メモを取る後輩とメモを取らない後輩
空飛ぶクルマ
消防士の仕事は、消火・救助・救急に分かれているが、経験が1年目でも10年目でも第三者から見れば、同じ消防士である。現場活動では、たくさんの知識・技術が求められるため、いくら学んでも勉強不足だと痛感させられている。そのため、日々の反復した訓練は重要である。人間は不思議なもので、一晩経つと前日にあった細かいことのほとんどは忘れてしまっている。
私は、経験の浅い隊員には、資器材の取扱い、訓練の内容、現場での反省すべきこと等のメモを取るように常に伝えている。先日、別々の救急事案であるが、交通外傷と転落外傷で骨盤骨折疑いの事案に、メモを取る後輩とメモを取らない後輩と別々に出動した。メモを取る後輩は、サムスリング(骨盤固定具)で骨盤固定し、全身固定もスムーズに行い、ロード&ゴーで活動することができた。しかし、メモを取らない後輩は、サムスリングの取扱いを忘れていた。「メモを取らなくても資器材の取扱いなど覚えられる。」と主張していた後輩だが、使用することができなかった。人間の記憶は思った以上に曖昧で、いろいろなことを忘れてしまう。メモを取ることで、曖昧な記憶であっても、メモを見返して内容を思い出すことができる。また、しばらく経ってメモを読み返してみることで「こんなことがあったのか」とか「あの時の自分はこんなことを考えていたのか」などと改めて気づき、反省することができる。実際の現場ではやり直しができない。同じ現場も二度とないし、ミスや失敗をしてしまえば、救える命が救えなくなる。
もし、「忘れてもまた聞けばいい」と考えてメモを取らない読者(消防士)がいるなら、それは大きな間違いである。メモをしっかりと取っていれば取扱い方法等をメモで確認するだけでいいが、メモがなければ上司に再度確認することによりロスが発生する。自分の時間だけでなく、上司の時間も奪ってしまうことを考えてほしい。
先日、交通外傷で救急搬送した傷病者から一通の手紙が消防署に届いた。その中に「今の私が元気でいるのは、救急隊員のおかげです。」の言葉があり、その一言が、次の現場に向かう大きな力になっている。本当に大変な現場もあるが、訓練で学んだことや培ったことが現場で活かせ、それが最善の処置となり、人の役に立ったと思えるとき、苦労を上回る達成感を感じることができる。
社会人として、メモを取ることは仕事の一部である。指示されてやるのではなく、内容を理解するために自分自身で主体的に行うことが求められる。メモの取り方を自分で工夫し、アレンジすることで、楽しみながら訓練をすることができ、現場での自信につながる。時が経ってメモを読み返せば、「自分の成長」として確認できる。そして一番大切なのは、取ったメモを活用し、訓練や現場に活かすことである。消防士になって20年が経とうとする今も、私はメモをとって仕事に励んでいる。
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