110116工夫(第7回)兼務隊の工夫

 
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基本手技



110116工夫(第7回)兼務隊の工夫

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工夫

第7回

兼務隊の工夫

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Lecturer of this month

本川 友一(ほんがわ ともいち)

伊予消防等事務組合 伊予消防署

出身地 愛媛県伊予市中山町
平成3年 消防士拝命
平成16年 救急救命士合格

趣味 野球・ソフトボール


シリーズ構成

泉清一(いずみせいいいち)

大洲地区広域消防事務組合
大洲消防署内子支署小田分駐所勤務
専門員兼救急第一係長兼消防第二係長

昭和五十六年四月一日消防士拝命

平成十六年五月救急救命士合格

気管挿管・薬剤認定救急救命士

趣味:格闘技全般(柔道五段・相撲三段)


工夫

第7回

兼務隊の工夫

「各隊の協力の下に」(拡大)

消防本部の概要

図1
伊予消防等事務組合の位置と管轄

 当消防本部は、愛媛県中予地区、松山平野の南西部に位置し、伊予市、松前町、砥部町の1市2町より構成され、管内人口は9万3千人余り、管轄面積は316km2であり、1本部、3署、3出張所、職員数153名体制の一部事務組合です(図1)。当管内は県庁所在地である松山市に隣接していることから、ベッドタウンとして県内で唯一、人口が増加している地域でもあります。当消防本部のある伊予市は、海、山に囲まれた自然豊かな町です。平家の美しい姫が五色の石となったという伝説が残る五色浜海浜公園では、毎年夏に全国高校女子ビーチバレー大会が開催され賑わっています。また、伊予市中山地区にある盛景寺の菩提樹の木は、根回り320cm、樹高25mもあり、県指定の天然記念物に登録されています。当市の山間部を流れる川は、源氏ボタル観賞スポットとして有名で、初夏には幻想的な光を放ちながらホタルが飛び交い見る人の心を和ませてくれます。

はじめに

 現在、私が勤務している伊予消防署は、大半の職員が兼務隊として勤務しています。これは地方の小規模な消防署であればどこも同じではないでしょうか。そこで今回は、「小規模消防の兼務隊が現場活動を行う上での工夫」について、当消防署の取り組みを書かせて頂きます。

互いの意識改革

 兼務隊員として従事して最も大変なことは、いわゆる「なんでも屋」にならなければいけないことです。今日は救急隊だけど、次の当務では消防隊なんていうのはざらで、ひどい場合は、日勤帯は救急隊で、夕方からは救助隊なんてこともしばしばです。しかし、そこは縦社会の消防組織、兼務隊員に有無を言わせません。当然の事ながら、兼務隊員だからといって甘えは一切許されないので、救急、救助、消防の各隊長から専任隊員と同じように厳しい指導を受けることになります。

 ある時、兼務隊の若い隊員から、気になることを聞きました。それは、指導する側の各隊長の現場活動方針に少なからず違いがあるため、現場活動時に戸惑っているとのことでした。自分としては、この小さな溝を埋めるため、また各隊が共通の目的意識を持って現場活動を行えるよう、「事後検討会」を行うことにしました。
この事後検討会は、複数隊(救急、救助、消防隊)で現場活動を行った場合に、現場出場した全職員でその事案に対する検討会を実施するというものです。検討会も回を重ねるごとに、若い職員からも積極的に意見が出るようになってきましたし、何よりこの検討会を行うことで、複数隊で活動する際の目的意識や活動方針を再確認して次の現場活動に臨めていることは大きな収穫です。

連携訓練

 事後検討会で話し合ったことを具体的な形にするためには訓練しかありません。そこで、当消防署では数年前から以下のような訓練に積極的に取り組んでいます。

(1)組合外傷セミナーの実施

 過去の現場活動において、傷病者を車両から救出する際やバックボードへ固定する際に救急隊と救助隊・消防隊との意思疎通がうまくとれないために現場活動がスムーズに行えず、現場出発までに時間を要するようなことがしばしばみられていました。そこで、出場隊全員が同じ共通意識を持ち、標準的な技術と知識を身に付けることが必要不可欠と考え、組合外傷セミナーを実施しました。このセミナーはJPTECコースを参考とした4時間のミニコースで、技術指導は組合各署所のJPTECインストラクターと過去にJPTECコースを受講した職員、合計10名で行いました。今回、指導者の中に過去の受講者を加えたのは、指導側サイドを経験してもらうことにより今一度自らの知識と技術を再確認してもらうことと、教えることの難しさを実感して欲しかったからです。

写真1
組合外傷セミナーのようす。各隊が協力して傷病者に当たります

受講側は職員5名1組を1班として5組を編成しました。受講側の班編制に際して気を付けたことは、各所属と各隊をばらばらに振り分けたこと(写真1)と、

写真2
ベテラン職員も一緒に実技を行います。

各班にベテラン職員を一名配置したこと(写真2)です。これにより、受講者各班でのコミュニケーションが十分に図られ、ベテラン職員が率先して実技を行うことにより若い職員が牽引される形となり相乗効果が生まれたように思います。

写真3
車外救出では隊を超えて同じ目的を共有します。

この組合外傷セミナーは同じ要領で2回実施しましたが、受講した職員からの評価も上々でしたし、なによりも外傷現場において同じ共通意識と目的を持って活動が行える(写真3)ようになってきたことで、現場活動が迅速、的確に行えるよう変化しています。

(2)現任教養

 伊予消防署では、年間を通して毎週一回(約3時間)の現任教養を行っています。目的は「職員の知識と技術の向上」です。

 現任教養は年間計画表によりあらかじめ各月で担当係が決められており、担当月の係の職員は数週間前から現任教養で使用する座学の資料作成や、訓練計画を立て実施しています。訓練内容についていくつかの例をあげると、座学においては総務係が行う接遇要領や予防係が行う火災原因調査要領などをはじめ、

写真4
波消しブロックからの救出

写真5
波消しブロックからの引き上げ

 実技訓練では、海上での溺水者の救出法、転落者の引き上げ要領(写真4,5)や交通事故対応訓練などを当務者全員で行っています。

写真6
山岳転落の想定訓練

 特に、近年全国の消防救助資器材でおなじみの都市型救助資器材(ロープレスキュー)については、救助隊員が指導者となり全職員が取り扱い訓練を受け、その後実際に山岳現場を利用しての転落想定訓練を行い(写真6)、若手からベテランの小隊長まで全員が山岳現場で訓練を行いました。

 こうした現任教養を一年間通して行うことにより、災害現場において、自分が今何をすべきなのか、次にどうすればいいのかを自ら判断できるようになってきましたし、広く浅くではありますが、個々の能力向上に繋がっていることは言うまでもありません。今後もこの現任教養を継続していき、全職員が当たり前のことを当たり前にできる知識と技術を身に付けられる有意義な時間となるよう計画していく必要があると思います。

(3)大規模訓練

 近年の災害の大規模化、また複雑多様化する災害や事故を想定し、当組合においても数年前より多数傷病者発生時の対応訓練を実施しています。訓練というものは、やってしまえば意外と簡単なことですし、なにかしらの成果や達成感がありますが、皆さんもご存知のとおり消防や官公庁機関が大掛かりな訓練を行うとなると、考えられないような膨大な資料を作成して、事前打ち合わせを何度も行い、ひどい場合には各隊のセリフまで決まっていて、それこそ劇のような訓練になってしまいます。当組合で行った訓練後の事後検討会においても、訓練に参加した職員から、「訓練はブラインド型訓練とすベきだ」という意見が多くありました。

写真7
仕込み済みの模擬傷病者
写真8
多数傷病者発生。車両からの救出
写真9
外傷処置

写真10
現場救護所
 

 私もその中の一人で、今後の訓練は現場に即した形で行い(写真7)、出場体制、通信方法、車両破壊(写真8)、外傷処置(写真9)、トリアージ(写真10)、病院選定やマスコミ対応など、ブラインド型想定訓練を行うことによって、あらゆる分野の課題を検討し、マニュアルの改正を行っていく必要があると考えています。

(4)防災ヘリとの合同訓練

 愛媛県では、平成21年8月から県消防防災ヘリコプターによるドクターヘリ的運行が開始されました。これに伴い当消防署では、県防災航空隊との合同訓練を実施しました。この訓練の目的は、救急隊(特に救命士)と防災航空隊との「顔の見える関係を構築する」ことでした。ですから、この訓練計画は、救命士である私にすべてを任せてもらいました。

写真11
傷病者を減圧担架に収容

 訓練では、防災ヘリからの降下訓練においても、降下する隊員は救命士を中心としました。また、揺れる機内での特定行為の体験や、想定訓練においては、航空隊員とともに傷病者を減圧担架に収容(写真11)後、

写真12
防災ヘリに救命士を回収する訓練

傷病者の観察継続のため、防災ヘリに救命士を回収する(写真12)という訓練を行いました。この訓練を通じ、当初の目的であった「互いの顔の見える関係」を構築することができましたし、以前は防災ヘリを要請することを躊躇したり戸惑っていた救急隊や指揮隊の防災ヘリに対する認識が変わったことで、今後の現場活動が今まで以上に、迅速かつ的確に行えるものと確信しています。

(5)日々の救急訓練

 当消防本部では初任科教育終了後、一年間の所属勤務経験を経て、消防学校における救急標準課程(二百五十時間)に入校させています。そのため、消防士としての経験もそうですが、救急の知識などはほとんどないのが現状です。そこで当消防署では、救急標準課程への入校予定者に対し消防学校へ入校するまでの間、当務日には約一時間の救急訓練を行うとともに、定期的な確認テストを実施しています。実技訓練の最大の特徴は、指導する救急隊(救命士)と学校入校する職員だけではなく、その時々で仕事に余裕の出来た職員が自ら率先して訓練に参加していることです。この日々の訓練を通して、救助隊、消防隊とコミュニケーションをとれることにより信頼関係を構築できるだけでなく、救急分野に対する知識、技術を再確認できますので、交通事故や転落事故等の救急救助事案において活動する際に、組織力という点において大いに威力を発揮しています。

現場活動

 様々な訓練を継続して行っても、それを現場で十分に活かせなければなりません。現場活動において百点満点の現場など絶対にありませんから、訓練→現場活動→検討会という流れが終わりなく続くわけです。そこで、当消防署が現場活動する上で、救急出場及び現場活動において工夫している点をいくつか紹介します。

(1)AA連携

 AA連携を行っている消防本部は全国にいくつもあると思いますが、伊予消防署では出張所救急隊とのAA連携を行う上での取り決め事項として、出張所救急隊に救命士が搭乗していない場合において、重症者又はCPA患者を搬送する場合、次のような体制をとっています。

1)患者搬送途上での救急車ドッキング。
2)広報車(消防車両)等で、救命士を出張所救急隊へ現場派遣する。
3)搬送途上において、伊予消防署前で救命士を搭乗させる。

 この三つのAA連携のパターンを出場場所や当務人員等によって使い分けています。今後、このAA連携を行う上での課題として、
・署所間での連携訓練の実施
・出張所の救急車内の物品保管場所の把握
・救急資器材の統一を
行っていく必要があると考えています。

(2)RA連携

 RA連携を行う上での取り決め事項については次のとおりです。
1)高層(三階以上)建物への出場において、通報内容で傷病者が歩行できない場合。
2)幹線道路への交通事故出場(二次災害防止)。
3)その他、加害や労災事故等で救急隊の現場活動に支障が出ると予測されるもの。

 特に 1) については、エレベーターの設置がない団地などへ救急出場した際に、体の大きな傷病者を見て、「こりゃあ、かなり大変だぞ」と心の中で思うことがありますが、そんな時に日頃から肉体鍛錬に余念のない救助隊が現場に来てくれると鬼に金棒であり、安全で迅速な車内収容が可能となっています。

(3)4名体制による救急出場

 当消防署では3年前から、通報内容においてCPAが疑われる場合には、隊員1名を増員し、4名体制で出場しています。前述のとおり、常日頃から救急隊以外の隊員も救急訓練に積極的に参加していますので、兼任隊員が急遽救急車に搭乗した場合でも、救急活動に関して何ら不安がありませんし、4名で出場することにより、「傷病者接触から現場出発まで10分」という目標時間を達成できています。また、胸骨圧迫の交代要員が1名増えることにより、隊員の疲労軽減となるため、質の高い胸骨圧迫が行われています。

珍しい積載品

写真13
救急服とシットハーネス。救急車にも3名分積載

 当署の救急車には、本年度からちょっと珍しい物品を積載しています。それは、今や消防人なら誰もが知っているシットハーネス(写真13)です。これを救急隊3名分積載しているのです。これは転落事故現場などで救助隊によって傷病者までの進入路が確保できた場合、救急隊(救命士)が早期に進入して傷病者の観察、処置を行うため配備したものです。数年前より救助隊の指導を受けながら資器材の取り扱い訓練や山岳での現場対応訓練を繰り返し、本年度から積載することとなりました。

おわりに

 今回この原稿を執筆するにあたり、これからの消防には何が必要なのか、今後どのような工夫をしていかなければならないのかを改めて考えてみました。私の結論としては、やはり消防の活動現場での基本である「安全、迅速、的確な現場活動」を遂行するために、「継続した訓練と事案検証」が不可欠であるとの結論に至りました。当消防のような、マンパワーで劣る組織においては、個々の能力を向上させることで、各隊のレベルを上げ、全体的な組織力を強化させていくことが重要と考えます。そのためには、常日頃からの連携訓練や職員間のコミュニケーションは欠かせません。今後は、先輩方が培ってきた伝統を我々が継承するとともに、近年の複雑多様化する災害に的確に対応できるよう調査、研究を重ね、地域住民が安心して暮らせる町づくりを目指し、日々努力していく所存です。

 最後になりますが、全国の消防士のみなさんが、毎日怪我なく無事に任務遂行できることを願い終わりとします。


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11.1.16/6:21 PM

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