初学者のための車両救助法
第4回:車外救出
講師
後列左から:田中健治(たなかけんじ)・浦辺隆啓(うらべたかひろ)原太志(はらたいし)越前洋介(こしまえようすけ)
前列左から:加藤洲和也(かとすかずや)・佐藤純二(さとうじゅんじ)
著者紹介
(株)日産クリエイティブサービス 陸別(りくべつ)Proving Ground・車両管理課 レキュー隊
日産自動車北海道陸別試験場の安全確保と万一の事故に備える自衛レスキュー隊として2006年7月に結成。地元消防署や外部講師の協力を仰ぎつつ、現在6名体制で訓練に励んでいる。
初学者のための車両救助法
初学者のための車外救助
第4回 車外救出
第4回目は車外救出を取り上げます。
傷病者の状況を確認し、脊椎軸を曲げないように車外に運び出し、バックボードなどを用いて全脊椎固定を行います。
1.傷病者の重傷度確認
車内進入後、要救助者に初めに接触した時に意識・呼吸・脈拍を観察して要救助者の重症度を判断します。
写真1
(1)要救助者との接触
車内に進入後、まず始めに行なうのは要救助者の頭部保持です。見た目は何ともなくとも、要救助者はもしかしたら首(頸椎)や背骨(胸腰椎)を折っているかも知れません。折れた骨が脊髄を傷つけると、一生車椅子の可能性があります。頭部を固定することによって首の無駄な動きを抑え、二次的な損傷を防ぎます。要救助者を振り向かせないように、呼びかけと同時か、保持後に呼びかけを行ないます。
写真2
(2)意識レベル確認
呼びかけによって、要救助者の大まかな意識レベルを確認します。呼びかけに対して受け答えができれば時間的な余裕はありますので、要救助者に負担の少ない救出方法を選びます。呼びかけに受け答えができない場合は危険な状態ですので救出を急ぎます。
写真3
(3)呼吸確認
頭部保持を継続しながら、要救助者の呼吸の確認を行います。ここでは正確な回数は問わず、呼吸が「速いか、遅いか」・「深いか、浅いか」を迅速に評価します。速く浅い呼吸は「ショック」の兆候です。ショックとは心臓のポンプ機能が弱って必要な酸素を全身に回せなくなった状態のことです。このような場合は、酸素を補うためにリザーバー付きマスクで酸素を10L以上投与します。
写真4
(4)脈拍確認
頭部保持を交代して、橈骨動脈で脈拍を確認します。ここでも正確な回数は問わず、「拍動の強さ、弱さ」・「脈の速さ、遅さ」を迅速に評価します。弱く速い脈拍は、こちらも「ショック」の兆候となります。
写真5
(5)循環確認
要救助者の循環状態を確認するために、手などの皮膚が「青白」くなっていないか、また「冷たい汗」をかいて「湿って」いないかを確認します。冷たく白く湿った皮膚は「ショック」の兆候となります。
写真6
(6)出血確認
最後に、出血の確認を行います。要救助者に大量の外出血があった場合、止血を行なわなければ、血液はどんどん失われ重篤な状態へ進行してしまうからです。出血は可能ならばその場で止めます。
2.車外救出
要救助者の「脊柱軸の安定」を保つことと要救助者の「脊椎・脊髄損傷」の悪化防止を重点に置いて救出します。
写真7
(1)バックボード挿入
頭部保持隊員以外の隊員で、バックボードを要救助者の臀部に挿入します。挿入する際は頭部保持隊員の合図で行ない、全員の息を合わせて乗せることが重要です。
写真8
(2)傷病者の身体を回転させる
要救助者をバックボードに寝かせるため、身体を回転させます。その際、救出するスペースを確保できていれば、要救助者の足を先に出すと救出がスムーズに行きます。逆にスペースが確保できていなければ、先に身体を45度ずつ回転させ、後で足を出すようにします。回転させる際も、頭部保持隊員の合図で身体を回転させます。
写真9
(3)車外に救出
要救助者を車外に救出する際、ストレッチャーを車両近くに移動し、すぐ要救助者をストレッチャー上に乗せるよう配慮をします。頭部保持を確実に行なえるよう順次交代し脊柱の安定を保ちます。
写真10
(4)全脊柱固定
要救助者をストレッチャーに乗せたら、処置と全脊柱固定を行ないます。その際、頭部保持は固定が終了するまで用手保持を解除しません。
3.全身観察
現場に到着してからの状況によって、全身観察を事故車内で行なうか、車外救出を優先し車外救出後に全身観察を行なうかを判断します。車両の損傷程度にもよりますが、車両破壊に時間がかかる場合や要救助者の意識がある場合などは、時間が許す限り事故車内で全身観察を行ないます。冬季で低体温が予想される場合や、要救助者の意識レベルが低く緊急を要する場合などは車外救出を優先し、車外救出後に全身観察を行います。
写真11
標準的な全身観察では頭部・顔面・頸部・胸部・腹部・骨盤部・大腿部・下肢・上肢・背面の順に、「視診」「触診」を行ない、胸部にあっては呼吸音の「聴診」も行ないます。
写真12
(1)ネックカラー装着
後頸部に痛みを訴えれば、ネックカラーを装着するようにしています。時に、救出を優先すると判断した場合は、車内での装着を省略し車外救出をした後に装着することもあります。
(2)全身観察
写真13
主に標準的な全身観察を行ないますが、救急救命士が緊急を要すると判断した場合は、胸部・骨盤部・大腿部・四肢の麻痺確認などの簡易全身観察を行ない、救出後に詳細な観察をしています。
救出箇所の破壊に時間がかかると判断した場合は、救出が可能となるまで詳細に全身観察を行ないます。その際、要救助者に精神的な苦痛や動揺を与えぬよう、常に呼び掛けることを心がけます。
写真14
意識がない要救助者はいつ心肺停止状態に陥るかわかりません。そのために救出を優先し、ストレッチャーに乗せた後、全身観察を行ないます。その際、要救助者の表情を観察し突然の容態変化がないかを確認するようにしています。
4.救急車収容
写真15
全脊柱固定が終了したならば、要救助者をすぐに救急車内へ収容し状況に応じた搬送方法を選定します。救急車内でも観察を繰り返し、容体の急変に備えます。
次回は「特殊な救出方法」です
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