190615_VOICE(42)どんな妥協もしない。諦めない。必ず救って必ず帰る。

 
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主張
月刊消防 2019年6月号p57, Voice #41
どんな妥協もしない。諦めない。必ず救って必ず帰る。

 私の消防人生の大半は救助(オレンジ)とともにあり、その教育や活動の中から多くを学んできた。オレンジに袖を通すたび、人命救助のプロフェッショナルであると気概を新たにした。当然、救うことができた命があれば、悔しくも救えなかった命もあった。あと1秒・1m早く我々が到着していれば・・と。

 航空隊員として赴いたある山岳救助現場。刻々と変わりゆく天候と誰もが絶望視する状況の中、「今救えるのは我々航空隊員だけ!」と諦めずに日没近い飛べるギリギリまで出動体制を維持し救助に向かった。要救助者の登山行動を予測し、ピンポイントで上空に入った。山並に日が沈みかけるロケーション。隊長に「10秒あれば要救助者を救ってきます。」と救助の約束をし、「頼むぞ」の言葉を背にピックアップ(救助完了)したこともあった。

 救助隊長として活動している時には、はやる気持ちを抑えられず自分の技量の無さに苛立ちを感じたこともあった。しかし、私には多くの部下がいた。隊長として心の中のモヤモヤを顔に出しては、次の現場の声なき声を感じ取ることができない。葛藤を押し殺し、訓練で汗を掻き、俺たちの救いを求めている人がそこにいると奮い立たせ、次の現場へ向かった。

 我々の活動に掲げる「人命救助」とは、生命と人生を救うことである。ただ救えばよいのではない。救った人の先に待つ家族が満足するような未来を築く活動こそが、我々に求められる活動である。そして、何よりも大切なことは、私たちが無事に帰ること。私の流儀は、「いってきます」と出た玄関に必ず「ただいま」と帰ること。見送る側も、見送られる側も気持ちよく。

 この先どんなことがあったとしても、この仕事はなくならない。どんな時代が到来しても必要とされる仕事。科学やテクノロジーといった技術がどんなに進んでも、最後は人が人を救う。これだけは代替えできない。我々は、誰かがやらなくてはならない仕事をしている。

 現在の私の消防の仕事(生き様:ざま)は、「現場に一番近い消防本部員。どのような状況下でも、その先の背景を想像し、いち早く駆けつける。そして、やるべきことをやる!」こうである。カラビナやロープ、多くの資機材はパソコンへと変わり、積まれた書類の山を前にキーボードで人を救うのである。そこには、この仕事で犠牲になってしまった先人の方々、この仕事を全うしたくても病に伏しその思いを果たすことができなかった同僚(信友)との約束がある。その人たちの分まで、消防という仕事をやり遂げたい。現場も事務も変わらない。我々の仕事のその先には、必ず命がある。だからこそ、私は「人を救える消防官」を強く認識し、これからも活動していく。

 最後に、私の大切な恩師から埼玉県の消防官たちに伝えられた教導を記したい。「命を救うためには、どんな妥協もしない。諦めない。必ず救って必ず帰る。」全国すべての消防職員が、健康で事故や負傷なく、安全確実に消防職務を完遂することを切に願う。

濱崎 仁
はまざき じん
入間東部地区事務組合消防本部
 ■消防士拝命 平成9年4月
■派遣等
・埼玉県消防学校救助科助教官
・埼玉県防災航空隊
■消防大学校
・緊急消防援助隊教育科 航空隊長コース
・専科教育  救助科
■趣味 家族とお出かけ・アウトドア
主張
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