月刊消防2018/7月号 救急隊員日誌171
作:ウルトラマン
「積読よ、さらば」
机に据えられたインクジェットプリンタの半分くらいの高さまで平積みされているのは、病院前救護や消防科学研究所に関連する論文たちだ。最近よく印刷しているのは脳卒中に関すること、意識障害に関する論文だ。救急救命士になって仕事を始めた頃。私の勉強材料は、臨床経験と救急救命士標準テキスト及びその関連書籍だったが、教科書に載っている理論はすでに過去の常識。臨床で働く私たちは常に最新の知見を学び続けなければならない。
とはいうものの、読み物というものは、一回でも読まずに放ってしまうとそれが常習化して、いわゆる積読(つんどく)という恐ろしい現象を生んでしまう。図書館から本を借りてきたのに結局読まないで返却してしまったという経験はないだろうか。月刊消防を毎月購読しているのに未読のままになっているとう話もよく聞く。読みたくて借りたり買ったりした本なのに、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。
この疑問に関して、精神科医の香山リカさんが、とあるテレビのコメントでこう解説していた。『「この本、きっと面白いはずだ。頑張って読もう。」という期待と緊張と、プレッシャーが、この奇妙な億劫さを生んでいる。マンガだと気楽に読み進められるが、「この本は自分にとって大切な一冊になるかもしれない」と思えば思うほど、手を出せなくなるという性質が人間にはある」と。安心してほしい。読まずに積み重ねられたその本は、あなたのせいではない。人間の性質のせいなのだ。』
言ってみれば読書も、論文を読み続けるということも、脳にとっては「スポーツ」である。マラソンを走ろうと思っても、それ相応の体力がないと途中でリタイヤしてしまうし、そもそも走ろうとする気も起きない。また、習慣化した運動も、一度サボってしまうと、今度はそっちが習慣化し、元の状態になかなか戻れなくなるものである。
ところで、私の職場には年に何十冊も本を読むツワモノがいる。その人に秘訣を聞いてみると、「なるほど。自分にも当てはまるなあ」と思うことがあった。それは、アウトプットする目的を持っているということだ。自分のためではなく、誰かのために読んでいるのだ。経営者は朝礼のネタにするために、教師は生徒や保護者に良い情報を届けるために。そして私も、この救急隊員日誌のネタにするために・・・。
この救急隊員日誌は、できるだけ日々の経験を取り入れながら、様々なジャンルの本を参照して書いている。月刊消防に掲載されている数々の連載も、読者のニーズに応えるために試行錯誤されながら出版されている。『読者の心に届くメッセージをお届けしたい。』これは出版社、編集者、執筆者の総意である。そこでこれからは、「面白かった記事」を意識しながら読むのはどうだろう。「面白かった記事」とは誰かに伝えたくなる話だ。一字一句読むなんてフルマラソンを完走するようなものである。気になった記事はしっかり読んで、まるで自分が知っていたかのように後輩に語ると良い。
私が書いた記事を読んで、まるで自分が考えたネタのように一生懸命語ってくれた後輩がいたが、私はそれが本当に嬉しかった。この月刊消防は、まさにそういう使い方をするために作られていると、私は思っている。
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