200723救急隊員日誌(192) 管理職と現場職員の溝は深い

 
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救急隊員日誌
月刊消防2020/5/1, p80
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「管理職と現場職員の溝は深い」

しょせん中間管理職だよ

しょせん中間管理職だよ

 「昨日のCPA、喉頭鏡の調子が悪かったんだって?」
私は、上司と後輩の救急救命士が話しているのを聞いていた。どうも最近調子が悪くて、時々喉頭鏡が点かないことがあったらしい。何回かカチャカチャしていたら点いていたので様子を見ていたのだが、ついに現場で点かなくなってしまったという内容。実はこの事案、先月も他の救急隊で起こっていた。消防本部から点検の徹底の注意を受けた矢先の出来事である。
点検では怪しいと気づいても、”とりあえずはこのままでいいか・・・”とほっておいた記憶は誰にでもあるだろう。よく言えば「様子観察」、普通に考えれば「見て見ぬ振り」。現場で点かなくなる可能性は誰もが予測していたはずなのだが・・・。


「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」
世界には様々な法則があるが、これはマーフィーの法則と呼ばれている。経済コラムニストの大江英樹さんが、この法則について皮肉交じりに書いているのでいくつか紹介したい。「机の上のお茶は、いつも重要な書類の方に向かってこぼれる。」「作業場で道具を落とすと、最も手の届きにくい隅っこに転がり込む。」「USB端子は、90%の確率で逆に入れてしまう。」「機械が壊れていることを証明しようとすると、動き始める。」どれも思わず「あるある!」と言ってしまう事例ばかりだ。要は、失敗する余地があるものは失敗するという教えなのだが、この喉頭鏡が現場で使用できなかった失敗も、十分に余地できたはずだ。それなのになぜ失敗はなぜ繰り返されたのだろう。
署内で作成中の報告書を読むと、要因順に、①点検不足 ②異常を異常と認識できていない ③些細な不良をその都度上司に報告していないと記載されていたが、私はこれを読んでも納得できなかった。私は担当者に、「点検は間違いなく毎日しているし、異常も間違いなく認識している。上司にも相談したと言っていたよ。」と話しかけると、バツが悪そうにベランダに呼ばれた。

「実はですね。喉頭鏡が壊れているって連絡を受けた上司が、本部の担当課に報告しないんですよ!」その担当者は、堰を切ったように話し始めた。まずは本部の担当課に電話で報告でしょ?そしたら過去の修理歴の調査を調べ上げ、壊れた部分の写真を撮影した上で修理伺書を作成しろと言われる。何度も添削を受けて、下から順番に上司の印鑑をもらわなくてはいけない。最後は署長に小言を言われ、ようやく消防本部に書類を提出。もちろん消防本部でも「なんで壊れたの?原因は?説明して?」と弁明を求められる。ちゃんと報告書に書いてありますけど?なんて言えるわけもなく、最初から説明。その間、他の消防本部の職員が見世物のようにこちらを見つめているのだそうだ。
どうやら、報告をした後に迫り来る膨大な事務量と精神的ストレスが全ての原因のようである。これらのことを考えると、まあ、とりあえず点くからOK!となってしまうのも無理はない。若返る職場対策として、どんな些細なミスも深掘りをして再発を防ぎたい管理職。一方で、再発を防ぎたい気持ちはわかっているが、上司に目をつけられたくない、こんなことで叱られてストレスを受けなくないんだ!という防衛本能を発揮する現場職員。溝はますます深まるばかりである。
若い職員が増えて現場が大変だと聞くが、管理職だって十分若い。One Teamになるためには、若手職員だけでなく管理職も勉強が必要だ。そういえば、私の周りでこの月刊消防を購読している管理職は少ないように伺える。まずはここから読みはじめてはいかがだろうか。

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