140810今さら聞けない資器材の使い方(9)救急情報ネックレス

 
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140810今さら聞けない資器材の使い方(9)救急情報ネックレス

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140810今さら聞けない資器材の使い方(9)救急情報ネックレス

名前    清水 浩
よみがな  しみず ひろし
所属    鈴鹿市消防本部
出身    三重県南牟婁郡紀宝町
消防士拝命 平成8年4月
救命士合格 平成15年
趣味    ソフトテニス 釣り

救急情報ネックレス

1.はじめに

鈴鹿市は三重県の北部に位置し東は伊勢湾、西は鈴鹿山脈に面した自然豊かな街です。江戸時代には東海道の宿場町として石薬師宿と庄野宿を擁し、白子宿は伊勢参宮道の宿場町として栄えました(写真1:鈴鹿の町並み)。

現在は産業と文化がバランスよく発展を遂げ、自動車レースの最高峰「F1」が開催されるモータースポーツのまちとして全国的にも知られています(写真2:鈴鹿F1日本グランプリ)。

人口は約20万人で、F1開催時には鈴鹿市の人口に近い観戦者が国内・外から鈴鹿市を訪れ、賑わいを見せています。

社会が抱えるさまざまな問題の1つとして「少子高齢化」が叫ばれており、日本はいまや高齢化社会のはるか先をいく「超高齢化社会」に突入しています。また、同時に核家族化も進んでいるのが現状です。このような社会背景のなか、一人暮らしの人や一人で行動する人が多くなっていることから、救急現場においても意識障害などにより、情報を得られない事例が多くなっていると感じている救急隊員は少なくないと思います。

私達救急隊は、現場で医師の目の代わりをしなければいけません。「情報が分からない」「家族に連絡がつかない」これで良いのかと疑問が湧きます。このような場合、救急現場での情報をどのように得ると良いか、症例とともに鈴鹿市の取り組みを紹介したいと思います。

2.救急情報ネックレスがない場合

(1)症例1

「60代女性が道路で転倒し、倒れている。意識はあり」同じ自治会の女性からの119番通報です。

 救急隊現場到着時、傷病者は道路に腹臥位で倒れており(写真3:傷病者は道路に腹臥位で倒れていた)、

救急隊長が呼びかけるとうなずくものの、大量の嘔吐(写真4:大量の吐物あり)とともに意識レベルの低下が見られました。

観察結果は表1の通りでした。

表1

症例1の観察結果
——————————————–
意識レベル Ⅰ?3  その後  Ⅲ?100
呼吸数   12回/分  不規則
血圧    236/136
SPO2   94%
脈拍    90回/分
麻痺    右半身
——————————————–

救急隊は車内収容すると同時に、嘔吐による窒息に注意しながら酸素投与を開始しました。心電図を測定し血圧を繰り返し測定、瞳孔を観察すると縮瞳している状態でありました。

傷病者観察基準に基づき、病院選定を開始。その結果、重症項目に意識・血圧・ショック症状が該当。脳卒中項目にも半身麻痺、及び進行性の意識障害が該当したため、病院リストから直近の2次病院を選定しました。

本来であれば年齢・氏名・掛かり付け病院・既往歴・服薬歴・アレルギー・最終食事時間・家族への連絡などの情報を病院へ送らなければいけません。しかし、傷病者は意識レベルが低下しており、通報者は傷病者と面識がある程度で詳しくは分からず、情報を得ることができませんでした。

(2)考察

このように傷病者が一人で倒れており、何も情報が得られない場合、救急隊のみならず病院側も情報の収集に苦労します。

現在、「救急情報キット」と呼ばれるものが全国で広がっています。これは救急および緊急時に迅速な支援が行えるよう、緊急連絡先やかかりつけ医などの情報を専用の容器に入れ、自宅の冷蔵庫に保管することで、万一の場合に備えることを目的とするものです。これも救急隊が情報を入手する一つの方法だと思います。しかし、今回のこの症例のように近所の道端で倒れていたり外出時に倒れたなどの場合には傷病者から情報を得ることはできません。

鈴鹿市ではこのような数多くの事例を検討し、「救急情報ネックレス」(写真5:救急情報ネックレス)を考案し平成24年度から導入しています。

3.救急情報ネックレス

災害時要援護者台帳に登録されている一人暮らしの方のうち希望者を対象に、氏名・生年月日・性別・住所・既往歴・かかりつけ病院・緊急連絡先等の救急活動に必要な情報を登録します。ネックレスには、固有の番号が印字されており、番号を情報指令課に照会することで、その人の情報を得ることができるといったシステムになっています

(図1:パンフレット表)

(図2:パンフレット裏)。

救急情報ネックレスを身につけていただく(写真6)ことで、外出時で傷病者が会話不可能な状態に陥っても必要な情報を得ることができ、家族や病院などと連絡を取り合いつつ、迅速に救急事案に対応することができます。また、ネックレスは災害時要援護者台帳とリンクしているため、徘徊者の身元確認や大規模災害時のトリアージ等にも寄与できると考えています。

3.救急情報ネックレスをしている場合

(1)症例2

「70歳代男性が道端で苦しそうにしている」通行人からの119番通報。

救急隊現場到着時、傷病者は胸を押さえてうずくまっていました。顔面蒼白で大量の発汗があり、胸部の痛みにより会話が困難な状態(写真7)でした。

観察結果は表2の通りでした。

表2
症例2の観察結果
—————–
意識レベルⅠ?3 会話は不可能。
呼吸数 30回/分
血圧  90/50
脈拍  120回/分
SpO2 90%
—————–

救急隊現場到着時、ショック症状があったため高濃度酸素を投与しました(写真8:高濃度酸素を投与)。

傷病者は会話不能であり、通報者は通行人で傷病者とは面識がなく、傷病者の情報は得られない状態でした。

心電図の測定時に、救急情報ネックレスに気付き(写真9:救急情報ネックレスに気付いた)

情報指令課に連絡(写真10:情報指令課に連絡)。傷病者の氏名・年齢・既往歴・かかりつけ病院・緊急連絡先等の情報を受け取るとともに、傷病者観察基準に基づき二次病院を選定しました。その後傷病者の家族とも連絡が取れ、病院へ情報提供ができました。スムーズな情報収集により、傷病者に医療を速く提供できたと思います。

(2)考察

このように傷病者が意識障害や会話困難で関係者が周囲にいない場合、通常であれば情報を得られないケースが多いと思います。症例2では救急情報ネックレスがあったため、情報を得ることができ医師に傷病者の状態と必要な情報を送ることができました。

4.今後の展望

この症例2のケースでは救急情報ネックレスが非常に役立った代表的な症例です。意識消失や言語障害がある場合、ネックレスの情報を救急隊と病院が共有することにより、迅速に医療の提供ができると思います。

救急情報ネックレスは、平成24年度事業として開始しました。ネックレスはシリコン製で身につけやすいものです。現時点では鈴鹿市内で倒れた場合にのみ有用ですが、今後は市外・県外で倒れた場合にも活用できるよう、消防本部の代表番号を印字するなど、改善・改良を目指し多くの方に救急活動の効率化に役立つ救急情報ネックレスを身につけてもらいたいと考えています。

5.その他

現在、鈴鹿市ではF1の日本グランプリが開催され、世界中から関係者・報道・観戦者等が鈴鹿サーキットを訪れます。鈴鹿市消防署では観戦者の安全を確保するため、鈴鹿サーキットに職員を派遣しています。職員は無線機・応急処置セット・AEDなどを装備し担当エリアを巡回し、傷病者発生の場合には応急救護所の医師と連携を密に傷病者の応急処置を行い、必要に応じ救急車を要請します。

 また、救命講習終了者の中から自宅に表示盤を掲げ、要請があれば配布した救急箱(写真11:「市民救急の家」の救急箱)を使用して

応急手当を行う「市民救急の家」(図3:「市民救急の家」)事業(平成25年3月末現在612世帯)を実施するなど、市民の安心・安全の確保を図っています。

読者の皆様も是非、鈴鹿市にお越し下さい。

協力:川北浩志(鈴鹿市南消防署消防第一グループ)

 

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