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190611再現!救急活動報告(17最終回)アドレナリン自己注射製剤未所持の小児アナフィラキシーショック症例

Jレスキュー2019年7月号p104-5

再現!救急活動報告

アドレナリン自己注射製剤未所持の小児アナフィラキシーショック症例

今治市消防本部  渡邉 康之

【目的】

平成21年3月2日付け「救急救命処置の範囲等について」の一部改正(医政指発第0302001号厚生労働省医政局指導課長通知)により、アナフィラキシーショックで生命が危険な状態にある傷病者に代わり、アドレナリンの自己注射薬(以下エピペン®)を救急救命士が使用できるようになった。これは、救急救命士にとって心肺機能が停止していない傷病者に対して初めて認められた薬剤投与である。

今回、エピペン®が交付されていない小児がアナフィラキシーショックになったときの救急対応について症例を基に考察する。

【通報内容】

平成29年6月某日21時頃、気温21.8度。母親からの119番通報で「2歳男の子、口が痛くて息苦しいと訴えている。」との内容であった。

【出動途上の考察と追加情報】

出動(図1)直後に得た通報内容から疑われる症例として「アナフィラキシーショック、感染症の伝染性紅班(りんご病)、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、突発性発疹、手足口病、気管支喘息、アレルギー性結膜炎、鼻炎、アトピー性皮膚炎か」を予測した。その後の追加情報で、「傷病者の現病歴は便秘で、アナフィラキシーの既往歴はない」との情報を得たことにより、エピペンを所持している可能性は低いことを隊員に周知した。

写真1
出動

【接触時の状況と傷病者の主訴】

通報から6分49秒後に現場に到着。自宅前に母親に抱っこされた状態で、顔面紅潮、下口唇腫脹を認める。(写真2、写真3)その状態のまま車内収容する。

写真2
現場に到着。傷病者は自宅前で母親に抱っこされていた

写真3
顔面紅潮、下口唇腫脹を認める

【車内収容後】

車内収容後、バイタルサイン測定及び酸素投与を開始する。ストレッチャーに移し坐位にしたところ、傷病者が泣いたため、体位を仰臥位とし母親に手を繋いでもらい、泣かなくなったためこの体位で搬送を継続する(写真4、写真5)。興奮や泣かすことで、喉頭浮腫が刺激により大きくなり、気道が完全閉塞に繋がる可能性があるため細心の注意が必要であった。頭部中間位を保つため、背部にタオルを敷いて気道確保を実施し酸素投与を行った。

バイタルサインの推移を表1に示す。身体所見として、体幹膨隆疹、両大腿発赤、喘鳴、口頭浮腫疑いであった。

夕食は、以前食べたことがあるものだけである。夕方、公園に行ったが、動物、草木の接触なし。既往歴は便秘で、酸化マグネシウムを内服中である。アナフィラキシー歴はなし。男の子の身長、体重を聴取すると身長94cm、体重14.0kgであった。

時間経過を表2に示す。

写真4
車内収容後、バイタルサイン測定及び酸素投与を開始

写真5
当初は坐位としたが、傷病者が泣いたため仰臥位として母親に手を繋いでもらったところ泣かなくなったため仰臥位のまま搬送した

表1

バイタルサインの推移

表2

時間経過

【医療機関照会】

輪番制当番病院ではなく、小児科対応の二次医療機関を選定し受入可能との返答を得る。

【医療機関到着後】

病院収容後、即座にボスミン*0.1mg筋注。生食で静脈路確保。サクシゾン**100mg静注。足の循環不全が残るため、ボスミン0.1mg静注。顔面の腫脹は徐々に改善し、酸素化も改善され、足指の毛細血管再充満時間も正常となる。病院到着後の時間経過を表3に示す。高張液輸液。サクシゾン1日3回静注。加療にて症状は消失、4日後に退院。エピペン0.15mg処方。

傷病程度:中等症

傷病名:アナフィラキシーショック

*ボスミン(表品名):一般名アドレナリン

**サクシゾン(商品名):一般名ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム

表3

病院到着後の時間経過

【考察】

救急出動でアレルギー疾患に対応するうえで、気管支喘息、アレルギー性結膜炎、鼻炎、アトピー性皮膚炎など病気の特徴を理解し、急速に起きるアレルギー反応(アナフィラキシーショック)について留意することが重要である。

現在、当消防本部では保育園(幼稚園)、小学校、中学校等を通じエピペン®が交付されている児童等の情報提供を受けた場合には、救急隊の間で情報共有するなど対応に努めている(表4)。

欧州のアレルギー臨床免疫学会(EAACI)のガイドラインでは、7.5kg~25kgの小児に0.15mgのエピペン®が処方可能であるが、日本の保険診療の制約では、エピペン®は15kg未満の小児には原則禁忌となっている。しかし、本症例のように15kg未満の小児でもアナフィラキシーショックを認めることがある。

アナフィラキシーショックによる死亡原因の7割以上が窒息、呼吸不全であり、これら致死的症状は抗原暴露から数分~1時間以内に出現することが一般的である。現状では救急車にエピペン®を積載することができず、傷病者本人の所持しているエピペン®を使用することしかできない。エピペン®未所持で咽頭粘膜、気管支粘膜の浮腫による上気道閉塞の徴候は生命の危機に直結するため、救急隊は窒息に注意しながら早急に医療機関へ搬送すべきである。

表4

学校から消防へ提出される情報提供書(タップ・クリックで拡大します)

著者紹介

渡邉康之(わたなべやすゆき)

watanabe.JPG

昭和56年5月8日生

平成19年4月 消防士拝命

平成27年3月 救急救命士資格取得

平成29年4月から今治市中央消防署勤務

趣味:陸上競技、家庭菜園

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小さい子供にもエピペンを

旭川医療センター病理 玉川進

小児のアナフィラキシーショックは決してまれなものではない。よく知られているのは日本では小麦や卵、アメリカではピーナッツバターである。アメリカ医師会雑誌JAMA***では2018年3月に小児アナフィラキシーの特集をして注意を喚起している。

この中で特に強調されていることは、(1)エピペンの使用(2)二相性の症状出現、の二つである。

(1)エピペン:アナフィラシキーを疑ったらエピペンを使うこと。「もしアナフィラシキーでなかったとしても害は全くない」と言い切っている。

(2)二相性の症状出現:小児アナフィラキシーの実に5人に1人で、一度症状が警戒した後に症状が悪化する。そのため小児の場合はエピペンを2本持ち歩くことを勧めている。

筆者が述べる通り、日本におけるエピペンの体重制限は患者の不利益になる。早急に改善するよう望むものである。

***JAMA 2018;319:943

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