雑誌 健康教室 2021年4月号p52-53
応急処置アップデート the movie
#13
コロナ禍における心肺蘇生
新型コロナウイルスの蔓延に伴い、厚生労働省は2020年5月21日に心肺蘇生の指針を変更しました。
「全ての患者は新型コロナウイルスに感染している」と考えます。
目次
動画解説
001
患者の鼻と口を布やマスクで覆います。胸骨圧迫(心臓マッサージ)によって患者の息が出入りするので、それに伴う飛沫を抑えるためです。自分もマスクをします。
002
以前は耳を患者の鼻と口に近づけ呼吸を「見て、聞いて、感じて」確認していました。今は患者から離れて確認します。新型コロナ用にしっかりアップデートしましょう。
003
患者が成人の場合は人工呼吸は行いません。胸骨圧迫とAEDだけで心肺蘇生を行います。
004
患者が中学生以下の場合は患者・教員とも付けているマスクを外すことなく人工呼吸を行います。
005
心肺蘇生が終わった後は石鹸と流水で手と顔を念入りに洗いましょう。
コロナ禍における心肺蘇生アップデート
1.小児の人工呼吸
新型コロナ蔓延のため、高校生以上なら人工呼吸は行いません。
中学生以下では人工呼吸をすれば蘇生率が上昇します。そのため「心肺蘇生の指針」では「子どもの心停止に対しては、講習を受けて人工呼吸の技術を身につけていて、人工呼吸を行う意思がある場合には、人工呼吸も実施する」という、実施者に判断丸投げ、しかも人工呼吸にやや否定的な表現になっています1)。
学校の先生の場合はどうするか。この原稿を書くに当たって旭川近郊のH先生に伺ったところ、「養護教諭は専門職として心肺蘇生法は学んできています。健康教室の読者はその心得があると思うからです」と力強い回答を得ましたので、本稿では「人工呼吸を実施」するという表現にしました。感染防護具(zu001)があればそれを使用します。ない場合には、今なら皆マスクをしていますので、マスク越しに人工呼吸をする(zu002)ことで感染リスクを軽減します2)。
2.小児コロナの特徴3)
成人が新型コロナに感染するリスクや症状は多くの記事で目にするでしょうから、ここでは小児の文献を紹介します。
(1)コロナにかからない
小児はコロナにかかりません。中国からの報告では10歳未満のコロナ感染者は全体の0.9%, 10歳から20歳までのコロナ感染者は1.2%でした。イタリアでの18歳までの感染者は全体の1.6%でした。アメリカからは18歳以下の感染者は1.7%と報告されています。
この数字については、(2)に示すように小児ではコロナにかかっても症状が出ないことから患者としてカウントされていない数が相当ある可能性があります。
(2)症状が出ない子どもがいる
中国からの小児171例の報告ではコロナ感染が証明された小児で何ら症状を示さなかったのが全体の15.8%でした。上気道炎症状があったのが19.3%、肺炎症状は64.9%に見られています。症状は咳が48.5%、喉の発赤が46.2%、発熱で41.5%で、ほかには倦怠感、鼻づまり、下痢、嘔吐が見られます。また全く症状がない子どもであってもレントゲン写真では肺炎が7%に見られたとしています。
この数字についても、症状が出なければ検査しないので、無症状の感染児はもっと多いはずです。
(3)母子感染あり
コロナに感染した母親から新生児が感染した割合は9%(33例中3例)。このうち新生児の1例は重篤になりましたが、これは早期産で敗血症を併発したためであってコロナ感染のためではないと考えられています。また胎盤を通じての垂直感染を裏付ける報告はありません。
(4)重症化のリスクファクターは成人と同じ
小児での重症化リスクファクターは成人と変わりません。・慢性肺疾患・喘息・心血管疾患・免疫不全状態(担癌状態・化学療法・放射線療法・血液を含む臓器移植・ステロイドの大量投与)・慢性腎不全・慢性肝疾患などです
文献
1)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生について(指針).2020年5月21日
2)Circulation 2020; 141(25):e933-43
3)Turk J Med Sci 2020;50(3):593-603
監督
原口良介(はらぐちりょうすけ)
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唐津市消防本部消防署救急第一係
消防士長
消防士拝命:平成21年4月
救命士運用:令和元年7月
趣味:カメラ、動画編集
医学監修・解説
玉川進(たまかわすすむ)
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旭川医療センター病理診断科
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