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190705救急事例報告(13)VFと心拍再開を繰り返した1例

近代消防2019年7月号p71-76

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救急事例報告

VFと心拍再開を繰り返した1例

渡邉 康之1)

森山 直紀2)、安念 優2)、西村 和久3)

今治市消防本部1)

愛媛大学医学部附属病院 救急科2)  愛媛大学大学院 循環器・呼吸器・腎高血圧内科3)

【今治市の紹介】

今治市は、今年、瀬戸内しまなみ海道開通20周年を迎えました。瀬戸内しまなみ海道は西瀬戸自動車道の愛称で、本州・広島県尾道市と四国・愛媛県今治市を全長60kmで結ぶ架橋ルートです。その区間には大きな島が6つあり、それぞれに形の異なった架橋で結んでいることから「橋の美術館」とも呼ばれています。

このしまなみ海道の最大の特徴は、徒歩や自転車でも渡ることができることです。特にCNNが選ぶ「世界で最もすばらしい7大サイクリングコース」にも選ばれたことで、世界屈指のサイクリングコースとして名をはせています。また、この海道を舞台にサイクリング世界大会などが開催され、世界中から多くのサイクリストたちが訪れています。

サイクリストの聖地 大三島

【今治市消防本部の紹介】

管轄面積は、419.14㎢、人口は15万9,290人で、1消防本部3消防署5分署で組織され、職員数は216名(平成31年4月1日現在)、そのうち救急救命士が51名(薬剤認定救命士49名、気管挿管認定救命士37名、処置拡大認定救命士43名、ビデオ喉頭鏡認定救命士28名、指導救命士7名)が在籍しています。

平成30年中の件数は8,241件と過去最高となっています。

このように日々増加する救急需要に配備された救急車11台(予備車2台)、消防救急艇1艇で対応しています。

また、発生が危惧されている南海トラフ巨大地震や、複雑多様化する災害事案への対応能力の強化と地域防災力の向上を目的として、平成30年2月に震災対応訓練施設を整備しました。この施設は、崩れたビルのがれきや、一部が土砂に埋まった状態の自動車を再現しており、実践的で多様な訓練を実施することができます。

震災対応訓練施設

2018年3月号P.95掲載「プレアライバルコール」導入のきっかけとなった救命連鎖の奏功症例」及び2018年7月号P.79掲載「12誘導心電図で判断困難な急性心筋梗塞を経験して」も参照ください。

【はじめに】

本症例は、深く遅い普段とは違う呼吸(死戦期呼吸ではない)ありのventricular fibrillation(VF)と心拍再開を繰り返した症例で、通信指令員の口頭指導、bystander cardiopulmonary resuscitation(バイスタンダーCPR)、救急隊の活動、病院収容後の処置の「救命の連鎖」により社会復帰した事案である。貴重な症例と考え今後の現場活動の一助となればと思い紹介する。

【症例】

平成○年7月○日。覚知12時42分。「62歳男性、突然倒れて意識・呼吸がありません。」との通報内容であった。Cardiopulmonary arrest(CPA)疑いのため消防隊3名PA連携(Pumper:ポンプ車とAmbulance:救急車)で出動した。なお、写真1、写真2は再現であり、その他の図表は患者本人から掲載許可を得ている。救急隊現場到着時、傷病者は自宅兼事務所の3階にいたため、通報者(妻)が1階まで誘導に降りて来ていた(写真1)。救急隊接触時、バイスタンダー(娘)による有効な胸骨圧迫が実施されていた(写真2)。既往歴なし。20歳から1日30本喫煙あり。

写真1

通報者(妻)が1階まで誘導に降りて来ていた

写真2

救急隊接触時、バイスタンダー(娘)による有効な胸骨圧迫が実施されていた

 観察結果を表1に示す。

表1 初期評価

初期波形VFで、深く遅い普段とは違う呼吸(死戦期呼吸ではない)がみられた。直ちに1回目の電気ショックを実施し、5サイクルのCPR後に心拍再開した。内因性ロード&ゴーと判断してドクターヘリ要請を行った。心拍再開して2分後に再度深く遅い呼吸ありのVFを認めた。2回目の電気ショックを実施し、CPR中に右手背静脈に静脈路確保を実施した。5サイクルのCPR後に心拍再開した。心拍再開した状態で補助換気をしながら車内収容した。その後、深く遅い呼吸ありのVFを認め、3回目の電気ショックを実施した。5サイクルのCPR後に心拍再開した。

バイタルサインを表2、心電図波形を表3~5に示す。

表2 バイタルサイン

表3 心電図の変移1

表4 心電図の変移2

表5 心電図の変移3

計3回の電気ショックを実施し、自己心拍再開した状態で補助換気をしながらフライトドクターに引き継ぎ、救急車内でフライトドクターにより気管挿管実施。ドクターヘリにて3次医療機関へ搬送となった。救急活動の時系列を表6、時間経過を表7、ドクターヘリ時間経過を表8、ドクターヘリ到着から収容までのバイタルサインを表9に示す。

表6 救急活動時系列

表7 経過時間

表8 ドクターヘリ時間経過

表9 ドクターヘリ到着から収容までのバイタルサイン

傷病名:急性心筋梗塞(左前下行枝LAD#7完全閉塞)

傷病程度:重症

病院収容後、intraaortic balloon pumping(IABP)補助下にpercutaneous coronary intervention(PCI)を施行し低体温療法を含めた集学的治療を行った。病院到着後の時系列を表10、病院到着時の12誘導心電図を表11に示す。Ⅰ、aVL、V1~V6でST上昇、Ⅱ、Ⅲ、aVFでST低下を認めた。心エコー検査を写真3に示す。心尖部の壁運動異常あり。緊急冠動脈造影検査では、右冠動脈(RCA)に有意狭窄は認めなかった。左冠動脈主幹部(LMT)、回旋枝(LCX)に有意狭窄を認めなかったが、LADの狭窄を認めた(写真4、写真5)。LAD#7に完全閉塞を認めたため、薬剤溶出ステント留置を行った(写真6)。冠動脈AHA分類を図1に示す。頭部CTでは低酸素脳症を示唆する所見なく(写真7)、胸部CTで誤嚥を疑う所見がみられた。(写真8)。

表10 病院到着後の時系列

表11 病院到着後の12誘導心電図

図1

冠動脈AHA分類

写真3 心尖部の壁運動異常あり

写真4 LCXに狭窄は認めない

写真5 LMTに狭窄は認めない。LADに狭窄を認める

写真6 LAD#7にステント留置を行った

写真7 低酸素脳症を示唆する所見なし

写真8 誤嚥の疑いあり

集中治療室入室後、低体温療法を導入した。体温管理を表12に示す。第5~6病日に鎮静薬を減量、筋弛緩薬を中止した。第6病日に低体温療法を終了、IABPを抜去した。第7病日に気管挿管を抜管し、人工呼吸器を離脱した。第20病日に着用型自動除細動器(WCD)を装着し(図2)、独歩で退院となった。意識レベルの経過を表13に示す。現在は、外来で経過観察中である。心エコー検査で左室機能は改善傾向にあり、不整脈による突然死のリスクも低下していると判断されたため,Implantable Cardioverter Defibrillator (ICD)の植え込みは行わず経過観察中である。禁煙も継続できており、経過は良好である。このように、CPC1、OPC1(表14)で無事に社会復帰できた事案であった。

表12 体温管理

図2 着用型自動除細動器(WCD

表13 意識レベルの経過

表14 グラスゴー・ピッツバーグ脳機能・全身機能カテゴリー

【考察】

本症例は、「救命の連鎖」により社会復帰を果たした貴重な事案である。プレホスピタルでは、覚知時の通信指令員からのバイスタンダーへの口頭指導、バイスタンダーの有効な胸骨圧迫、救急隊到着後の早期除細動、ドクターヘリ要請へと連鎖は繋がり、医師への引き継ぎ後は、ドクターヘリ内の緊急処置、病院内での根治的治療、集中治療へと「救命の連鎖」が繋がった。

バイスタンダーによる有効な胸骨圧迫は、通信指令員からの的確な口頭指導のもとに実施された。早期からバイスタンダーによる有効な胸骨圧迫が行われたことで、脳血流が保たれ、心臓への静脈還流が増大し、肺への空気流入が促されていたと考えられる。そのため、VF時に死戦期呼吸ではない深く遅い呼吸がみられたものと推測する。

救急隊の現場活動では、3回目のVF になった際、既に末梢静脈路確保を完了していたが、まず電気ショックを実施し、その直後のアドレナリンは投与せず、2分後のリズムチェックを経て、アドレナリン投与を実施しようと考えた。しかし、本事案は3回目の電気ショックとそれに続く5サイクルのCPR後に心拍再開に至ったため、アドレナリン投与は行わなかった。

本症例は、自動体外式除細動器(AED)ではなく半自動除細動器を使用したため、2分毎の決まったタイミングではなく、VF出現時に早期に電気ショックを実施することができた。また、半自動除細動器を使用することで、AEDと比較して解析及び充電時間を約11秒短縮することができた(表15)。

本事案は、通信指令員の適切な口頭指導と有効なバイスタンダーCPR、早期の除細動実施などの救命の連鎖が奏功しCPC1、OPC1で社会復帰し得た貴重な事案である。

表15 半除細動機と除細動機

【結語】

VF波形時に深く遅い普段とは違う呼吸(死戦期呼吸ではない)を認めた症例を提示した。有効なCPRが実施されている場合、心停止早期であれば正常に近い呼吸がみられるかもしれない。

通信指令員の口頭指導力向上は救命の連鎖において重要な要素のひとつである。

半自動除細動器の使用により、早期の除細動を行うことができた。

内因性ロード&ゴーでのドクターヘリ要請を行い、3次医療機関へ搬送し早期に治療が開始され、良好な転帰を得た事案である。

【付記】

本稿の要旨は 第35回日本救急医学会中国四国地方会 で発表した

【著者】

渡邉 康之(わたなべ やすゆき)

愛媛県今治市出身

昭和56年5月8日生まれ

平成19年4月 消防士拝命

平成27年3月 救急救命士合格 

平成29年4月より今治市消防本部中央消防署勤務

趣味は陸上競技、家庭菜園

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