手技99:ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識(11) 小児・妊婦への対応

 
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手技99:救急隊員を目指す初任科生へ

第11回

小児・妊婦への対応

今月の先輩プロフィール

朝倉 一郎
(あさくら いちろう)
熊本市消防局 中央消防署
(現:ELSTA九州教官)

42歳
熊本県熊本市 出身
昭和63年消防士拝命
趣味は、サーフィン


「救急隊員を目指す初任科生へ〜ベテラン救急隊員が伝承したい経験と知識」

シリーズ構成

亀山洋児(猿払)


はじめに

皆さんは、小児や妊婦さんの対応に困った経験をお持ちではありませんか? 現場に着くなり血相変えて駆け寄ってくる母親の形相と勢いに押されそうになることも、こどもの救急事案では珍しいことではありませんね。

また、観察を実施すべく患児への接触を試みるも激しく泣かれてしまい、結局なにもできずに病院へと搬送した経験をお持ちの方は少なくないと思います。

同じように「自宅分娩」との出場指令には、不安な気持ちを抱えたまま臨場する救急隊も多いのではないでしょうか?

このように妊婦・小児への対応は、私たちにとってどちらかというと苦手な分野といえるのですが、救急隊である以上そこから逃げることはできません。

そこで、今回は私がこれまでの救急活動の中で感じたことや、気づいた点を中心に述べさせていただきます。


1小児に対する活動の特殊性

小児に対して苦手意識を持つ要因としては、表1などが思いつきます。一般的に、肉親の小さな命に対する思いは非常に強く、関係者の困惑や混乱は、救急隊員が適切な活動を行うために、最初に対応しなくてはならない高いハードルでもあります。また、「ミスが許されない」「必ず助けなくてはならない」といった感情は、救急隊員さえも抱えこむことがあり、時として冷静な判断を欠き、救急活動の妨げになることもあるでしょう。

乳・幼児特有の問題では、保護者(関係者)や患児とのコミュニケーションが特に重要ですが、それには大きな理由があります。

(1) 保護者とのコミュニケーション

保護者との関わりは、小児への対応のなかでも特に重要なポイントとなるものです。なぜならば、患児には、第一に、自分の症状を自分の言葉で正しく伝えることが困難であること、第二に、子供は成長の個人差が大きく、症状や反応の評価が難しい、という特徴があります。

つまり、患児の状態の把握に重要な手がかりとなる、平常時との違いといった情報は、保護者(多くの場合母親)が最も敏感に察知しています。

患児において「自覚症状」は、保護者からのみ聴取することができるといっても、言い過ぎではないくらいです。

しかしながら、多くの場合、肉親は動揺と混乱の中にいて、正確な情報を得るためには、動揺する保護者を落ち着かせ、「何を訴えているのか」ということを、迅速に、冷静に、分かりやすい言葉で聞き出し、患児のおかれた室内の様子などの情報を加えて、医学という目で判断・対処するのが救急隊の真骨頂です。

迅速で、整然と統制の取れた隊活動のなかにも、冷静で紳士的な対応を見せることにより、保護者への信頼を得ることができます。

逆に、救急隊が慌ててしまっては、保護者の信頼を得られないばかりか不安感をあおり、その後の救急活動は非常に困難となるでしょう

大切な子供の傷病により、狼狽し慌てている保護者の心情を察しつつ、安心感を与えられるように振舞いたいものです。

(2)患児とのコミュニケーション

活動では、肉親の情報から患児の身体所見をとる必要が生じることも多くあります。しかし、患児は救急隊を見ただけで怖がったり泣いたりすることも多く、良好なコミュニケーションをとる方法はとても難しいものです。

これといった決め手はないものですが、嫌がることをしない、あるいは、患児が嫌がる観察項目は最後に行う等の工夫は大切です。

たとえば、泣いている状態は、患児の症状を隠蔽してしまう可能性を大きくしてしまいます。また、苦痛などを伴う観察は、当然、患児が二度と見せようとはしなくなってしまいます。したがって小児の場合には、観察のチャンスは1度きりが多いと考えておくことも必要です。

考えてみれば、適切な医療機関へ適切な時間で搬送することが可能な場合、患児の状態が悪い時には、患児の抵抗は少なく、観察は容易です。逆に、患児が観察に非協力的であるケースでは、治療までの時間に猶予があることが多いので、一度きりのチャンスは医師の診察に温存し、あえて観察を実施しないという選択肢もあるのです。


2 小児の特殊性

表1(2)に示した小児の特殊性では、主に身体の成長や発達などの因子が係わっていますので、ある程度は自己学習によって小児と成人の生理や正常値などの差異を理解しておく必要があります。

「こどもは大人の縮小版ではない」と、よく言われます。たとえば解剖上の違いの一つを胸部レントゲンで見てみましょう。

小児(3ヶ月乳児)

成人真2

成人と比べ、乳児の肋骨の形状は、洗濯板のように水平に並んでいます。つまり乳児の胸郭は、開いた(息を吸った)形状をしています。また、肺の大きさ(心臓を除いた肺の大きさを見ると解りやすいと思います)や肝臓の比率も大きく腹腔内臓器と肺の関係を見ても、乳児の呼吸は腹式呼吸に依存していて、呼吸系のトラブルにも不利な成熟状態にあることが理解できると思います。

さらに、骨が柔らかいといった特徴を考えると、鈍的外傷により腹腔内臓器の損傷を受けやすいという理由が理解しやすいと思います。

その他、小児は全てにおいて未熟で脆弱であるという特徴がありますが、酸素予備量が少ない割に酸素消費量が多いため、低酸素には要注意です。

なお、年齢によっておこりやすい疾患などもよく知られていますので、覚えるのが大変ならば、特に注意が必要なものだけでも早見表を作成しておくとよいかもしれません。

ただし、重要なことは病名の診断ではなく、適切な呼吸・体位・体温の管理と搬送先の決定・迅速な搬送であることは云うまでもありません。


3 処置の違い

処置の違いについては、CPR小児プロトコルなどの違いを難しく思っている方も少なくないような気がします。ここでは詳しい内容には触れませんが、成人と小児における心停止の発生機序を整理することで、処置の違いが理解できるはずです。成人のCPAでは、突然の心停止となる比率が高いため、胸骨圧迫のみでも血液中に残された酸素を利用することも有効なのですが、小児のCPAとなる要因は、気道・呼吸のトラブルによるものが圧倒的に多いため、心停止初期から血液中の酸素量が枯渇しているため、呼吸管理が重視されています。

小児の心停止事案を経験する機会は少ないと思いますが、身体が小さいから、手技(呼吸管理)が行いにくい、ということはありません。

ただし、胃内に空気を入れると容易に胃内容物を逆流させるので、送気量には注意が必要です。


4 受け入れ医療機関

これらの問題を活動中に解決するといっても、当然のことですがその工夫には限界があります。そのうえ地域の実情には地域独特のカラーがあり、地域で解決するしかありません。したがって、地域の医療連携に必要な現場活動の実情や情報を整理し、組織へのボトムアップを行ったり、小児の救急対応における事前取り決め事項などを、医療機関とも明確に共有することも大切なことです。


5 経験を補う

おそらく、苦手意識を生む最も大きな原因は、経験不足であろうと推測されます。経験不足を補うには、月並みですが自己学習・研修会への参加や訓練以外にはないでしょう。例えば、小児の危険なけいれんとそうでないものを判断できるのは、やはり毎日の学習の成果であるといえるでしょう。

また、病院実習は小児に関しても貴重な経験を数多くできる、とても素敵な研修の場なのですが、実習生(救急隊員)の積極的な姿勢と、指導医(スタッフ)の協力のどちらかが欠如しても、効果的な実習は成立しません。

少なくとも、救急隊の積極的な姿勢が重要であることに変わりはありません。


6 小児用の資機材
手技の未熟さをカバーするために、道具(小児用の救急資器材)に頼ることは決して卑怯なことではありません。頻度は少なくても、なくてはならない資機材もあります。小児用の資器材は、あらかじめセットにして管理しておくと便利です。


7 活動の実際

どのような事案であっても、救急隊の活動方針は成人と同じく「他覚的所見」+「自覚症状」+「関係者からの情報」などによって決定されるものですが、幼小児においては、前述のとおり関係者(保護者)からの情報収集の比重が高くなってきます。
「他覚的所見」といえば「バイタルサイン」が基本に挙げられるでしょう。

これは、観察結果の客観的な判断や、医療スタッフへの伝達ツールとして、その意義は非常に大きなものです。

なんといっても、まずは、小児の正常な状態を知ることが大切でしょう。

小児の重大な意識障害の評価など、頻繁には使用しないけれども、その際には重要な意味を持つ事項などについては、救急車内などに常備しておくと便利です。

(1)呼吸状態の評価

呼吸状態の評価は、小児において、特に注意して評価したい項目です。

接触と同時に、時には接触以前(外観により)からチアノーゼの存在や呼吸様式(陥没呼吸など)などを、迅速に評価し、気道・呼吸のトラブルに対処することが重要です。

緊急事態であれば、聴診器を用いなくとも気道の狭窄音や肺雑音が聴取されることも少なくありません。詳細な観察を必要とする場合には、聴診器を用いて評価しますが、小児では胸壁が薄いこともあり呼吸音はよく聴こえます。

パルスオキシメーターは侵襲がなく、小児が嫌がるケースは稀です。小児は成人と違い、外観より低酸素の程度が悪いケースも多いので、パルスオキシメーターは積極的に活用するようにしましょう。

(2)脈拍(心拍)の評価

個人的な印象ですが、乳児においても撓骨動脈の触知は可能である場合が多く、慣れない上腕動脈を探すよりは、いくらか簡便です。また、撓骨動脈が触れにくい場合には、聴診器を用いることも一つの方法です。

聴診器は、患児が冷感に驚いたりしないよう、ポケットや手のひらであらかじめ暖めておきましょう。

聴診器の活用は、体動が激しく、脈拍数の観察が困難な場合でも有用です、聴診器を用いると呼吸音と同時に心拍数が正確に聴取できることもメリットの一つです。ちなみに、この場合の聴診は、写真3の部位で行うとよく聴くことができます。

聴診器が患児の顔に当たらないように注意しましょう

聴診器を首からぶら下げるのは格好いい?のですが、観察中、傷病者の顔に当たったり(写真4)室内の突起物に引っかかったりとよくないことも多いので気をつけましょう。

これらのことは、屋外での活動など小児に限らず配慮したいものです

(3)意識状態の評価

接触直後、あまりに詳細なJCS評価を行う意義は大きくありません。

開眼・体動の有無、患児が母親を求める様子や救急隊員への反応などから、おおまかに評価すればよいでしょう。乳児においては泣き声に特に注意を払います。弱々しく、か細い泣き声は状態がよくないことを表しますので、要注意です。ただし、子供の個性は、個人差が非常に大きいものです。たとえば、元来元気のよい子供もいればおとなしい子供もいるため、保護者からの情報が重要になります。「普段と比べて元気が無い」などの保護者の印象は、非常に重要な意味を持つことが多いので、大切に扱います。

子供のJCSスケール評価は、医療従事者との「コミュニケーションツール」として、素早く情報を伝えるためには有用です。
小児(乳児)用のスケールとしては坂本のスケールが有名です。(表2)

このスケールの特徴である1?10の項目をみても、母親との関係に着目していることが解ります。ただし、先にも述べたとおり、小児では個人差が非常に大きいので、一定のスケールに丸めてしまうには無理がある場合も多くなります。
そのような場合には、無理にスケールにあてはめようとせず、子供の様子を、ありのままに伝えることのほうが大切な場合があります。

(4)血圧の評価

小児の血圧測定には、児の協力が得られない等、熟練を要するケースも少なくないため、それに時間を費やすより、初期評価としては、他の方法(例えば末梢動脈の触知やリフィリングタイムの測定)で循環を評価するほうが適当でしょう。
また、どうしても血圧測定を実施する必要がある場合には、嫌がらない観察を終えた後で実施することが無難かもしれません。

もしもあなた(あなたの隊長)が、児に対してスムーズに血圧測定を実施できたとすれば、よほど児の扱いに長けているか、または児の状態が悪いことを表しているかのどちらかでしょう。

(5)体温

特に内因性疾患において、体温測定は必須です。

ただし、測定に際しては患児の協力が得られにくい場合が多く、触診での印象ですばやく判断することのほうが重要なケースが存在します。その判断のためには、年齢を問わず日常的に患者に触れて、そのときの感触と実測値を比較するといった経験値を積み上げることが重要です。

また、熱発の患児では腋下にも冷却ジェルを貼付してあったり、体温計がずれることも多いので注意しましょう。

全身がじっとりと冷たく感じる場合には、状態が深刻である重要なサインです。まず、保護者から患児を一旦預かることで、全身の温冷感を評価することができますし、同時にその際の患児の反応を並行して確認します。

嫌がって保護者を探すようであれば、患児の意識状態はほぼ正常に保たれていると判断します。 とにかく、一度抱きかかえてみることが大切です。

年齢的には、2ヶ月未満の38度を超える発熱は、重症感染症を念頭に病院選定を行います。

(6) 神経学的所見

小児の救急事案では、発熱を伴うけいれんを多く経験します。

中でも、もっとも多いのは熱性けいれんなのですが、有熱性のけいれんには、重大な疾患の症状である場合も少なくないので、安易な対応は絶対に避けなければなりません。

その意味でも、熱性けいれんと判断してはならないけいれん(表3)を含め神経学的所見を正しく見る冷静な目を養っておくことが非常に重要です。

神経学的所見は、けいれんや頭部外傷で特に重要な観察項目です。

具体的には、眼位・上・下肢の動きなどに着目しますが、観察は主に左右差の有無に注意して行います。

乳児では、足の裏が敏感ですので、ここを刺激して動きを確認したり、上肢では、ほとんどの場合、手掌に指を当てると、自然に握ってくれるので、そのまま注意しながら引き上げ、握力の左右差を確認したりする方法も簡便でよいでしょう。

小児の救急要請で頻度の高い「けいれん」ですが、救急隊接触時に全身強直性(または間代性)の動きが見られないからといって、けいれんが完全に終了しているとは限りません。

眼位の異常や顔面・上肢の僅かなピクつきなどが持続していないかどうかを注意深く観察しましょう

けいれんでは、全年齢層に大切なことですが、けいれんの始まり方やけいれんの形態の情報は極めて重要ですから、保護者から必ず聴取しましょう。

このように、バイタルサイン等は救急活動の方針を決定する上で成人と同じく重要な事項ですが、先に述べたとおり自覚症状を言葉で伝えることができない(或いは自覚症状を訴えない)乳幼児での対応では、成人以上に重要な観察項目となってきます。

また、救急隊員とコミュニケーションがうまくとれないケースが多いため、それぞれの観察には工夫と臨機応変さが求められます。

小児では、救急活動上(救急隊にとっては)有利な点もあります。例えば、身体が小さいということは、搬出・患者の移動を救急隊員が1名で行えることが殆どですので、他の隊員は保護者の対応や、関係者からの情報収集に同時に当たることが可能です。

また、特に年齢が低いほど、関係者である大人が常に近くで生活しているため、事故や疾病の発症時分や経過などが明確に判明するケースがほとんどです。

例えば、保護者が「おもちゃを飲み込んだ」といえば、実際に飲み込んでいることが多く、関係者の印象などの情報の信憑性は非常に高いといえます。

同様に、医療機関の受診状況、既往歴や服薬の種類や時間についても、成人より明瞭に判明します。


8 被虐待児への対応

(1)児童虐待の通告

まず、最初に理解しておかなければならないことは、虐待に関する通告の性質です。

DV(ドメスティックバイオレンス)とは異なり、児童虐待の通告には、弱い立場にある子供の人権と生命を守るために、

  1. 通告は、これらを認知した国民の義務と位置付けられていること。
  2. 児童福祉法第25条の通告義務は、公務員等の職務上の守秘義務より優先されること。
  3. 通告は、疑いの段階でも行う必要があること。

という特徴があります。

残念ながら、医療機関においても、こうした通告の性質が末端まで十分に浸透していないところも存在し、救急隊が通告を行わなければ、その機会を失するかもしれません。

また、報道でも紹介されているように、一般的に通告を受けた児童相談所等が子供に面接したり屋内へ入ったりということが難しいケースがありますから、救急活動中に知りえる情報が非常に重要な意味を持つこともあるわけです。

通告は、告発という性質ではなく、あくまでも虐待防止の相談です。

その意味で、それぞれの地域で構築されている、児童虐待防止ネットワークなどの連携システムについても理解しておくことが大切です。


9 産科への対応

妊婦への対応で最も心がけるべきことは、常に二人(場合によってはそれ以上)の患者を扱っているということです。

母体の状態があまりよくないと思われるケースでは、胎児への影響を考慮して、酸素飽和度の値によらず酸素投与を考慮するべきでしょう。

母体の酸素化を図ることは、胎児の状態をよく保つことと捉えます。

(1) 分娩

妊婦の救急要請で割に頻度が高く、緊急性を伴うものに分娩があります。

先に、妊婦の救急事案では常に二人(以上)の患者を扱う。と述べましたが、分娩となると正に個体として複数の患者が存在することになります。

したがって、できる限り救急車を2台、もしくは出場隊員数を増やすといった工夫が必要でしょう。

オンラインで指導医の具体的な指示の基にすすめる体制作りも重要です。

なぜならば、一つには、分娩に頻繁に対応することはないので不慣れであることが否めないこと。二つ目は、救急隊員が行ってよいとされる処置であっても、予期しない出来事が起こる可能性は否定できないからです。

分娩への対応では、積極的に指導医のバックアップを受け、母親や家族にも医師の管理下にあることを気づかせ、不安を抑えることも大切です。

分娩での救急要請で、最も気になるのは、児が娩出されているかどうかということでしょう。

既に娩出されているケースでは迅速に児の観察を行い、必要であれば気道確保などの蘇生処置を行いますが、吸引カテーテルなども新生児専用のものを準備しておきましょう。

その他、臍帯クリップ・臍帯はさみ・保温用ブラケット・滅菌タオル・新生児用バッグマスクなどが必要です。

到着時、娩出の途中であった場合には、分娩の進行状態または現場の環境次第(よほど劣悪な環境でなければ)では、現場での娩出も考慮しなければならないでしょう。

その場合のオンライン(専門医が望ましいが)の指導助言は、ことに重要な意味を持ちます。

娩出後にはまず蘇生の適応か否かを確認し、蘇生処置の必要が無ければ臍帯をクリップ後に切断し、児の保温に勤めます。

また、出生時分の記録を忘れないように注意が必要でしょう。

出生の1分後・5分後に、新生児の状態をアプガースコアと呼ばれる指標で評価します。分娩セットにスコア表を入れておけばよいでしょう。

産婦の方にも注意が必要ですが、特に気をつけることは出血です。

出産後の大出血に対しては、救急隊では対処不能です。

医療機関への搬入は、スクープアンドランのスピードが要求されます。現場を早期に離脱し、高濃度酸素投与しつつ、子宮収縮を助けるための腹部マッサージを行いながら、医師の指示を受けて出血を押さえ込み医療機関へと急ぎます。

(2) 妊婦外傷

妊婦の外傷に対しても、基本的には通常の成人と同じように評価・処置を行いますが、妊婦ではシートベルトを締めていないことが多いため、車両内部の破損(ハンドルの変形など)には、特に注意が必要です。

また、バックボードを使用して固定を行う場合には、妊婦特有の仰臥位低血圧を防止する目的で、ボードごと若干左側に傾ける処置がよく知られていますが、患者の状態を注意深く観察しながら行うことは、全ての処置の基本であると心得ましょう。

妊婦の腹腔内損傷を見極めるには熟練が必要です。妊婦の外傷で腹痛の訴えがある場合には、産科を有する医療機関を選定するのが賢明といえるでしょう。

妊婦の外傷では、本人及び関係者の不安は非常に大きいものです。

救急隊は愛護的な声掛けに心がけ、迅速に適切な医療機関へ搬送する旨を伝えましょう。但し、安易に「大丈夫」との表現は避けたほうが無難です。不安が強い母親の場合には、「こういう時、あかちゃんは一所懸命がんばってるから、おかあさんもがんばろうね」などと意識を向けさせると落ち着くことも少なくありません。

また、妊婦と胎児への対応に気を取られすぎて、兄弟等の存在を忘れることのないように注意しましょう。


おわりに

小児・妊婦への対応について、私の経験から一方的に書かせていただきましたが、患者のおかれている状況は多種多様であり、全ての事柄に「絶対」は存在しません。 「臨機応変」こそが救急活動の真髄であり、醍醐味であると理解してください。

例えば、場合によっては、患児がどんなに嫌がっても酸素マスクをあてる必要のある場面もあるでしょうし、保護者の協力のもとに児を押さえつけてでも、処置や観察が必要なこともあるでしょう。

臨機応変といいながら、実は、ゆきあたりばったりだった、というのではいけません。

必要な観察と必要な処置を「正しい根拠を持って行うこと」が大切であり、常に反省と研鑽の姿勢を持つ救急隊員でなければなりません。


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08.6.10/7:21 PM

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