181021今さら聞けない資器材の使い方 第66回 パワーアッセンダー

 
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基本手技

近代消防2018年11月号p108-10

目次

1:はじめに

「今さら聞けない資器材の使い方」第66回を担当させていただきます、郡上市消防本部中消防署、救急救命士の田中恵悟です。
私の住む郡上市は日本のほぼ中央の岐阜県にあり、さらに岐阜県のほぼ中央に位置しています。
郡上市の面積は1030.75㎢あり山々に囲まれ、清流長良川が市内を縦断している自然豊かな町です。人口は約42,000人と小さな町ですが、夏には日本三大踊の郡上踊り、冬には市内10カ所のスキー場でスキー・スノーボードと、一年を通して観光客が多く訪れる町です。
当本部は職員数85名で1本部2署1出張所1詰所を3交代の勤務体制で専任体制ではなく兼任体制で火災救急救助に出場し予防業務も行っています。
今回は、当本部で2016年から配備した、パワーアッセンダーについて紹介したいと思います。

2:資器材について

まずパワーアッセンダーの仕様について紹介します。


(図1:パワーアッセンダー本体)

仕様書

・名称:パワーアッセンダーPME
・サイズ:47×25×28(cm)
・重量:9.5kg(収納ケース別)
・適合ロープ径:10~13mm(ヨーロッパ基準EN1981に適合したスタティックロープ、又はセミスタティックロープ/11mm推奨)
・運用荷重:200kg
・最大荷重:300kg(レスキュー使用時のみ可能)、滑車使用時/600kg
・登高速度:0~19m/分(200kg負荷)
・最大登高距離:燃料満タンで900m(200kg負荷)
・適応温度:-20℃~+40℃
・エンジン:HONDA-GX35 4ストローク/35.8cc/1.6hp
・燃料:無鉛レギュラーガソリン 0.63ℓ
・エンジンオイル量:0.1ℓ

用途

ビルメンテナンス、建設・設備工事など様々なロープを使用する高所作業の場面において登高器として使用されます。
救助活動においては、低所から高所への引き揚げの動力源として機能します。

3:導入に至った経緯

山間地や河川などが多くあり、高低差のある場所での引揚事案では、機械に頼る事も必要ではないかと考え、救助工作車購入に合わせて、導入に踏み切りました。
従来の引揚システムではマンパワーに頼っており、引き揚げ時には複数人の手が必要でした。限られた人員の中、1つの箇所に複数の隊員を投入すると他の箇所に投入する人員が不足し、応援隊が到着するまで活動が滞ってしまうこともありました。
一方、パワーアッセンダーを使用した引揚システムは、パワーアッセンダーの操作を覚えれば1人でも引き揚げることが可能になります。また、パワーアッセンダー本体は持ち運びが容易なコンパクトサイズでロープの設定も簡単なため、準備も1人で行うことができます。
以上のような点から、パワーアッセンダーを導入することは、当本部にとって大きなメリットがあるという結論に至りました。

4:使用方法

始動

①電源スイッチをONにする
②チョークレバーを始動位置に入れる
③燃料戻しチューブの内側でガソリンが移動するまでプライミングポンプを押す
④スタータープルコードを引き、ハンドルをしっかりと握る
⑤ロープを設定しハンドルを捻るとドラムが回転し引き揚げ開始
と始動については、救助工作車積載のエンジンカッターやチェーンソーとほとんど変わらず非常に簡単です。

システム設定

①支点を作成し、パワーアッセンダー本体を付属のカラビナで支点に設置する
(図2)

②メインロープをパワーアッセンダーにセットする



(図3:矢印の方向(支点側)にロープを引き込む)

(図4:ロープグラブのカバーを開けロープを入れる)

(図5:ロープグラブのカバーを閉める)


(図6:左…要救助者側 右…ロープ引込方向)
ロープをセットする時は、図3のようにロープを引き込む方向に注意しループを通
す。
③引き込む側のロープの端末を引揚対象にとりつけ、引き揚げ準備完了
④ハンドルを捻り、引き揚げ開始

(図7:2人分の重さでも楽に引き揚げることができる)

(図8:引き揚げ時にテンションがかかる為本体が傾く)

その他使用方法

フルボディハーネスを着用し自身のD環にパワーアッセンダーを設定する事で、低所から高所へ力を使わず楽に登はんができるようになります。

5:救助事案

当本部で、資器材導入後数件の使用実績がありますが、その一例を紹介します。
平成30年3月某日、県道走行中の軽乗用車が運転操作を誤り、法面を約20メートル転落し乗員2名のうち1名が負傷した救助事案。
出場にあっては救急車1台3名、救助工作車1台3名。
先着救急隊が要救助者に接触後、救助隊員とバスケット担架に要救助者を収容する。2名がバスケット担架の前後を支えた状態で、救助工作車側部の支点を使用し県道上に設定したパワーアッセンダーにて引揚救助を行いました。

パワーアッセンダーを設置

パワーアッセンダーを使用したことにより、引揚時に伴う複数隊員の体力消耗の緩和が可能でした。また引揚時の隊員数の削減により6名でも要救助者に2名の介添えを付けることができ、ビレイラインを設定装着した状態で安全に約20メートル上の県道上まで引揚救助を行う事が容易になりました。


安全に約20メートル上の県道上まで引揚救助を行う

6:おわりに

機械に頼ることは非常に便利で得るものも大きいですが、故障のリスクや使用できない環境も存在します。資器材に頼りすぎることのないように基本を忠実に理解しながらも、使える資器材を使用して救助時間の短縮や少人数でもベストな人命救助が行えるよう、日々訓練を重ねていく必要があります。

今回、パワーアッセンダーを紹介しましたが、全国の消防本部の中には当本部のような人員不足を課題としている消防本部があると考えます。この記事を読んで、このような資器材があるという事を知ってもらえればと思い紹介させていただきました。

次回は酸素マスクです

 

執筆

顔写真

郡上市消防本部 中消防署 救助係
田中 恵悟(たなかけいご)
消防士
消防拝命:平成28年4月
救急救命士取得:平成28年3月取得
出身地:岐阜県郡上市白鳥町
趣味:犬を愛でる

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