが混じってしまえば、かき消されてしまいます。
指輪やピアスなどの貴金属類も問題を生じさせる可能性を持っています。指輪は、結婚指輪であっても避けたほうがいいでしょう。ともすれば自分が身に着けた貴金属で傷病者を傷つけるかもしれませんし、自分自身が怪我をしてしまえば活動に支障がでます。救急現場では「まさか」が命取りになりますから細心の注意を払いましょう。
(2)危機的状況下でのコミュニケーション
危機的状況下では、傷病者の利益を守るために、家族や関係者にも管理的な要求を呑んでいただかなくてはならない場合が生じえます。
危機的状況下で、短時間の活動を進行管理してゆくには、前にも述べた救急隊の第一印象は、特に重要な意味を持ってきます。
皆さんは、患者を搬送した医療機関のドアが開いた瞬間に、「あちゃ~~~」と思った経験はありませんか。第一印象が人に与える影響は、外観6割、話し方3割、話の内容1割、といわれます。
ア.隊の外観(図3)
図3:怪しい仕草は、隊への疑いを生みます。あうんの呼吸で動いている姿が大切です
もっとも家族や関係者の心象を悪くするのは、隊のチームワークです。どんなに技術に秀でた救急隊員が含まれていても、隊全体がちぐはぐな行動をしていると信用を勝ち得ることができません。隊全体が、あうんの呼吸でテキパキと物事を進めていけるように、しっかりとしたトレーニングと隊員間の配慮が大切です。
イ.個人の外観
いくら危機的状況とはいえ、よれよれの服、無精ひげ、きたない襟、香水の匂い、こんな救急隊員が求める管理的な要求を、素直に受け止めることのできる市民はいるのでしょうか。前出の割合から言えば、どんなに正しいことを言っても、話の内容が与える印象は1割しかありません。時間に余裕のない場面での個人の悪い第一印象は、下手をするとそれだけで反感さえ買ってしまうかもしれません。
厳しい状況をスムーズに乗り越えるには、こうした危険を含む要素を可能な限り持たないようにしたいものです。
ウ.話し方(図4)
危機的状況では、家族や関係者も戸惑いや混乱の中にあります。そうした心理状態の人達に早口や大きな声で説明することは、救急隊の意図することを正確に伝えきれないばかりか、説明を行っているあなた自身も異常な興奮に巻き込まれてしまいがちです。危機的状況の時は、意識的に、ゆっくりと思いをこめた、重みのある口調で説明すると、こちらの意図や誠意が伝わりやすくなります。
2救急現場での意思疎通
みなさんは、救急現場で一般市民の方から思いがけない言葉を掛けられたり、自分の意図していない反応をされてしまったことはありませんか?
現場で話かけても何も答えてくれない傷病者が、ベテラン男性隊員の問いかけに答え始めたり、救急隊員には「話はいいからとっとと病院へ行け!」といわんばかりの態度で問診や観察も思うようにいかず頭をなやませた傷病者が、病院では堰を切ったように医師に話し始めたりと、相手や場面によって打って変わった態度で話を始める。私も救急隊員として勤務し始めた頃には、ずいぶん悩みました。しかし、私はこのコミュニケーションこそが救急活動をするにあたって、一番の基本になると思っています。なぜなら、たとえどんなにすばらしい技術や資器材がそろっていても、患者さんが私たち救急隊を受け入れてくれなかったら適切な観察や観察に基づく病院選定さえもできないからです。
(1)相手の心情を読み解く
救急現場で苦しんでいる人は、一刻も早く病院へ連れて行ってほしい、治療してほしいと思っている人々だけではありません。救急要請するまでの傷病者や関係者の背景には、さまざまな出来事が隠されていて、その心情もさまざまです。最近の救急現場では、心を病んだ方に接触することも非常に多くなっています。したがって、最初の接触から必要な情報を取りつつ、傷病者や関係者の心情を読み解き、質問の方法や言葉を適切に選んで会話を進めてゆく必要があります。
(2)相手の立場で考える(図5)
図5:傷病者の身体的な問題だけではなく、苦悩や困惑の本質を理解する姿勢が大切
市民のみなさんは、私たち救急隊員に何かしらのSOSを発して119番通報しています。中には、命に関わらなくても、対応に困窮している場合もあります。「助けに来てやった」「なんだ、この程度で」というような上から見下すような態度は、間違ってもとってはいけません。市民の方々は、私たちの感情から出てしまう、ほんのささいな行動や言葉を敏感に感じ取ることができます。
しかし、私たちも人間ですので、すべての人に献身的に対応したくても、思わず自分の感情をぶつけたくなるときもあるでしょう。また、困った要求をされ、返答に困ることもあると思います。
私も以前、熊本市内から数百キロも離れた場所にある病院への搬送を強く希望され、説得に苦慮した経験があります。
そのようなときは、「あなたのご事情はよくわかります」や、「確かにあなたのおっしゃることも一理あります」など、相手の意見を理解した上で、こちらの話をするとスムーズにことが運ぶ場合もあります。「何を言っているのですか」や、「いや違います」など相手の話を全て否定してしまうことは、焼け石に水です。相手は時に、自分の気持ちや自分の考えを理解してほしいという欲求だけのことも多いのです。
(3)レアケースを心に刻み込まない
相手の立場に立つといっても、中には一日に何度も救急車を呼ぶような方や、本当に嫌な反応をされる現場に遭遇することは必ず起こります。救急隊員間の話題には、事欠きませんね。しかし、体験の度合いが強烈なケースは、救急隊員の心に深く刻み込まれやすく、そのことで将来の救急活動を先入観のみで進めてしまう危険もあります。
私たち隊員にとっては、一日に何件もある、似たような一件なのかもしれません。しかし、今、目の前にいる市民自身にとっては、一生に一度の一大事であったり、皆さんが前に経験した傷病者とは違う環境であったりすることを忘れてはいけません。
ただ単に、「嫌だった」という出来事を刻み込むのは、私たちの中にストレスを溜め込み、客観的な活動に障害の種をまくことになります。私たちの経験するレアケースでは、傷病者や関係者が抱え込んでいる背景や、社会的に病的な側面などの本質的な問題に目を向けると、意義のある経験として生かすことができると思います。
(4)心情を理解して納得を与える活動を
救急活動では、心情を理解して進めることが重要であることをお話してきました。
実は、このことが大切なもう一つの理由は、相手に納得を与えるという意味で非常に重要な意味を持ってるからです。
皆さんには、理解はしているけど、なんだか納得いかない。といった経験はありませんか。
納得には、話をしている内容の正しさと、もう一つ、お互いが内容を心情的に同じ重さで捉えていることが重要といわれます。
傷病者や関係者と良好な会話が成り立たない場合には、あなたが求めている内容の意図が心情的に食い違っている可能性を考えてみましょう。そのうえで、言葉を変えたり、説明の要点を変えてみることによって、相手が話しをしやすくなることもあります。
3救急講習でのコミュニケーション
救急活動と救急講習は、救急現場学の両輪です。
救急隊員の接する時間に制限のある救急現場では、傷病者や家族がどのような心情や思考を持つかを熟慮したり、聞き取りを行ったりすることはできません。
もし、救急活動をとおして、By-standerにこうしてほしい。とか、市民陥りやすい問題行動に気づいていたら、救急講習では、なぜ、そのようなことが起こるのか、あるいは、緊急時の市民の思考にどのような傾向があるのか、といった本質的な問題検索を行って、これを元に活動力を高めるための絶好の機会であるからです。
(1)救急講習の雰囲気づくり(図6)
図6:あとに続く人が、興味を持ち続けるような配慮を心がけましょう
以前の救急講習というと、「勉強」というような堅いイメージを持たれがちで、市民が積極的に講習を受けようという気持ちにさせることができなかったように思います。
しかし、ガイドライン2005になって救急講習のスタイルもずいぶんと様変わりしています。
消防職員が、初めて救急講習を担当するとなると、自分が勉強してきた知識を全部市民に教えようと一生懸命になってしまい、その熱意が市民にとっては逆に「何だか難しいし、覚えることがたくさんあってやっぱり心肺蘇生法なんて無理!」となってしまいがちです。また、そうした私たちの指導姿勢が、「命に関わることだから、正確にしないとだめだ」という大きな負担を負わせてしまう傾向があります。
私の所属する隊での講習の際は、「呼吸の確認」と「胸骨圧迫」の実技を繰り返し反復させます。その中で携帯電話を使って相談する方法を刷り込みます。時間が限られている場合はそれだけしかしません。応急手当の順序や人工呼吸を省くことも多々あります。なぜならば、この二つができれば、電話さえつなげば確実な手当ができるからです。
(2)現場活動からのヒント(図7)
図7:市民の反応をよく観察し、現場で起こっていることをリサーチすることも、救急講習の大切な要素
これらは、心肺停止の患者のそばにいる人が、なぜ直ぐに119通報しないことが多いのだろう。という疑問を救急講習の場所でリサーチして、市民ができると思っていた私たちの誤解に気づいたからなのです。たとえば呼吸の確認は、呼吸をしている時にはどの部位が一番動いていますか?と質問をして、こっそり「息を止めた」隊員を仰臥位にして観察してもらいます。すると市民の反応はさまざまです。「動いていません、息を止めています」と答えられる人は、ほとんどいません。そこで種明かしをして正常な呼吸を披露します。すると市民は始めて自分のイメージと現実の違いや正常の呼吸を知っておくことの重要性に気づくわけです。実際には、そこまで丁寧に説明を行わないと、市民は応急手当を正しく理解することができません。
一方、私たち自身も、講習を繰り返すなかで、(呼吸が)「わからない」という通報内容は、呼吸停止の可能性が極めて高い情報であるという確信を持って活動するようになりました。
(3)実技指導は市民の努力を認めてゆっくり進める(図8)
図8:視線や表情から、迷いの本質を読み解き、その負担を減らすように進めましょう
講習の実技指導では、ひとりひとりに懇切丁寧に手取り足取りで教えている姿を良く見かけます。しかし、そのことが市民に非常に大きな負担を強いていないかを考えて見ましょう。たとえば、ちょっと鼻をつまむのを忘れたら、直ぐに修正を加えたりしていませんか。おそらく、多くの人は、救急隊員の展示を頭の中で反芻しながら、一生懸命にがんばっているはずです、そこに細かな修正を加えると市民の心の中には、難しいなぁ。という感情が芽生えてしまいます。
最初に実技を行う人には、
- 最初に行う勇気をたたえてあげましょう。
- たいていの失敗は目をつぶって、「工夫しながら進めるすばらしさ」を誘導してあげましょう。
そして、指導者としては、実施者の視線、戸惑いの表情をよく読みとって、「この人には、なにが必要なのだろう」と考えて見守ることが大切です。その上で、一つか二つ改善する工夫を提供します。
最初の人より、次の人はもっとよくできるように誘導しましょう。そうすることで、大事な要点を段階を経て無理なく全員が実施できるようになりますし、なんといっても、後の人も飽きずに集中することができるはずです。
このように、救急講習は、市民と一緒になって考えるような方法をとると、市民からも積極的な行動をとっていただけたり、一気に市民と救急隊員との距離を縮めることができます。なにより、「心肺蘇生法は誰にもできる」という自信を持たせることが大切です。
4病院とのかかわり
救急活動の上で、病院関係者とのかかわりは非常に重要です。
病院側は、救急隊員の電話連絡や申し送りから現場の状況を想像したり、治療方針を決定したりしています。したがって、相互の誤解や感情のもつれは大きな障害を生むことになります。救急活動における病院との接点として、最初に重要な活動は、なんといっても患者収容依頼の電話でしょう。電話でのコミュニケーションはさまざまな難しさが介在します。
(1)最初に、目的を明らかにする(図9)
図9:病院へ入ってから整理させる情報も多いものです。申し送りは、全員で行いましょう
収容依頼の連絡で、医療機関からよく言われることは、最初に主訴を伝えてほしい。ということです。なぜ、そのようなことを要求されるのでしょうか。
収容依頼の連絡では、事故種別、性別、年齢、主訴、事故概要、バイタルサインなど、伝えるべき内容が豊富にあり、救急隊員としても頭の痛いところです。
多くの傷病者の場合には、前出したような順序で話してゆけば、そうそう問題はなさそうです。しかし、病院側は、救急隊がどのような状況にあるか解らずに電話をとっていますので、ケースによっては、「それを、先に言ってよ!」ということが起こります。
したがって、最初に「CPA対応です」「急性の脳梗塞発症の疑いです」あるいは、「すみません、受け入れ依頼なのですが、多数の医療機関に収容を断られて困っています」など、最初に現場の雰囲気を伝える、電話を受ける医師の心の準備を促すことが、その後の会話をスムーズにしますし、伝える内容も取捨選択されることになります。
(2)医療関係者との接触の機会を大切にする(図10)
図10:こんな場面でも、Drの中に入っていけないと尻込みせず、積極的に教えを請い、パートナーシップを築くことが大切です
医療は日々進歩していますから、新鮮な情報を得ることも自身の知識向上のためには大切ですねみなさんの中にはJPTECやBLS、ACLS、ICLSという言葉をご存知の方も多いと思います。このような集まりは、消防側と病院側とが密なコミュニケーションをとらなければならない救急活動に寄与するものとして、非常に重要です。
また、救急隊員は病院実習という形でも病院と係わりあいを持ちます。
病院スタッフに自分のことを知ってもらういい機会です。
最初は、異なる環境で働く病院の皆さんとコミュニケーションを図る上で壁を感じてしまうかもしれませんが、先生や看護師の方々は、私たちが思っている以上に私たちの申し送りや処置、なにより救急隊員との会話を大事にされています。
例えば申し送りの時間、あなたは何をしますか?資器材整理に取り掛かってしまい、処置室に戻ることはありませんか?
あなたが隊長ではなくとも、あなたしか見ていない現場の状況や傷病者の様子、周りの事などがあるかもしれません。申し送りは、隊長や救急救命士だけが行うのではありません。積極的に申し送りには参加をするようにしましょう。処置室での動きや医師、看護師の問診、検査内容を見ると救急活動で使える「ネタ」がたくさん落ちていますよ。
申し送りの際には「5W1H」に気を付けましょう。「Who(誰が)What(何を)When(いつ)Where(どこで)Why(どうして)How(どのように)したのか」まるで作文の書き方を述べているようですが、初めてその傷病者のエピソードを聞く人にはこのポイントをうまく伝えてあげることが必要です。それに自分自身の頭の中も整理できます。
また、病院では独自に症例検討会という名前で救急隊員と医師、看護師の意見交換会が行われています。この場所では現場のような堅苦しい雰囲気はあまりありません。このような会に積極的に参加をしてみるとよいでしょう。
(3)学んだことを上手に使う
医療関係者とさまざまな機会を持った皆さんが、医療関係者からの誤解を避けるために注意すべき重要な姿勢があります。それは、聞きかじりの医学用語を使わないということです。救急現場や職場の中でセミナーや研修に参加して、医師や看護師が使う医学用語を、聞きかじりのままで使ってしまっていることがありがちです。
JCSの評価もあいまいな救急隊員が、「アンステーブルな患者で・・・」と、しゃべっていたら、聞いている医療関係者にとっては心地良いものではありません。
初歩としては、言葉だけではなく、学んだことを自分の五感で感じ取った内容で、ありのままに伝えることのほうが、あなたが言葉の意味を正確に理解する上でも、良好なコミュニケーションの中で仕事を進める上でも、大変大切なことです。
まとめ
今回述べてきた視点は、これまで救急隊員の人となりに任せられ、救急隊員教育のなかでもあまり時間を割かれてはいないテーマです。短時間で、さまざまな人達の思いと対峙して活動をしなければならない救急隊員には、非常に高いコミュニケーション能力が求められます。
市民の心情を斟酌するということばかりを考えていたら救急活動はやってられない。という意見もあるかもしれません。しかし、多くの救急隊員の心の中には、不条理な苦情や申し立てが起こるかもしれないという不安を多少なりとも抱えている現実があります。
そして、救急隊員は、そのことによって、無意識のうちに大きなストレスを抱え込み、ちょっとした事で感情をあらわにしたり、強情なほどの正当化をしたりといった反応をしばしば起こしがちです。ここで述べてきたような視点や考え方が実践できて、思考の幅を広く持てるようになるということは、皆さんの心の中に不要なストレスを抱え込むことをなくし、どのような状況の中でも理性的に正しい態度を示すことができるようになる。ということでもあると考えています。この分野は、人と人の係わり合いですので、それぞれの個性により多種多様なコミュニケーションの形態があり、正解は一つだけではありません。
このような方法もあると、頭の片隅に置きながら、皆で、お互いの個性を磨きあい、救急活動コミュニケーション能力を高めてゆきましょう。
OPSホーム>基本手技目次>手技94:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(8)病院や一般市民との関わり
08.4.27/2:02 PM
コメント