月刊消防 最新救急事情 2018/10/1
目次
以前は蘇生術の切り札と思われていたアドレナリンの評価が著しく
8014例の前向き検討
アドレナリンに関しては通常の1mgの使用でも5-
この二重盲検前向き研究はイギリスで行われた。
結果として、30日後に生存していたのはアドレナリン群3.2%
筆者らの結論はこうである。「アドレナリンは生存率を上げる。
アドレナリンが有効なのは除細動できない患者
蘇生方法は、
心電図波形から生存率を考えると、
実は心筋の血流量は減る
蘇生時にはアドレナリンは冠動脈を拡張させるため心筋は多くの血流を受けることになり、それが心臓の活動再開に繋がる、という話は救急関係の教科書に出て来るいわば常識であるが、この常識は近年否定されている。動物実験で明らかとなっている事実は(1)アドレナリンは平均血圧と脳幹流圧は上昇させるが冠動脈還流圧は低下させる4)、(2)アドレナリンを使った群では使わなかった群に比べ脳と心臓の組織内酸素飽和度4)および組織内酸素分圧が低下する5)、の2点である。つまり確かに冠動脈は拡張して血液の量は増えるのだが、血液は心筋線維の一本一本に行き渡ることはなく表面をなぞって去ってしまう、生理学でいうシャント効果が出てしまうというのである。微小還流量の低下は少量のアドレナリン投与によっても引き起こされる6)。
組織間流量を減らすのになぜ除細動できない患者を助けることができるのか。これは私の推論だが、除細動できる患者と比較し除細動できない患者は心臓の虚血が長時間続いて心筋や毛細血管の自己調整機能が廃絶しているのではないだろうか。平均血圧の上昇に末梢血管が全く抵抗できず、圧力がダイレクトに心筋線維に伝わり微小循環が改善するためと思われる。
「立ち止まって考えるべきだ」
New EnglJ Medでは巻頭語で文頭の論文を取り上げている。その中でEditoerであるピッツバーグ大学のCallaway教授は、心臓よ動け!とばかりに後先考えずにアドレナリンを大量に使うことに対し警鐘を鳴らしている7)。「我々は今、立ち止まって考えるべきときに来ているに違いない。心拍再開後の治療が患者の機能的回復をもたらすかどうかを。心電図によって薬剤を使い分ける必要性を。そして病院前の少量のアドレナリン投与が大量投与より優れているかどうかを。」
文献
1)N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa1806842.
2)Resuscitation 2014;85:732-740.
3)J Crit Care 2015;30:1376-1381.
4)Resuscitation. 2012;83:1021-4.
5)Crit Care Med. 2007;35:2145-9.
6)Crit Care Med. 2006;34(12 Suppl):S454-7.
7)N Engl J Med.DOI: 10.1056/NEJMe1808255
図1
修正ラスキンスケールによる患者評価
0:全く症候がない
1:症候はあっても明らかな障害はない。日常の勤めや活動は行える
2:軽度の障害。自分の身の回りのことは介助なしで行える
3:中等度の障害。何らかの介助が必要だが歩行は介助なしに行える
4:中等度から重度の障害。歩行・食事・トイレには介助が必要だが持続的な介助は不要
5:重度の障害。寝たきり。失禁状態
6:死亡
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