190927今さら聞けない資機材の使い方 76 トレンチレスキュー ( 姶良市消防本部中央消防署 姶良分遺署 副署長 植木伸博 )

 
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基本手技
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190627今さら聞けない資機材の使い方 76 トレンチレスキュー ( 姶良市消防本部中央消防署 姶良分遺署 副署長 植木伸博 )

近代消防 2019年9月号 p60-66

 

トレンチレスキュー

 

目次

1はじめに

今回「今さら聞けない資機材の使い方」で第76回トレンチレスキューについて執筆させていただくことになりました鹿児島県のあいら姶良市消防本部中央消防署姶良分遣所の植木伸博と申します。我が姶良市は鹿児島県本土の県央に位置し、古い歴史と文化に育まれて県内では指定文化財が一番多く、伝統芸能や文化遺産が数多く残されています。管轄人口は、約77,000人、面積は231.25㎢、1消防本部1署2分遣所、消防職員100人で市民の安心・安全な街づくりを目指しております。

2トレンチレスキューとは

トレンチ=「溝」のことです。トレンチレスキューとは掘削等による崩落事故や土砂崩れにより生き埋めになった要救助者を、再崩落の二次災害の発生が起こらないように土留めによるショアリング(安定化)をしながら、狭隘空間から救出する救助法です。

トレンチからの救助の多くは横方向と縦方向の救助が必要になります。横方向は狭隘空間(CSRM)からの救出技術を、縦方向はロープレスキューの技術を用います。隊員個々の高いスキルが求められます。今回は私どもが行った訓練を紹介・解説することで、トレンチレスキューの理解を深めて頂きたいと考えています。

ここ数年豪雨災害による被害が全国で増加傾向にあります。昨年の「平成30年7月豪雨」では土砂災害で多数の犠牲者が発生しました。この場をお借りしてご冥福をお祈り申し上げます。私たち救助隊は、災害現場で殉職・負傷者を出さないために安全迅速に要救助者を救出しなければなりません。今回実施した訓練では、大型重機では救出できないことを前提とし、現場の状況評価(サイズアップ)を行い、現有資機材等(支柱固定器具)を活用して安全・迅速に救出する知識と技術を習得することを目標としました。

3トレンチレスキューの基礎

a土砂災害の種類

トレンチレスキューの対象となる土砂災害は以下の通りに分類されます。

(1)地すべり

地下水の影響などにより、斜面を形成する地塊(土砂・岩塊)が「すべり面」を境にして下方に滑り出す現象です。滑り落ちるスピードはゆっくりですが広範囲にわたって地面が動くため住宅・道路等に大きな被害を及ぼすとともに、川を堰き止めた場合は決壊により洪水を引き起こします。。

(2)がけ崩れ

集中豪雨や地震などをきっかけに、勾配30度以上で斜面上の土砂や岩塊が安定性を失って崩落する現象です。突然起きるため人家の近くで発生すると逃げ遅れる人も多く、死者の割合も高くなります。また、がけ崩れで崩れた土砂は、斜面の高さの2倍くらいの距離まで届くことがあります。

(3)土石流

集中豪雨で山腹が崩壊して生じた土砂や渓流内に堆積している不安定な土石等が大量の水と一体となって流動化し渓流内に流れ込み流下する現象です。時速20㎞~70㎞という速度で木や岩などを巻き込みながら一瞬で人家や田畑を壊滅させ大きな被害をもたらします。山津波とも呼ばれます。

 

bトレンチの種類

4種類に分けられます。

(1)ストレートトレンチ
(2)T型トレンチ
(3)L型トレンチ
(4)ディープトレンチ
(5)溝壁上部崩落トレンチ

c崩落タイプ

掘削穴やトレンチでの事故の際に起こるタイプも4種類に分けられます。

(1)堆積廃物の崩落(スポイル・イン)

掘り起こした土が、トレンチ脇に積み上げられトレンチ内に滑り落ちるもの。

(2)縁の崩落(リップ・イン)

トレンチの縁の一部がトレンチ内に崩れ落ちるもの。縁の崩落は通常積み過ぎにより起こるか、掘削用バケットによってかかった大きな力により、縁のエリアが弱められることで起きます。

(3)せん断壁崩落(シアー・イン)

トレンチの側面にあるせん断壁が、トレンチから離れることで起きます。せん断壁崩落の予兆として考えられるのは、低いトレンチ壁に泥が入り込むこと、または、トレンチの縁からトレンチの深さまで見て分かる応力亀裂があることです。

(4)ぬかるみ崩落(スラウ・イン)

低層のセクションが崩れることにより、張り出した突起が崩れる可能性が出てきます。

d土圧について

土圧とは土木工学において、土が壁体に及ぼす圧力のことで、大きく3種類に分類されます。

(1)静止土圧

壁体の異動がないときに土が、壁体に及ぼす圧力

(2)主働土圧

壁体の背面にある土が、離れるように動くときに土が壁体に及ぼす圧力

(3)受働土圧

外部から力が加わって、壁体が土の方に向かって働くとき、その反力として壁体に加わる圧力

 

4準備

 

a活動方針

その現場がRESCUEレスキュー(救出)なのかRECOVERY
リカバリー(遺体回収)なのかを判断し活動にあたります。RSCUEとRECOVERYでは活動方針が違い、リスクの大きさも異なります。

bトレンチレスキューの危険要素及び制御

・2次崩落(各崩落タイプ)→トレンチ縁の制御(グランドパッド)
・電気、ガス、上下水道等(地下に埋没されている配管)→関係機関との連携
・天候(豪雨での活動)及び含水分→一時退避、活動中止、支柱等による措置
・トレンチ内の環境(酸欠、有毒ガス等)→環境測定実施後、換気措置
・地表での危険性(転落、つまづき等)→ゾーニング、規制線の確立、立入規制
・道路、交通状況(大型重機や鉄道等の振動)→重機使用不可、交通規制等

c使用資器材

・コンパネ、2×4材、3寸角材、火打ち、木杭、鉄杭、5寸釘、コーススレッド
・パイプサポート(レンタル)、単管パイプ、クランプ、メガネレンチ、ドンゴロス
・スコップ、かけや、大ハンマー、石頭ハンマー、バケツ、ブルーシート、雑ロープ
・発電機、コードリール、電動丸鋸、インパクトドライバー、ハンマードリル、差し金
・三連梯子、単梯子、Aフレーム、TRR資機材、三つ打ちロープ資機材
・エアマイティ一式、空気ボンベ、環境測定用資機材、空気呼吸器、スケール
・カラーコーン、訓練ダミー
・個人PPE(ヘルメット、ゴーグル、防塵マスク、耳栓、警笛、グローブ、ハーネス、
エルボーニーパッド、安全靴)、消毒アルコール、ガーゼ


5実技訓練

 

●001トレンチレスキューにおける座学(基礎知識)を受けている救助隊員

●002活動隊員の個人PPE(Personalprotectiveequipment:))

 

進入管理をする隊長は個人PPEの装着が不確実であれば、隊員を進入させてはいけません。

 

●003今回のストレートトレンチ(幅2m×横10m×深さ2m)
地元企業ご協力のもとシラス採取場を訓練会場として提供を受け、また重機にて掘削して頂きました。
今回はシーティング(たて込み簡易土留工法)や土留め支保工法やショアリング等の工法を用いて壁の安定化を図り、要救助者を救助します。

004グラウンドパッド設定法
2次崩落(リップ・イン)を防ぐ為に、トレンチの縁にグラウンドパッド(コンパネ)を敷きます。崩落の可能性が広範囲の場合は、地面を均しながら手前から敷いていきます。

●005グラウンドパッド設定法
局所に掛かる荷重を分散させるためにグラウンドパッド上で活動することを原則とし、崩落の可能性があるため、自己確保及び退路を確認しておくこと。
グラウンドパッドを敷き終えたらガス検知器にてトレンチ内の環境測定を実施します。結果次第では、送排風機による換気、空気呼吸器の着装等にて対応します。

●006ガードパネル作成
コンパネに力材である門型フレーム(2×4材)をコーススレッドで固定します。

●007ガードパネル作成
コンパネだけでは強度が無いため、補強材として門型フレームを作成し、支柱固定器具(パイプサポート)を設置します。

 

●008ガードパネルの設定法
グラウンドパッド上からガードパネルを降ろしますが、門型フレーム上部にロープ等で確保をとり、ガードパネルの落下防止の処置を図ります。原則隊員は単梯子等を活用してガードパネルの位置を決め、ショアリングへ移行します。

 

●009ガードパネルの設定法
隊員は、トレンチ内へできるだけ体を入れずに梯子上にて設定が出来るように訓練を重ねます(緊急脱出できるように)。

 

●010ショアリング(支柱・パイプサポート設定)
救助隊員が眺めている赤いものは人形の腕です。
最初に要救助者の位置にガードパネルを設定します。。

 

●011ショアリング(支柱・パイプサポート設定)
パイプサポートも同様に落下防止の処置を施し、トレンチ内へ投入します。パイプサポートの先端を釘またはコーススレッドで固定し、伸縮するサポートを伸ばしロックピンで固定、ねじ式になっているので門型フレームをしっかと締め上げ固定します。
地上で最初にガードパネル及びパイプサポートを仮に組み上げてから投入する方法もあります。

 

●012ショアリング(支柱・パイプサポート設定)
支柱と支柱の間隔はエネルギー作用の関係から約1.2メートルとし、ねじ式及び木材(ストラット)の支柱であれば、上部→中央→下部の順で設定します。空気式であれば中央→下部→上部となります。

 

●013要救助者へのアクセス
埋没している要救助者の頭と胸を最初に掘り出してください。原則手掘りです。明らかに要救助者までの距離がある場合は、掘削工具(スコップ等)使用しても構いませんが細心の注意を払います。重機の使用は絶対にしないこと。
要救助者が完全に自由になるまで手掘りを行います。部分的に埋まっていても引き抜いてはいけません。引き抜くことにより2次崩落の可能性があります。

要救助者の状態を判断して救急隊を含め全員で情報を共有します。考えられる状態は、高エネルギー外傷、全脊柱固定措置、気道確保、CPA、骨折、四肢の切断・損傷、クラッシュシンドローム等多岐にわたります。

 

●014狭隘空間からの救出
縛帯(簡易縛帯・ピタゴール・ハーネス等)でパッキングを行い、救出システム(今回は応用フレーム)を設定し垂直方向へ救出します。

 

●015狭隘空間からの救出
リップ・イン等を防ぐため。ある程度引き揚げたら(縁より上)

 

●016狭隘空間からの救出
フレームごと倒し要救助者を確保します。

 

●017梯子クレーンによる救出
応用フレーム同様垂直方向への救出を行い

 

●018梯子クレーンによる救出
縁を超えたところで梯子を起こして要救助者を確保します。

 

●019サイドビーム(InsideWaler)腹起し・横ばた
パイプサポート間は約90㎝しかなく、狭隘であるため縛帯であれば救出は可能です。ところが要救助者の状態が悪く、バックボードに全脊柱固定し担架へ収容となるとパイプサポートが障害となり救出困難です。

 

●020サイドビーム(InsideWaler)腹起し・横ばた
そこで三寸角材等を活用して(腹起し)障害となるパイプサポート除去し、活動スペース(約270㎝)を確保後担架にて救出する方法です。

 

●021木材(ストラット)及びマット型空気ジャッキを活用
レスキューサポート、パイプサポート等がない場合は、木材を使用してショアリングします。

1、三寸角材を支柱として2×4材にて固定する工法。

 

●022木材(ストラット)及びマット型空気ジャッキを活用

2、三寸角材を支柱として2×4材を筋かい・方づえとして活用し固定する工法。

3、三寸角材を支柱としてコンパネを筋かい・方づえとして活用し固定する工法。(ホリゾンタルショア)

 

●023木材(ストラット)及びマット型空気ジャッキを活用

 

4、短い三寸角材を支柱としてマット型空気ジャッキを拡張して固定する工法。

●024簡易土留め工法
土砂に埋もれた要救助者の場所が特定できれば、その上方にグラウンドパッドを敷き足場スペースを確保します。

 

●025簡易土留め工法
単管パイプを打ち込みます

 

●026
簡易土留め工法単管パイプを打ち込み、ハの字に組んだ単管パイプをクランプにて結合します。スコップ等にて土砂を排除してコンパネを上方から押し込み活動空間を確保します。

 

●027簡易土留め工法
土圧により内側へ押しつぶされるので単管パイプ・支柱等を用いてショアリングします。

 

6おわりに

 

●028姶良市消防本部中央消防署姶良分遣所隊員

今回の訓練においては訓練塔等で簡単に出来るものではなく、またトレンチレスキューの訓練を経験した隊員も姶良市消防本部にはいませんでした。しかし地元企業の提供により訓練会場及び掘削をしていただくとの事で『チャンス』だと思い即実施に踏み切りました。訓練内容にあっては人海戦術(マンパワー)を基本として、地元量販店、建築資材店で手配できる資機材等を活用して実施しました。セルフレスキューファーストを原則とし、各種工法を理解し実際の現場を想定して隊員のスキルアップに努めました。
隊員各々の各種工法の知識・技術の習得の個人差、災害時における資機材調達の問題等、これらを今後検討し、災害対応出来る環境を構築していかなければならないと感じました。

 

名前:植木伸博(うえきのぶひろ)

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名前:植木伸博(うえきのぶひろ)
所属:あいら姶良市消防本部中央消防署姶良分遣所副所長
出身:鹿児島県姶良市加治木町(あいらしかじきちょう)
消防士拝命:平成6年4月
趣味:アウトドア、日曜大工

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