近代消防 2020/5月号 p92-96
今さら聞けない資機材の使い方 84 ウォータージャケット、ウォーターチャージャー(真庭市消 防本部真庭消防署 金子宏典・頭山翔一)
今さら聞けない資機材の使い方
題名:ウォータージャケット、ウォーターチャージャー
目次
1 はじめに
この度「今さら聞けない資機材の使い方」で執筆をさせていただくことになりました、岡山県真庭市消防本部の金子博典、頭山翔一と申します。
私達が所属する真庭市消防本部は、岡山県北部の山間部に位置し、東西約30km、南北約50kmの真庭市及び真庭郡新庄村の1市1村、総面積895㎢を管轄し、職員数98名で約4万5千人の生命、身体、財産を守っています(写真1)。また、去年2月に初めて開催した「消防士の台所(通称消防メシ)は(poster_001,poster_002)大好評で、今年になってもマスコミの取材が続いています。
さて、今回紹介する資機材は「ウォータージャケット、ウォーターチャージャー」です。近年、全国的に火災の件数は減少しているものの、林野火災の件数は大幅な減少が見られません。
そこで、年間を通し恒常的に発災し、特に春から初夏にかけて頻発が予想される林野火災等で効果的な消火が期待できるウォータージャケットとウォーターチャージャーについて紹介させていただきます。
写真1
真庭消防本部の管轄地域。真庭市及び真庭郡新庄村
poster_001
消防士の台所 初回ポスター
poster_002
消防士の台所 第2回目ポスター
2 ウォータージャケットとは
ウォータージャケットとは、ジャケット内部に内蔵された水嚢から、その下端に接続しているホース及びノズルより通水した水が放水される仕組みになっているもので、林野火災時や残火処理に使用する資機材です。また、胴回りや袖口が広く開いており、防火衣の上からでも素早く着装できる仕様になっています。
使用方法は、まず背面上部にある給水口キャップを取り外し充水します。次いでポンプ手前のコックを開き、ノズルを火元に向けてポンプを前後に動かすと水が放射されます。また、ストレート、噴霧の切り替えはノズルを時計回りに回せばストレート、反時計回りに回せば噴霧放水になります(写真2、3)。
写真2 ウォータージャケット前部 各部の名称
写真3 ウォータージャケット後部 各部の名称
3 ウォータージャケットの仕様
仕様を表1に示します。
4 ウォータージャケットの特徴
当本部の林野火災対策として、これまではジェットシューターを主に使用していましたが、2019年度からウォータージャケットを導入し、現在は両資機材を併用して使用しています。特徴として、
(1)ジャケット内の水が防熱や使用者の体温を下げ、疲労を和らげる。
(2)内部は12箇所の垂直仕切りで水の横揺れを防ぎ、安定した消火姿勢を保てる。
(3)ポンプとコックの接続部がL字型になっていることで扱いやすい。
(4)大型コックの採用により、水垂れを防止する。
(5)ジャケットの脇にノズル収納用ポケットがあり邪魔にならない。
といったことが挙げられます。
5 防熱、体温低下の効果について
前項の特徴(1)について、当本部では熱画像装置を使用し、実際に隊員の表面温度を測定及び検証を行いました。
活動前はほとんど差が見られませんが、活動15分後はジェットシューター前部16度(写真4)に対し、ウォータージャケット前部12度(写真5)と4度も差があり、防熱効果が数値で立証されました。
写真4 ジェットシューター前部 活動15分後の表面温度
写真5 ウォータージャケット前部 活動15分後の表面温度
6 ジェットシューターとの比較
ウォータージャケット導入後、署員に使用感やジェットシューターとの違いを確認したところ、一番大きな違いとして、ノズルが収納できるため両手が自由になる点がメリットとして挙げられました。また、水嚢内の水が横揺れせず、活動しやすいという声も多数ありました。
検討事項として、ジェットシューターは防火衣の胸、腰部分が開けているのに対し、ジャケットタイプは体前面が隠れてしまうため、無線機等の収納を防火衣の内側にするなどの対処が必要になると思います(写真6~9)。
写真6 ウォーターシャケット前部 着装状況
写真7 ウォーターシャケット後部 着装状況
写真8 シェットシューター前部 着装状況
写真9 シェットシューター後部 着装状況
7 ウォーターチャージャーとは
ウォーターチャージャーとは、ホースラインの途中やポンプ車の放口に結合し、水嚢やジェットシューター等に給水を行う資機材です。従来、ジェットシューター等への充水は、筒先やポンプ車の放口、又は自然水利等で行っていましたが、ウォーターチャージャーの導入により、場所を選ばず、さらに6箇所設けられた給水口から同時に充水することが可能になり作業効率が格段に向上しました(写真10)。
写真10 ウォーターチャーシャー 各部の名称
8 ウォーターチャージャーの仕様
仕様を表2に示します。
表2 ウォーターチャージャーの仕様
9 ウォーターチャージャーの特徴
(1)山林火災用水嚢、ジェットシューター等への充水や災害時の給水活動等に利用できる。
(2)水嚢への充水は1袋(約20ℓ)につき約30秒で6袋まで同時にできる。
(3)バケツやポリ缶への給水は、給水栓から直接でも付属のビニルホースからでもできる。
(4)別売の20mホースを使用すれば、少量放水での消火活動が可能である。
10 ウォーターチャージャーの注意事項
(1)保守点検
①ウォーターチャージャー及び付属される給水ホースの外観に損傷がないことを確認する。
②各接続箇所及びボールバルブが正常に動き、接続されていることを確認する。
※動きが悪い(ツメの戻りが遅い)場合は、シリコン系のスプレーを塗布し再度確認を行う。改善が見られない場合は交換する。
③背負いベルトに損傷がないかを確認する。
(2)使用上の注意
①通水前に各接続箇所が確実に接続されているか確認する。
②給水作業の際、ボールコックの開閉操作はゆっくり行う。
③使用後は水で洗浄し、土砂等が付着した場合は洗い流す。
④給水作業時は0.3MPaで行う。
11 ウォーターチャージャーの使用方法
(1)ホースラインの途中や分岐ボールバルブの片側等に接続する(写真11、12)。
※MC(マルチコネクト)分岐ボールバルブのオス金具は、ウォーターチャージャーのメス金具に取り付け不可(写真13、14)。
(2)ウォーターチャージャーの両サイドのボールバルブが閉じていることを確認し、給水ホースを接続する(写真15)。
(3)給水ホースを消火水嚢にセットしボールバルブを開けることで充水作業が開始される(写真16)。
(4)収納は、高圧ビニルホースを整理しバンドで固定する(写真17、18)。
写真11 接続状況
写真12 接続状況 分岐金具使用
写真13 マルチコネクトタイフの分岐金具には接続不可
写真14 接続不可のマルチコネクトタイプの分岐金具
写真15 給水ホースの接続状況
写真16 充水作業
写真17 収納状況
写真18 背負いでの搬送状況
12 おわりに
ウォータージャケットとウォーターチャージャーは近年導入されたばかりの資機材で、林野火災等で、これまで以上に迅速かつ効果的な消火活動が期待できます。
当本部では、消防分野だけでなく救急、救助分野の資機材についても効率の良い資機材を日々研究し、導入しています。時代の変遷とともに変わる消防資機材について、私達消防職員は常に関心を持ち、アンテナを張っておくことが住民の安全安心につながると思います。
今回紹介させていただいた資機材が、少しでも皆様の現場活動や訓練の参考になれば幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
筆 者
名 前:金子 博典(かねこひろのり)
所 属:真庭消防署 本署
出 身:岡山県真庭市
消防士拝命:平成18年4月
趣 味:ランニング
著者19 金子顔写真
名 前:頭山 翔一(ずざんしょういち)
所 属:真庭消防署 本署
出 身:岡山県真庭市
消防士拝命:平成23年4月
趣 味:ゴルフ
著者20 頭山顔写真
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