100207Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ(第8回)命どぅ宝(ぬちどぅたから)~命のゆいまーるプロジェクト~

 
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Change! Try! Avoid Pitfalls! ピット・ホールを回避せよ

第7回

命どぅ宝(ぬちどぅたから)~命のゆいまーるプロジェクト~

Lecturer Profile of This Month

山内 明政
ヤマウチ アキマサ

金武地区消防本部 恩納分遣所 警防係
出身 沖縄県国頭郡恩納村
43歳 うま年 さそり座
消防士拝命 平成4年
救命士合格 平成12年

趣味 スポーツ鑑賞


シリーズ構成

田島和広(たじまかずひろ)

いちき串木野市消防本部  いちき分遣所


Change! Try! Avoid Pitfalls! ピットフォールを回避せよ

Chapter 8

命どぅ宝(ぬちどぅたから)~命のゆいまーるプロジェクト~

応急手当講習を受講したいけど、消防がない

ゆいま〜る(助け合い)

写真拡大

 沖縄県は49の有人島からなり、最東端から最西端までは約1,000km、最北端から最南端までは約400km。有人島に限れば最北端は伊平屋島。 最南端は波照間島。最東端は北大東島。最西端は与那国島と広大な県域を持っています。

沖縄では29の市町村には消防本部が設置されていますが、12の町村には消防組織がなく、応急手当講習が開かれません。消防がない離島住民へ応急手当の普及を目的にボランティアで集まった医師、看護師、救急救命士、救急隊員、臨床工学士、薬剤師、そして離島の地域住民が一体となって活動している“命を守る”取り組みを紹介します。


はじめに
Introduction

 住民に対する応急手当の普及啓発については、消防本部の設置された市町村では各消防本部が応急手当講習を実施します。また、非医療従事者がAEDを使用できるようになると、これも応急手当講習に組み込まれました。

目の前で突然人が倒れた場合、迅速に適切な行動・処置を行うことで助けることができる可能性が高くなります。しかし救命処置を学びたくても、消防組織がない離島では応急手当講習会は開催されません。また、離島の診療所も人材的・経済的に厳しく、資器材(レサシ人形・AEDトレーナー)購入は不可能です。


命どぅ宝(ぬちどぅたから)
About this project

写真1
医師・看護師・救急救命士・救急隊員・臨床工学士・薬剤師。さまざまな資格者が集まります

2003年秋、病院・消防本部・看護大学・沖縄県福祉保健部などから、医師・看護師・救急救命士・救急隊員・臨床工学士・薬剤師(写真1)とさまざまな資格を持った仲間が集いました。ボランティア活動“ゆいまーる”(助け合い)を行い、離島の住民に応急手当を普及させるためです。これが「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」です。

きっかけは、消防職員と救急医の懇親会で離島の医療・救急事情が話題となったことでした。離島で応急手当講習会を開催する必要性をニライ消防本部の金城俊昭さんと沖縄県立中部病院の高良剛ロベルトさんが熱く語り、二人に共鳴した12名の仲間がメーリングを立ち上げてプロジェクトが動き始めました。


プロジェクト始動
Bigining of the project

Pitfall1:離島でどのように救命処置を広めるか?
Solution1:診療所との連携

公的機関の主催でもなく公的機関の支援を受けていないボランティアグループが実際に離島で講習会を行うには「どのように受講者を募るのか」「島で行う際の会場手配は誰が行うのか」「資器材の確保はどうする」等、クリアすべきことが多くあります。そして、重要な役割である住民の窓口も必要です。

幸いなことに島の診療所に勤務する医師は県立病院から派遣されていることから、診療所に勤務する医師に住民との窓口になっていただき、受講者の募集・会場の手配等講習会の準備を進めました。資器材に関しては、指導者の職場で行われる応急手当講習会と日程を調整し、指導者が職場から資器材を借用しました。

写真2
移動には船を使います。これは2009年西表島での写真

2004年5月、プロジェクト立ち上げから半年後、沖縄本島の東、与勝半島の先端に近い平敷屋港から高速船で約10分、550名の住民が住む津堅島。受講者20名に対し、最初の講習会を成功させたいと意気込む34名が指導者として参加し、ここに「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」がスタートしました(写真2)。

写真3
目を輝かせながら真剣に取り組む受講者たち

これまでテレビなどで救命処置などは知っていても、応急手当講習会を受けたことのない住民の方々が、初めての講習会に目を輝かせながら真剣に取り組む姿勢はとても新鮮でした(写真3)。受講者からも、初めての講習会開催で受講生を超える数の指導者が熱くフレンドリーに指導したことから好意的な意見や感謝・お礼の言葉を頂きました。

しかし、消防がない離島住民の現実と講習指導の不備に直面することにもなったのです。


離島の現状
Status and circumstances

Pitfall2 :Chain of Survival(救命の連鎖)?
Solution2 :離島の状況に合わせたChain of Survival(救命の連鎖)

写真4
離島と本土のChainは異なります

指導者が指導したのは離島の現状とかけ離れたChain of Survivalでした。
「119通報しても、島には消防署がないので、沖縄本島の消防署につながる」
「119通報しても、救急車が来ることはない」
住民からは切実な声が発せられます(写真4)。

写真5
離島で必要な応急手当ては何か考えるべきです

離島では、消防機関で指導しているChain of Survival「速い通報」「速い応急手当」「速い救急処置」「速い救命医療」は当てはまりません。講習会で通常のChain of Survivalを説明しても、離島の住民には現実的ではないのです。離島の状況に合わせたChain of Survivalを普及させることが重要であり、離島の現状に合う応急手当講習会(写真5)を行うことが離島住民との信頼関係を築くためにも必要だと感じるようになりました。

応急手当講習会では、救命手当の指導方法と合わせて、緊急度や重症度が高いほどいかに速く医師に引き継げるかが重要で、診療所への連絡体制、人を多く集める方法、搬送方法などを検討する時間を設けるようになりました。

離島には消防署はないことから、Chain of Survivalの4つの輪の中で、「速い通報」は診療所か役場に連絡することになるのですが、診療所の医師に引き継ぐためには、住民が応急手当を行いながら診療所に搬送するか、診療所の医師が現場に行き住民と協力して診療所に搬送することになります。

写真6
人と人のつながりが強い離島では普段の生活の中で“ゆいまーる”(助け合い)の心が活きています

普段、救急隊が行っている役割を住民や医師でカバーしなければいけないのですから大変なことなのですが、人と人のつながりが強い離島では特別なことではありません。厳しい環境で生活している逞しさと普段の生活の中で“ゆいまーる”(助け合い)の心が活きているのです(写真6)。


離島にあわせて充実を
Improvement

Pitfall3:一度の講習会で満足するのか?
Solution3:想いは伝わる

倒れている人を見つけたら、意識を確認して反応がなければ人を呼び、診療所に連絡することや、心臓マッサージやAEDの操作を受講者に体験してもらうなど、離島に合わせて内容が充実してきました。

2004年5月から始まった「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」は、2009年11月までに17の離島(津堅島 伊平屋島 阿嘉島 座間味島 粟国島

 写真7
南大東島での講習

南大東島(写真7) 北大東島 古宇利島 小浜島 黒島 波照間島 渡嘉敷島 伊江島 西表島 竹富島 渡名喜島

写真8
鳩間島へ船で移動

鳩間島(写真8))で、60回を超える講習会を実施し2000名以上の離島住民が応急手当講習会を受講しています。

写真9
金城俊昭さんの説明

離島の現状に合わせた講習会を行うようになったことに加え、ニライ消防本部 金城俊昭(写真9)さんの受講者を引き付ける和やかな話術と、沖縄県立中部病院 高良剛ロベルトさんの離島診療を経験を交えた指導に、離島住民との距離が縮まり、応急手当講習会を希望する離島住民が増えるようになりました(12の離島では再び島を訪れ応急手当講習会を行っています)。

写真10
筆者:山内明政による指導

離島の自治体では危機管理意識が高く、住民のニーズに応えるべく会場の提供や講習会運営に関わる手配も役場を中心に取り組んで下さり、講習会開催に大きく関与・協力して頂いています。離島から講習会開催の依頼がないことには講習会の運営が上手くいかないことから、基本的に診療所の医師が講習会の日程を企画立案し、地元自治体を巻き込み両者の共催という形で開催しています。

離島の住民の、自分達で島を守る強い意識と貪欲に救命処置を学ぶ姿勢に、指導者側も必然と指導に熱が入ります(写真10)。

12名でスタートした「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」のメーリングメンバーも現在は100名を超える仲間に増えていきました。

写真11
西表島での講習

写真12
西表島。多くの受講生が集まりました。

11月に行われた西表島の講習会を紹介します(表1)。指導者は沖縄本島(16名)と石垣島(2名)から参加し、3日間で321名の離島住民が応急手当講習会を受講しました(写真11,12)。講習会は分刻みの運営でしたが、受講者の真剣な態度に疲れを忘れるほど充実した3日間になりました。

写真13
西表島での交流会

地元自治体・消防団・地域住民・観光業者の好意で主催して頂いた交流会(写真13)は、

写真14
至る所に豊かな自然があります

豊かな自然(写真14)に癒されながら離島の文化・行事・観光情報など学ぶ機会にもなり、楽しいひと時に時間を忘れました。

表1

開始 終了 事項
2009年11月6日(金)
08:30 那覇空港発
09:30 石垣空港着
11:45 石垣港発
12:20 西表島大原港着
17:30 19:00 観光業者向け講習会(竹富町交流施設 体育館)
19:30 21:00 消防団向け講習会(竹富町交流施設 体育館)
21:00 消防団との交流会 竹富町交流施設 宿泊
2009年11月7日(土)
※指導者を2グループに分け講習会を実施
09:30 11:00 一般向け講習会(竹富町交流施設 体育館)
10:00 11:30 老人ホーム南風見苑(南風見苑 苑内ホール)
13:00 14:30 ホテルニラカナイ(中野わいわいホール)
14:30 16:00 ホテル商工会組合(中野わいわいホール)
17:00 18:30 上原、住吉、中野地区住民(中野わいわいホール)
17:00 18:30 干立、祖納、白浜地区住民(祖納公民館)
19:00 21:00 ダイビング協会・カヌー組合(中野わいわいホール)
21:00 地域住民・観光業者主催の交流会(中野わいわいホール)
22:00 干立 イルンティ・フタデムラ コテージ宿泊
2009年11月8日(日)
10:00 11:30 鳩間島住民、教職員(鳩間島コミュニティーセンター)
15:30 西表島大原港発
16:05 石垣港着
17:05 石垣空港発
18:05 那覇空港着

損と得
Gain and lost

Pitfall4:交通費・宿泊費の負担が大きい
Solution4:講習会に参加することで得ることがある

写真15
離島へ飛ぶ飛行機

写真16
由布島へ移動は水牛で

当初、離島への交通費(船舶・航空運賃)(写真15,16)、宿泊費は、“ゆいまーる”(助け合い)の気持ちでスタートしたことから応急手当講習会へ参加する指導者の自己負担でした。しかし、新聞・テレビ等に「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」の活動が頻繁に紹介されるようになったことと、沖縄県福祉保健部に勤務していた崎原永作さんの働きかけから、社団法人地域医療振興協会が沖縄県の離島医療の支援プロジェクトに賛同し、交通費を支援して下さるようになりました。

写真17
多くの支援を受け活動が続けられています

また、離島村の地元自治体の援助も大きく、船を運航している会社からは交通費の援助をして頂くことが多くなりました。社団法人地域医療振興協会と地元自治体・企業の支援で「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」は多くの離島で応急手当講習会を開催できるようになったのです(写真17)。

「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」には、資格・職場の違う指導者が参加しています。そのため各職場で行っている指導方法を見学できます。コミュニケーション技法であるアイスブレーキング・間のとり方・抑揚・双方向性の指導・受講者の年齢に合わせた話術・バイスタンダー処置による成功例など、多様な指導方法を学ぶ機会になりました。

写真18
骨折時に行う、雑誌やガムテープ、レジ袋、身に着けているTシャツを使った応急手当の方法

うるま市消防本部の又吉充さんは、骨折時に行う、雑誌やガムテープ、レジ袋、身に着けているTシャツを使った応急手当の方法を紹介しました(写真18)。

写真19高良先生模型による循環説明

沖縄県立中部病院の高良剛ロベルトさんは、海洋生物の応急手当について、「硬いものは、“温める”。柔らかいものは、“冷やす”」と医学的な用語を使わずに説明することで、いざと言うときに簡単に思い出せる応急手当の方法を指導していました(温める:オコゼ、ガンガゼ、オニヒトデ  冷やす:ハブクラゲ、ウンバチイソギンチャク)。心肺蘇生を楽しく理解させるために、心臓から脳へ血液が流れる仕組みを、手作りの模型を使用しながら説明し心臓マッサージの重要性を指導していました(写真19)。身の回りにある物を使用した応急手当の方法や海洋生物に対する応急手当の説明は、参加した指導者も勉強になり、職場の講習会で使える財産となりました。


蘇生事例
A case report

Pitfall5:本当にできるのか?
Solution5:勇気

 2007年、人口650名の離島で応急手当講習会を受講した住民によるPublic Access Defibrillation(PAD)により、49歳女性が完全社会復帰しました。

女性はホテル施設内で室内清掃中、同僚が見ている前で突然うずくまるようにして倒れました。他の作業員ならびにホテルの従業員がかけつけてみると、意識も呼吸も確認できなかったのでAEDを持ってこさせて装着。すると除細動の指示が出て2度除細動を施行すると呼吸が再開し、脈も触れるようになったとのことです。そして、診療所の医師が現場に到着すると意識レベルGCS3点、呼吸循環は再開していたことから診療所に搬送してルート確保、気管挿管を行い海上保安庁のヘリで迎えに行きた八重山病院の医師に引き継ぎ、集中治療室で治療を受け3日後には人工呼吸器から離脱。退院時には以前のADLを回復したのです。離島という地理的厳しい条件の中でも住民が離島の状況に合わせたChain of Survivalを迅速につなげれば救命できることを証明した好例になりました。応急手当講習会を受講しても、実際に目の前で人が倒れる現場に遭遇すると極度に緊張すると思いますが、離島住民の中で活きているゆいまーる(助け合う)の心が“勇気”を後押して適切な行動につながったのです。

 「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」活動を行うことで、離島住民への応急手当の普及と合わせ消防機関で開催される応急手当講習会に“勇気”を意識させる指導法を勉強していきたいと考えます。


まとめ
Writer’s Comment

写真20
命どぅ宝Tシャツ

以上、沖縄県の離島住民を対象に行われている「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」(写真20)のボランティア活動を紹介させていただきました。大都市・離島に関係なく応急手当を普及させて行くことが重要であることを再認識していただければと思います。

「命どぅ宝〜命のゆいまーるプロジェクト〜」にはどの地域にも使えるヒントがあります。地域にあった活動を行う上で参考になりましたら幸いです。

ゆいまーるプロジェクト

命どぅ宝(ぬちどぅたから)

ぬちDoブログ


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10.2.7/1:20 PM

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