151227今さら聞けない資器材の使い方(20) 自己確保のとり方
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151227今さら聞けない資器材の使い方(20) 自己確保のとり方
名 前:佐藤(さとう) 大輔(だいすけ)
所 属:仙南地域広域行政事務組合消防本部
大河原消防署
出身地:宮城県亘理郡亘理町
消防士拝命:平成17年4月
現 職:特別救助隊 隊員
趣 味:読書
目次
はじめに
「自己確保のとり方」を担当させていただきます、仙南地域広域行政事務組合消防本部大河原消防署の佐藤大輔と申します。
図1 仙南地域広域行政事務組合消防本部の管轄地域
仙南地域広域行政事務組合消防本部は、宮城県南部の白石市、蔵王町、七ヶ宿町、角田市、丸森町、柴田町、大河原町、村田町、川崎町の2市7町で構成されております。仙南地域北部には、仙台市が接しており、東部には、沿岸部である名取市、岩沼市、亘理町、山元町が接っしています。また南部は、福島県、西部は山形県に接しています。自然豊かな地域であり、西部には奥羽山脈蔵王連峰があり、蔵王連峰を水源とする白石川、また東部には阿武隈川が流れています。蔵王連峰の中央部の最も標高が高いエリアには、火口湖である御釜があり、季節を問わず観光スポットとなっています。最近では、御釜までの道である蔵王エコーライン(標高差1,334m)を自転車で走るヒルクライムレースが開催されております。仙南西部には、温泉が多数ありますので、サイクリング後にゆっくり温泉に浸かりに来てみてはいかがでしょうか。
今回は、消防活動の基本である「自己確保のとり方」について述べていきます。
自己確保とは
その名のとおり自己を確保する、つまり自分自身の安全を確保するということです。災害現場は、安全な場所ではありません。そのため、自己確保を行い、活動するために必要最低限な安全を自分自身で確立します。消防活動の第一は自己確保であることを再認識していただければと思います。
自己確保をとる場面は、高所(2m以上)及び、不安定な地形の場所での活動時です。不安定な地形の場所とは、斜面、河川内、雪上等であり二次災害発生の可能性が考えられる場所です。
自己確保注意事項
1 十分な強度を有する地物等にとる。
2 活動位置から直接地面に墜落しないようにとる。
3 墜落した場合、身体にかかる衝撃荷重をできるだけ小さくなるようにとる。
衝撃荷重について確認します。
衝撃荷重とは、墜落し自己確保ロープで墜落が止まった瞬間に身体にかかる荷重のことをいい、衝撃荷重の数値が大きければ大きいほど身体に及ぼす影響は大きくなります。
衝撃荷重(F)の計算式は、
F=mg(1+1+2fk/mg)
m=体重〔kg〕
g=重力加速度〔9.8m/s2〕
f=落下係数
k=ロープ係数
であります。
計算式から分かるように、衝撃荷重の数値の大小は落下係数(f)の大小に比例しています。落下係数とは、ロープの長さと落下した距離の比率であり、落下した距離をロープの長さで除した値です。値は0から最大で2となります。落下係数1以下になるように自己確保をとるように心がければ、人体の安全限界である8.8kN以内の衝撃荷重にすることができます。落下係数を1以下にするためには、自己確保をとる位置は腰部よりも上方とします。腰部より上方にとっていても安全帯のロープの余長があまりにもある場合は、落下係数1を上回ります。
自己確保注意事項を写真で確認
写真1:注意事項3つを満たしています。
写真2:注意事項3つを満たしています。
写真3:注意事項2、3を満たしています
改善策:安全帯のロープをかける位置は腰部より上方にします。腰部より上方に安全帯のロープをかけることができる地物がなければ、落下係数を考慮し、安全帯のロープを活動できる長さに調節します。
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写真4:注意事項2,3を満たしていない可能性があります。カラビナの巻き掛けは、安全帯のロープがカラビナ内を通っているだけの状態であり、長さ調節ができません。常に安全帯のロープを最長に使用しており落下係数が考慮されていません。さらに、カラビナを損傷させる掛け方です。
改善策:地物等にカラビナの巻き掛けはしない。
写真5:写真4の改善策。
安全帯のロープを地物等から折り返しカラビナに一回巻きつける。常にカラビナには縦方向の力がかかる。さらに、
安全帯のロープの長さ調節が容易である。
写真6:写真4の改善策。写真5でカラビナに一回巻きつけた部分を巻き結びにすることで、安全帯のロープが弛んでも長さを固定し続ける
ことができる。
自己確保の注意事項を3つ挙げました。そのうちの一つ目に、事故確保は十分な強度を有する地物等にとると述べました。では、十分な強度を有する地物等がなければどうすればいいのでしょうか。
例としては住宅等の最上階の手すりがない屋根での活動が考えられます。その場合において注意事項3つを満たす一つの方法を紹介します。
注意事項を満たす方法
1.三つ打ちロープを展張する。
(写真7:三つ打ちロープを展張する)
写真7のように三つ打ちロープを展張することで、十分な強度を有する地物がない状況を解消できます。三つ打ちロープを展張する係留点は、地上であれば地物・車両等があります。1カ所だけではなく、2カ所、3カ所と展張できれば、より活動範囲を広げることができます。
自己確保は、次のようにとります。(応用編)
2.テープスリングでプルージック結着をする。
(写真8:テープスリングでプルージック結着をする)
3.プルージック結着を締める。
(写真9:プルージック結着を締める)
写真10:安全帯のカラビナをプルージックにかける。
テープスリングをプルージック結着する利点は、展張した三つ打ちロープに角度が付いていても有効に活用できることです。また、三つ打ちロープの結節にプルージックがかかることで活動範囲を限定でき、墜落した場合の衝撃荷重をおさえることができます。(写真11:
写真11:展張する三つ打ちロープの結節にプルージックがかかっている。
良くない例
カラビナを直接かけている。
写真12は、一見、自己確保がとれているようですが、注意事項1のみを満たすのみであり、確保として意味のない状態です。
さらに、写真13では、カラビナが結節を通過してしまっています。
このようになってしまうことから、テープスリングを使用することで、自己確保としての機能が発揮されることを理解してください。
最後に
自己確保は、私たち消防人の活動には常に欠かせないものであることを強く再確認することができました。今後も「安全・確実・迅速」な活動を継続していくために、自己確保についてさらに突き詰めていきたいと思います。
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