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210412救急活動事例研究 45 市販目薬を点眼したことにより アナフィラキシーを発症し卒倒した1症例 (南魚沼市消防本部 河野弘和)

近代消防2021年1月号(2020/12/10)

救急活動事例研究 45

市販目薬によりアナフィラキシーを発症し卒倒した1症例

河野弘和

新潟県南魚沼市消防本部

著者連絡先

河野弘和(かわのかずひろ)

南魚沼市消防本部・署 警防課救急係

消防士長・救急救命士

〒949-6405 新潟県南魚沼市竹俣82-2

代表:025-782-9119

1.南魚沼市消防本部について

当本部の管轄エリアは新潟県の南に位置している南魚沼市と湯沢町になる(001)。豪雪地帯であり、スキー場や温泉旅館が多数ある地域である。管内最南端に苗場スキー場があり、2019年のフジロックでは13万人が来場した。人口は南魚沼市56,298人、湯沢町8,019人(2019/09現在)。面積は面積南魚沼市584.6㎢、湯沢町357.3㎢である。

南魚沼市消防本部は2署1分署体制であり、職員数は105人。2018年の救急出動件数は3,376件で搬送人員は3,188人であった。

001

南魚沼市消防本部の管轄エリア

2. 症例

60歳代男性。

平成31年3月某日15:28入電。「60歳代の男性が会議中に咳き込み、顔を赤くして倒れた。今、意識がない。口をパクパクしている」との通報内容であった。現場は湯沢町の街中にある集会場である。通報内容から心肺停止(CPA)が疑われたため通信司令室から胸骨圧迫と自動体外式除細動器(AED)使用の口頭指導(002)が行われた。救命士1名を含む4名で出動した。突然の卒倒から脳疾患、心疾患を疑いCPA対応のプランニングをした。第2報ではAEDショックの適応はなく、胸骨圧迫時に体動ありとの報告を受けた。

現場到着し2階会議室前廊下に仰臥位でいる傷病者に接触(003)した。胸骨圧迫はされておらず、AEDパットは剥がされていた。AEDは傷病者足元付近にあった。顔面・手指に著明なチアノーゼを認めた(004)。集会場の関係者からは「会議中に突然立ち上がり、顔を真っ赤にして咳き込みながら退出したところ倒れた」と聴取した。また心疾患があるとのことだったが病名は不明であった。

初期評価の結果を表1に示す。眼球結膜の強い腫れ(005)を認めた。麻痺は不明であった。用手で気道確保し酸素を毎分10L投与した。バイタル測定の結果を表2に示す。酸素投与下でもSpO2が低く不安定のため、バックバルブマスクによる補助換気(006)に切り替えて呼吸を維持した。除細動パッドの波形はST上昇を伴う洞性頻脈を示していた(007)。

車内収容時のバイタル測定の結果を表3に示す。急性心筋梗塞もしくはくも膜下出血を疑い車内収容し、1km先のドクターヘリのランデブーポイントへ向け現場を出発した。車内モニターではST上昇が消失し洞性頻脈となっていた。12誘導心電図測定のため準備を進めていると傷病者の体動が出現し、四肢に動きがみられる(008)ことから麻痺は無いと判断した。

フライトドクターから静脈確保の指示があり20Gでトライしたが、逆血なく静脈路確保を中止した。同時に傷病者に発語が見られ「胸が苦しい」と訴えた(009)。ドクターヘリが着陸し、フライトドクターによる処置が開始された時に、救急隊は12誘導心電図を測定した(010)。活動の時系列を表4に示す。

病院到着後のバイタルサインを表5に示す。ショック症状が続くとともに紅斑が顔面から体幹に出現した。処置としてアドレナリン筋注、ヒスタミン受容体遮断薬静注、補液が行われた。傷病名はアナフィラキシーショック(中等症)であり、原因物質は目薬によると思われたが詳細は不明であった。翌日には退院したが詳細な原因物質の検索については行われていない。

002

通信司令室から胸骨圧迫と自動体外式除細動器(AED)使用の口頭指導が行われた

003

仰臥位でいる傷病者に接触

004

顔面・手指に著明なチアノーゼを認めた

005

眼球結膜の強い腫れを認めた

006

バックバルブマスクによる補助換気を行なった

007

除細動パッドの波形はST上昇を伴う洞性頻脈

008

傷病者の体動が出現し、四肢に動きがみられるようになった

009

「胸が苦しい」と訴えた

010

12誘導心電図

表1

初期評価の結果

表2

接触時のバイタル測定の結果

表3

車内収容時のバイタル測定の結果

表4

時系列

表5

病院到着後のバイタルサイン

3.考察

本症例の傷病名はアナフィラキシーショクであった。しかし現場では発疹等の典型的な所見がなく、眼球異常があったのみであり、アナフィラキシーを疑うのは困難であった。意識障害の原因は、急激な血管拡張があるにも関わらず立ち上がったことから脳虚血を起こしたものと考えられる。

また呼吸不全と捉え、バックバルブマスクによる補助換気を行なった。低酸素に対し積極的な介入を行えたのは良かった。反省点としては、心疾患も疑っていたため車内収容時点で12誘導を優先的に測定するべきであった。

自己紹介

名前:河野 弘和

よみ:こうの ひろかず

kouno.JPG

所属:南魚沼市消防本部

出身地:新潟県南魚沼市

消防士拝命:平成19年4月1日

救命士合格:平成19年

趣味:アウトドア全般(主にキャンプ)

ここがポイント

アレルギー反応が多臓器に出現するものをアナフィラキシーといい、ショック症状を伴うものをアナフィラキシーショックという。本症例では目薬でアナフィラキシーショックに陥ったとされているが、皮膚粘膜症状は眼球の腫れだけであり皮膚の広範な発赤や丘疹は出現していない。逆に顔面と手指にはチアノーゼが出現している。またアナフィラキシーにしては経過も極めて急激である。心電図にも虚血性変化は見られないことから、アナフィラキシーショックではなく肺塞栓(エコノミー症候群)などの急性の循環不全が第一に考えられる。だが病院の処置はアナフィラキシーで行われるものなので、担当医にはアナフィラキシーと判断できる材料があったのだろう。

患者がエピペンを持っていなければ、アナフィラキシーでも肺塞栓でも救急隊としては行うことは同じである。

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