手技126:Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第2回)メディカルラリーのススメ

 
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基本手技

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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第2回

メディカルラリーのススメ

Lecturer Profile of This Month

古賀 司(こが つかさ)
46歳
福岡市消防局 南消防署警備課救急係長(第2)
出身:福岡県福岡市東区箱崎
消防士拝命:昭和56年4月1日
救命士合格:平成8年11月(運用開始は12月)
趣味:音楽(演奏&鑑賞)、ツーリング(車&バイク)


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所


Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 2
メディカルラリーのススメ

地域MCを活用法しよう

何かしたい!でも方法が分からない?

普段は、事例検証や病院実習などでお世話になっている地域MC。しかし、役割はそれだけに留まりません。地域に根ざした活動を支えるのも地域MCです。今回は、福岡メディカルラリーを通じて地域MCの活用法を紹介します。


はじめに
Introduction

2002年に千里そして筑波でメディカルラリー(以下「ラリー」という)が開催され、以降日本各地でラリーが開催されています。福岡でも、一昨年に九州で初めてとなるラリーを開催し、その後は毎年1回の開催を継続しているところです。

写真1 MCの協力で開催できた福岡メディカルラリー

当時、地域内では「メディカルラリーって、なに?」と言われたほどラリー不毛の地であった九州・福岡において、いかにしてラリーを開催することができたか? それは、地域救急業務メディカルコントロール協議会(以下「地域MC」という)を活用することにより、地域に根ざした形でラリーを開催することができた(写真1)わけですが、その手法を紹介させていただくことで、当時の福岡と同様にメディカルラリーのような救急関連行事等を「開催したい、でも基盤がない」といった地域の方々の参考になればと思い、ここに紹介させていただきます。



開催準備の紹介
About Fukuoka Medical Rally: Preparation

福岡県では、県のMC協議会とその下部に4つの地域MC協議会があります。今回紹介させていただくのは、私が所属する福岡市消防局を含めて計7つの消防本部と地域内の医療機関が属している「福岡地域救急業務MC協議会」の主催でのラリー開催です。この、地域MCと連携してのラリーを実現するために、私たちは下記のことを行いました。

(1)地域MCへの説明と開催認可の申請
(2)福岡県救急業務MC協議会への説明と開催承認の申請
(3)後援・協賛の依頼
(4)地域MC内の医療機関及び消防機関等への協力依頼
(5)ラリー実行委員会の設置
(6)開催場所の借用申請
(7)競技者・スタッフの募集
(8)意匠確認の手続き

ざっと掲げると上記の項目ですが、以下それぞれの具体的な内容について記してみたいと思います。



☆地域MCへの説明と開催申請

Pitfall:
ラリーを開催したい

Solution:
地域MCの主導でラリーを開催する

そもそも、福岡メディカルラリーを開催するきっかけとなったのは、全国各地で開催されているラリーへ競技者やスタッフでの参加経験がある”好き者”数名が集まり、「福岡でもラリーを開催したい」と言い出したことに始まりました。しかし、冒頭で書きましたとおり、それまで福岡はもちろん、九州内でもラリーが開催されたことがなく、まさに「ラリーって何?」という状態だったので、いきなり「ラリーをやります。参加者を募集します」と告知したところで、一番の狙いである福岡地域内からの参加者を、目的どおりに集めることは到底無理だと想像されました。

『さあ、どうしよう?』

そこで思いついたのは、『地域MCの主導でラリーを開催する』ことです。当然、ラリーのような催しを地域MCの主導で開催するとなると、そのための説明や手続き、各方面との調整など、いろいろと手が掛かることは予想できました。しかし、福岡でのラリー開催の目的として、「地域内の医療機関・消防機関の、プレホスピタルケアにおける観察処置技術の向上と連携の強化」ということを掲げていますので、多少権威的な力だと思われようとも、地域MC主導により「嫌でも?参加してもらう」ことが大切だと判断し、そのような形態での開催を決めた次第です。



そこで、地域MCの主導で開催するために、まずは地域MCへ「ラリーとは何か」という説明から始めました。「メディカルラリーとは?」と銘打った配布文書(資料1)と他地域で実際に行われたラリーの写真を用いて、まずは地域MC内で毎月行われている事後検証委員会の会議上でラリーの紹介と説明を行いました。そこで、ラリーの概要とその有用性について理解を求めたところ、なんとかご理解をいただくことが叶い、地域MC主導での開催について地域MC会長を含めて開催の賛同をいただくことができました。その後の調整により、主催は「福岡地域救急業務MC協議会」、運営主体としては地域MC内の組織である「事後検証委員会」と外傷セミナーや救急隊員総合シミュレーション訓練などの開催に携わっている「研修ワーキンググループ」が協力して行うこととなりました。これにより、ラリー開催に向けてまずは大きな土台が完成したというところです。



☆福岡県救急業務MC協議会への説明と開催承認の申請

Pitfall:
地域MCだけに限定すると今後の発展が望めない

Solution:
上部組織の県MCも巻き込む

地域MCでの開催は認められました。しかし、ラリー開催の一番の対象は福岡地域MCですが、地域内だけに限定した催しとしてしまうと、今後の発展が望めるだろうか?という疑問が出ました。

『では、どうすれば良いか?』

ここでは『県のMC協議会も巻き込もう』と考えました。地域MCのその監督的立場である県MC協議会(実務面においては、事務局である県消防防災課)へ、ラリー開催について承諾いただくことと併せて、開催準備についてはあくまでも地域MCという公的な組織での開催ということを踏まえた手続き等を行うための指導・助言をいただくことをお願いしました。このことにより、福岡ラリーは県MCからもその開催を認められたものとなり、また、開催に際しての具体的な指導・助言もいただきました。特に協賛という面に関しては、後述しますがきちんとしたスタンスでの協力を仰ぐことを求められました。



☆後援・協賛の依頼

Pitfall:
会場手配や資器材の調達はどうする

Solution:
スタンスを定めて協賛を募る

資料2 協力依頼文 ダウンロード

ラリーを開催するにあたり、地域MCから福岡救急医学会や福岡県医師会などの諸団体へ、その宣伝や参加の依頼を行っていただくために「後援」という名目での開催協力をお願いしました。それに向けては、各組織の定例会等において趣旨説明と同意を求める時間をいただき、ご支援いただくことをお願いしました(資料2)。

ラリーを開催するにあたっては多少なりとも必要経費が発生しますが、財源がありません。そこで、競技参加者から参加費を集めることにしました。その額については、全国各地で開催されているラリーで徴収されている平均的な参加費を参考にお支払いいただく値段を設定しました。これにより、通信費や消耗品費、参加者の名札・資料等の作製費といったところが確保できましたが、これだけではラリー開催に足りないところもあります

『会場手配や資器材の調達はどうしよう?』

ここは、なんとか業者さんからご支援いただきたいと考えました。しかし、地域MCの主催という公的な催しという形となったことから、県MC協議会の見解としては直接的な金銭での支援を受けることは好ましくない、との指導があったため、業者さんにはそれぞれ取り扱っておられる商品の宣伝を兼ねた資器材の貸与や、ラリー開催場所を借り上げた上でご提供いただく、といった一定の『スタンス』での協賛をお願いすることになりました。



☆地域MC内の医療機関・消防機関への協力依頼

Pitfall:
地域MC内から参加者を効率的に集めたい

Solution:
正式なMC文章とする

ここまでの準備で、ラリー開催の概要が整ってきましたので、最も重要なファクターである地域MCに所属する医療機関・消防機関からの参加者を募ることに取り掛かりました。これが、開催における一番の問題です。

『どうしたら集まってくれるだろう?』

資料3 参加募集案内文 ダウンロード

ここは、地域MC主催であるメリットを大いに発揮するところです。『地域MC名での公文書で参加を依頼する』ことにしました。事後検証委員会等を通じて、ラリーの開催については周知できつつありましたが、地域MCの名の下に正式な文書をもって開催の告知と参加協力の要請を行い(資料3)、文字どおり”嫌でも”参加していただくような位置付けとしました。



☆ラリー実行委員会の設置

Pitfall:
地域MCだけでは運営に不安

Solution:
実行委員会を作る

福岡メディカルラリーの開催が概ね見えてきましたが、地域MCという名の下に開催するにあたっては実際のラリー運営に関して主体となる体制作りが必要ではないか、という意見が出ました。

『それは、どうすればよい?』

資料4 実行委員会役員一覧 ダウンロード

これについては、『実行委員会を作る』ことにしました。一応、主催を地域MCとしているものの、その運営主体の形を示すためにも「ラリー実行委員会」という体制(資料4)と、

資料5 実行委員会設置要綱 ダウンロード

それに伴う「設置要綱」の制定(資料5)を行うことにしました。

これらは一つの形作りではありますが、制定することによって地域MCでの開催という体裁をより一層整えることができたのではと思います。



☆開催場所の借用申請

Pitfall:
地域住民の衆目の下で開催したい

Solution:
MCの力を借りる最大の場面

いよいよラリー競技の開催場所を決める段階になりました。場所の選定にあたっては、ラリー開催の主旨として前述した「地域内の医療機関・消防機関のプレホスピタルケアにおける観察処置技術の向上と連携の強化」に併せて、「地域住民の衆目の下で行うことにより、救急活動の重要性を理解してもらうための啓蒙活動」ということも掲げましたので、できれば人出が多く見込める場所で行いたいところです。しかし、費用や借用申請の手続き上など面倒な問題も多いのでは、という後ろ向きな意見も出ました。

『どうすれば開催主旨に沿えるか?』

写真2 天神交番前ラリー会場

ラリー開催は、やはり人出が多い場所で行いたい、それには福岡市の中心であり九州随一の繁華街である中央区の天神地区(写真2)を舞台とするのが良いだろうということになりました。これは、第1回目の開催としては無謀ともいえる取り組みでしたが、幸いなことにラリー開催の首謀メンバーに入っている医師・看護師が勤務しており、ラリー開催への理解と協力をいただいた地域MCの会長が副院長を勤める病院が天神地区の中心部にありますので、まずはその一部フロアをラリー会場として使用させて頂くことになりました。

写真3 イベント用広場ラリー会場

それに合わせて、ラリー開催が『地域MC主催である』ことを最大限にアピールし、ラリーを公的な催し物として捉えていただくことにより、前述した病院の目の前にある公園敷地の一部と、その隣にある福岡市役所のロビーとイベント用の広場(写真3)を、ラリー会場として借用することができました。

写真4 福岡西方沖地震の写真

(このうち、福岡市役所1階ロビーにおいては、平成17年3月20日に発生した「福岡西方沖地震」の写真展(写真4)を行い、

写真5 福岡市役所1階ロビーでの写真展

災害体験を風化させず災害対策を忘れないように、という地域住民の方々への警鐘のメッセージを伝える場としました(写真5))

さらには、前述した業者さんの協賛により、天神地区にある2箇所のデパートにあるイベントスペースをラリー会場として提供いただいたことで、多くの地域住民の方々の目に触れる機会となり、救急活動への関心を抱いていただくことができました。


☆競技者・スタッフの募集

Pitfall:
どうすれば競技参加の申し込みがくるだろう?

Solution:
MC、メーリングリスト、市民ボランティア、何でも活用

ようやく開催のハードが整ったところで、ラリーの主役である競技者、そして競技を支えるボランティアスタッフの募集を行いました。すでに、地域内においてはMCを活用して参加のお願いをしていますので、参加者の中でも特に競技者は地域MC内の医療機関・消防機関に所属する方々をメインとして行いたいところなのですが、いくら説明や紹介を行ったと言っても、「ラリーって何?」という根本的な部分は解消できていませんので、地域内からチームを組んでの競技参加者が多数応募するような事態は望めません。

『どうすれば競技参加の申し込みがくるだろう?』

写真6 福岡DMATチーム

まず考えたのは、やはり『MCを利用する』ことです。競技者としてのチーム編成を「医師2名・看護師2名・救急救命士2名」の6人1チームと設定し(写真6)、地域MCに所属する医療機関・消防機関から「それぞれの職種ごとの2名単位で構わないので、競技参加者を出して欲しい」とのお願いをして、それぞれ出していただいた方々(結果として、医師と看護師は同じ医療機関で編成して参加いただいた)を実行委員会サイドで組み合わせてチーム編成を行う、という形で開催しました。また、地域内のみでのクローズな開催とせず、地域内からの参加者の刺激にもなることを考慮して地域外からの参加を募集したところ、長崎県から1チームが参加募集に応じて貰えましたので、競技に加わっていただきました。

また、ボランティアスタッフについては、地域MCに所属する方々については依頼文により参加を(半強制的に?)お願いするとともに、全国版の『救急関連メーリングリストを利用』させていただいて募集を行った結果、全くのボランティアにも関わらず全国各地から多数の医師・看護師・消防職員等の参加を得ることができました。

写真7 ライオン広場特設会場でのBLS体験コーナー

さらに、地域内で精力的に活躍されている市民ボランティア「福岡応急手当普及の会」の方々にも、ラリースタッフとしてのみならず、BLSを題材としたラリー競技ステーションに併設した「BLS体験コーナー」(写真7)において、

写真8 地域住民にBLSを教える

地域住民の方々を対象とした応急手当の普及啓発活動(写真8)を行っていただきました。

このように、いろいろな手段や団体を活用させていただけたことにより、ラリー競技の参加・運営にたくさんの方々の多大なるご協力を賜ることができました。


☆意匠確認の手続き

Pitfall:
シンボルマークを使いたい

Solution:
きちんと契約を交わす

これについては、直接ラリーの開催に関係するところではありませんが、地域MC主導という形で行うにあたり、このような手続きも行ったことを参考までに紹介させていただきます。

全国各地でラリーや各種セミナーを行うにあたり、それに携わるスタッフ等が揃いのデザインのシャツ等を着用している光景をご存知の方も多いことと思いますが、福岡のラリーでも参加スタッフの士気高揚を目的として福岡ラリーのオリジナルマークを作り、それを入れたシャツや帽子などを作成して、希望する参加スタッフへ実費で購入いただき着用してもらいました。

そのオリジナルマークのデザインを考案するにあたり、救急関連と言えばやはり皆さんご存知の西洋医学のシンボルと言われる「スターオブライフ」を取り入れたい、ということになりました。しかし、地域MC主催としてはその意匠を勝手に使用する訳にはいかないのでは、ということになりました。

『どうすれば使えるの?』

資料6 シンボルマーク

やはり、地域MCという公的な組織で開催するイベントで使用するためには、きちんとした形で「スターオブライフ」をデザインに使用することを認めていただくことが必要と考えました。そのため、「スターオブライフ」の商標登録をしている特定非営利活動法人・ウォーターリスクマネージメント協会へ申し入れをさせていただき、『意匠確認の依頼文を送付し、確認書を取り交わす』という手続きを行うことで、正式に「スターオブライフ」のオリジナルマークへの使用を認めていただきました(資料6)。


開催結果
Holding the Rally

資料7 開催案内チラシ 閲覧(PDF)

このように、初めての開催であり地域MCの主導という形で行うという、まるで手探り状態から準備を始めた第1回福岡メディカルラリーですが、結果的には4つのシナリオステーションと2つのスペシャルステージ(アトラクション)を設営し、競技者10チーム60人とボランティアスタッフ約150名の参加を頂いて、盛会に開催するに至りました。当日(平成19年11月17日)は、少々寒かったものの好天に恵まれ、参加者全員に事故もなく、予定どおりに競技を終えることができました(資料7)。


おわりに
Writer’s Comment 以上、福岡でのラリー開催への取り組みを紹介させていただきました。読んでいただくと、多分に「面倒くさい作業ばかり」だと感じられた方も多いと思いますが、地域に根ざしたものを行うためにメ地域MCを活用”することも一つの手段である、というところを感じていただけたら幸いです。このような、福岡で行った方策がすべての地域でそのまま活用できるものではないと思いますが、今後それぞれの地域においてラリーその他の救急関連イベント等を開催する際に、その推進策の一つとして、また地域に根ざした行事として認められる開催方法の一例として、多少なりとも参考になりましたら嬉しく思います。

最後に、福岡メディカルラリーを開催するために多大なご尽力をいただいた”好き者”仲間の皆さんを紹介して、この稿の終わりとさせていただきます。



福岡メディカルラリー実行委員
Acknowledgement

壁村 哲平 :福岡地域救急業務メディカルコントロール協議会会長
(済生会福岡総合病院副院長)
岸川 正信 :済生会福岡総合病院救命救急センター長
安田 光宏 :九州大学病院救命救急センター医局長
喜多村 泰輔:福岡大学病院救命救急センター医局長
則尾 弘文 :済生会福岡総合病院救急部部長
納富 一則 :福岡市消防局東消防署警備課救急係
山本 忠生 :粕屋北部消防本部警防課救急係主任
西原 仁子 :済生会福岡総合病院初療室
高田 久美 :済生会福岡総合病院初療室
井上 和幸 :福岡市消防局警防部救急課長・当時
(現:福岡市消防局警防部消防学校長)
四島 弘  :福岡市消防局警防部救急課救急指導係長
松永 伸一 :福岡市消防局警防部救急課救急指導係・当時
(現:福岡市消防局博多消防署板付出張所救急小隊長)


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