プレホスピタルケア 2020年4月号
連載タイトル「あなたは大丈夫?バイタルサインの基礎とTips」
担当
北海道留萌(るもい)消防組合小平(おびら)消防署
第1回
体温
目次
1.はじめに
新連載の第1回を担当させて頂きます杉本強と申します。本連載はバイタルサインの解説です。現役の救急隊員の知識の再確認として、またこれから救急隊員として活動する方々にもお役立てる内容を目指します。
第1回は「体温」について解説致します。
2.体温とは
体温とは文字通り「体の温度」のことを言います。成人の目安としては37.0℃を超えると異常(発熱)とみなします。しかし体温には年齢や性別によって個人差があり、同じ体温であったとしても異常があるのかどうかは人それぞれです。また、傷病者のおかれていた環境にも左右されることがあるため、私たち救急隊員は体温の目安(表1)と傷病者本人の訴え、発症状況を照らし合わせて異常の有無を判断する必要があります。
正 常 | 36.5℃~36.9℃ |
微 熱 | 37.0℃~37.9℃ |
中等熱 | 38.0℃~38.9℃ |
高 熱 | 39.0℃以上 |
表1 体温の目安
3.平熱とは
一般的に普段元気な状態の時の体温を「平熱」と呼んでいるかと思いますが、いつ測定した体温が平熱なのかご存じでしょうか?人は朝起きた時の体温が低く夕方にかけて体温が上がります。なので、起床後・昼食前・夕食前・就寝前とそれぞれの時間帯で測定した体温が各時間帯での平熱の目安となります。また、食後や運動後には体温が上がりますので、その場合は30分程度時間をおいてから測定するのが望ましいといわれています。救急活動時、傷病者から平熱を聴取することが出来れば、重要な情報の1つとなりますので忘れずに聴取しましょう。
私自身も平熱がわからなかったので、今回3日間測定してみました(表2)。短い期間ではありますが起床から夕方にかけて体温が上がっていることが見て取れるかと思います。
起床後 | 昼食前 | 夕食前 | 就寝前 | |
1日目 | 36.4℃ | 36.6℃ | 36.9℃ | 36.8℃ |
2日目 | 36.2℃ | 36.6℃ | 36.3℃ | 36.7℃ |
3日目 | 36.2℃ | 36.7℃ | 36.9℃ | 36.6℃ |
平 均 | 36.26℃ | 36.63℃ | 36.70℃ | 36.70℃ |
表2 筆者の体温
4.中心部体d温
体温は前述したとおりですが、どこの温度のことでしょうか?体温には環境に左右されない中心部体温(直腸温、鼓膜温等)と環境によって変化する外殻温度(皮膚温、体表面温)があり、体温管理上重要なのは中心部体温(図1)となります。生存可能な中心部体温は33℃~42℃とされており、普段は37℃前後に保たれています。ですが偶発性低体温症のように直接的に極度の低温環境にさらされ体温調節が困難になると、最終的には中心部体温が低下し、低体温を呈します。
図1 深部体温
5.体温測定
測定部位としては、直腸・舌下・鼓膜・腋窩とありますが、救急隊が実際に検温する際は鼓膜温と腋窩温が主流かと思います。鼓膜は中心部に近い為、腋窩よりは高く測定されるがその差は通常1℃以内となっています。普段何気なく使用している体温計ですが、適切な方法で測定することが重要となります。ここでは鼓膜・腋窩体温計の正しい使用方法を解説致します。
・腋窩体温計使用方法
脇のくぼみ中央に先端を当てます(写真1)。体温計の角度は上半身に対して30度くらいになる様にし、しっかりと脇を締めることで正しく測定が出来ます(写真2)。この際、脇を締めている方の手掌を上に向け、もう一方の手で肘を抑えるとより脇の締まりが良くなります。また汗を搔いている場合はしっかり拭き取った後に検温しましょう。
・鼓膜体温計使用方法
鼓膜体温計は赤外線センサーにより鼓膜の温度を計測しています(図2)。鼓膜に対し真っすぐ挿入されていないと、耳の内壁温度を感知してしまい実際の鼓膜温より低い測定値となります。耳たぶを軽く後方へ引っ張りながらプローブを挿入すると鼓膜に対し真っすぐになり易いです(写真3)。また、プローブの汚れ、耳の内部が汚れていると正しく計測出来ない為、測定の際には確認が必要となります。
図2 鼓膜温測定のイメージ
6.最後に
体温はバイタルサインの一つではありますが、正確に計測することが出来て初めて有効な情報となります。私自身も救急隊員として、常に正確なバイタルサインの測定を目指し、今後も活動していきたいと思います。
筆者
所 属:北海道留萌(るもい)消防組合小平(おびら)消防署
年 齢:34歳
出身地:北海道留萌郡小平町字小平町
消防士拝命:平成16年
趣味:野球、スキー
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