180930応急処置アップデート(7)インフルエンザウイルス感染症

 
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基本手技

健康教室 2018年10月号p68-9

応急処置アップデート(7)インフルエンザウイルス感染症

目次

ポイント

1.突然の高熱と関節痛で発症する

2.アルコールもハイターもよく効く

3.感染者のマスクは効果あり。未感染者のマスクは効果なし

1 インフルエンザウイルスの構造

インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス族に属するウイルスで、8本の1本鎖RNAを持っています。外套(エンベロープ)を持っており、その表面には2種類のとげ(スパイク)が存在します。2種類のとげのうち1種類(ヘマグルチニン, HA)は宿主細胞に取り付く機能を持っており、インフルエンザワクチンはこのHAに対して効果を発揮します。もう1種類(ノイラミニダーゼ, NA)は宿主細胞からウイルスが脱出するときに宿主の細胞膜を破る機能を持っていて、抗インフルエンザ薬はおもにNAの作用を阻害します。インフルエンザの型はこの2種類のとげの種類で表記されます(H1N1など)。その他、外套を貫く蛋白(M2)と外套の内側に蛋白の膜(M1)を持ちます。

インフルエンザウイルスの鶏卵を用いた培養は1931年に初めて報告され、これ以降現在に至までインフルエンザワクチンのほとんどが鶏卵から分離したウイルスによって作られています。

ヘマグルチニンは宿主細胞に取り付く機能を持っており、ノイラミニダーゼは宿主細胞からウイルスが脱出するときに宿主の細胞膜を破る機能を持っています

2 インフルエンザウイルスの感染経路

飛沫感染です。患者の咳などに含まれるウイルスが健常者の口腔粘膜・鼻粘膜に付着して感染します。ウイルスを含む飛沫は液体込みで直径が5μm以上あるためすぐ落下するので、患者と1mの距離があれば感染しないことになっています(図2)が、くしゃみでは飛沫が3-5m飛びますので注意しましょう。

図2

飛沫感染。インフルエンザウイルスを含む飛沫は重くすぐ床に落ちるので1m離れれば安全とされています

3 インフルエンザウイルスの症状

潜伏期間は16時間から5日で、最も多いのが2ー3日とされています。症状はくしゃみや喉の不快感から始まりますが、普通の風邪と異なり、短時間で急激に高熱を発します。発熱の程度は自分の持っている免疫力に依存しますので、若い人ほど高熱が出やすく高齢者では37℃に留まることがよくあります。腰痛や大関節の痛み(肩、膝、肘など)の痛みを当初から伴うのも特徴です。これに対して鼻水や咳などの上気道症状は1-2日経過してから顕著になってきます。

発熱は2日目にピークとなり、3日目には少し下がり、4日目にはまた上昇するとされていますが、現在ではワクチンや抗ウイルス薬の普及により3日程度の発熱で症状は消失します。しかしその後も咳や倦怠感が続く人もいます。

4 感染を防ぐために

(1)近寄らない

飛沫感染ですので、咳やつばが飛ばない距離を保てば感染しません。

(2)予防接種する

しかしワクチンを打っても感染する人がいます。これについては後述します。

(3)消毒する

インフルエンザは外套を持っているのでアルコールがよく効きますインフルエンザの児童生徒が寝ていたベッドはアルコール噴霧し、その周囲の床は1mの幅でハイターで拭きます。ファブリーズなどの除菌スプレーにはウイルスを殺す力はありませんので注意してください(図3)。

図3

インフルエンザの消毒

リネン類はアルコールを噴霧し、ベッドの周囲1mをハイターで拭きます

抗菌スプレーは無効です

5 インフルエンザウイルスへの疑問

(1)予防接種しても感染するのはなぜ

この理由としては

・ワクチンはとげの部分(HA)をターゲットにしている。ウイルス全部をターゲットとしていないため出てくる抗体の種類が少なく、鼻粘膜からのウイルスの侵入を防げない。

とげの部分は突然変異が頻回でワクチンのターゲットとずれてしまう(しかし現在ではワクチンとターゲットは毎年一致していることが確かめられている)。

・最新のワクチンを打っても昔の抗体が出てきてしまう。

・ワクチンの効果期間が短い。接種後効果が出るまで2-3週間必要で、その後3ヶ月しか効果が持続しない。

ワクチンの有効率は60%とされています(2015年厚生労働省)。これは「ワクチンを接種しないで発症した人のうちの60%は発症を防げた」、つまりワクチン未接種の人の話であって、「ワクチン接種者の60%がインフルエンザにかからなかった」という意味ではありません。最初から完全な予防効果は期待してはいけないのです。しかしながら、有効率は60%ありますし、診察していてもワクチン接種者は未接種者に比べ症状が軽く早く治りますので、予防接種は強く勧められます。

日本ではとげの部分だけをターゲットとしたワクチンが使われていますが、アメリカなどでは鼻腔内にスプレーする生ワクチンも用いられています。このワクチンからできる抗体には鼻粘膜からのウイルスの侵入を防ぐ効果が認められています。またこれから発生するであろう新型インフルエンザに対しても効果があるのではないかと考えられています1)。

1)PLoS One 2014;9:e114637

(2)マスクは効くの(図4)

健常者がマスクをして感染を防げるという報告はありません。マスクをしてもしなくても感染率は変わりません2)。

感染者がマスクをすると他人への感染を防ぐことができます。

2)Influenza Other Respir Viruses 2012;6:257-67

図4

健常者がマスクをして感染を防げるという報告はありません。

感染者がマスクをすると他人への感染を防ぐことができます

(3)抗インフルエンザ薬は効くの

抗インフルエンザ薬は、増殖したウイルスが宿主細胞から飛び出るのを阻害します。つまり病気の初期に効果はありますが、体中にウイルスが充満した後では効きません。

インフルエンザ感染予防にも抗インフルエンザ薬は使われます。インフルエンザ患者と濃厚接触した人に対しては、通常の薬の半量を2倍の期間投与します。経口薬のタミフルなら1日1カプセルを10日間、イナビルは2キットを1回もしくは1キットを1日2回吸入します

以前)抗インフルエンザ薬タミフルは精神症状を惹起するとのことで青少年には使えないことになっていましたが、現在はタミフルによる精神症状発生は否定されています。

(4)新型インフルエンザは出現するの

2009年の新型インフルエンザを覚えている方も多いでしょう。2009年4月、メキシコで豚インフルエンザが青少年に感染し何人も亡くなったことが報道され、WHOが警戒を呼びかけました*1。日本でも2009年5月に初めて確認されました。当初は隔離入院させられましたが、症状が通常のインフルエンザより軽いことが確認され警戒は解かれました。私も多数診察しましたが半分は小中学生が半分で発熱も病悩期間も通常より軽いものでした。

将来的に鳥インフルエンザか豚インフルエンザが変異して新たな大流行を起こすことは確実なのですが、それがいつになるかは分かりません。しかしその時には今よりよく効くワクチンや抗インフルエンザ薬が市販されているはずです。

*1

その後、WHOと製薬会社が仕組んだ自作自演であったとの報道がされています。

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