近代消防2021/6, p99-91
今さら聞けない資機材の使い方
連結送水管
目次
自己紹介
所属:松江市消防本部北消防署
出身地:松江市
消防士拝命:平成16年4月
国際消防救助隊登録隊員:平成28年1月から令和2年3月
趣味:サーフィン、映画鑑賞
1 はじめに
この度、「今さら聞けない資機材の使い方」で執筆させていただくことになりました、島根県松江市消防本部北消防署の伊藤眞次と申します。
当本部が管轄する松江市は、島根県の東部に位置する県庁所在地で、東に安来市、南に雲南市、西に縁結びで有名な出雲大社がある出雲市と接しており、中心部は沖積地に発達した城下町で東西に中海と宍道湖をひかえ、市街地は大橋川をはさんで南北に広がっています。
図1
署所配置図
写真1
国宝「松江城」
国宝「松江城」や、夕日百選に選ばれた名所である「宍道湖」など、城下町の風光明媚な趣を感じられ、古社・古墳・城下町の遺構としての文化財も多く残っています。
松江市消防本部は職員数251名で、1本部2署3分署3出張所で構成されています。
当本部のPR動画をYouTubeに投稿しておりますので、閲覧いただければ幸いです。
図2
島根県松江市消防本部のPR動画のQRコード
今回の「今さら聞けない資機材の使い方」では、消火活動上必要な施設である、連結送水管について執筆させていただきます。
連結送水管については、全国的に見ると、連結送水管と連結散水設備の送水口を間違えて送水し、関係者に損害を与えてしまったり、円滑に使用されなかったため、消火活動に遅れが生じた等の、消防活動の失敗が報道されている設備です。
皆様の所属では、何かしらの失敗経験がおありでしょうか。私は経験上、上階へ搬送する資器材の選定に悩み、現場で困った経験があります。中高層の建物火災が発生すれば必ず活用しなければならない連結送水管について、基本的なことのおさらいと、活用に当たっての注意事項等を投稿させていただきます。皆様の活動の参考となれば幸いです。
2 当本部の連結送水管設置対象物件数及び火災件数
当本部管内には全部で6272件の防火対象物があり、5階建て以上の防火対象物が397件、その内の205件(約52%)の防火対象物に連結送水管が設置されています。
令和元年の火災件数は60件で、建物火災が36件、その内、連結送水管が設置された建物で発生した火災は4件でした。令和2年の火災件数は46件で、建物火災が22件、その内、連結送水管が設置された建物で発生した火災は1件でした。
令和元年から令和2年の間に発生した火災では、連結送水管の使用が1件あります。
3 連結送水管の概要
ある一定規模以上の階数を有する防火対象物等に設置され、送水口、送水配管、放水口で構成されています。消防ポンプ自動車から加圧した水を送水口へ送水し、各階に設置された放水口へホースを結合、迅速に放水を行うことができるものです。
上記の放水口は、3階以上の階及び地階の階段室又は附室に設けられています。
1 関係法令
•消防法施行令第29条
•消防法施行規則第30条の4、第31条
2 設置対象物の例
地上 7 階以上の高層建築物のほか、消火活動が困難な建物における消防隊の活動を円滑にするため、次の防火対象物に設置されています。
(1)地階を除く階数が7以上のもの。
(2)地階を除く階数が5以上で、かつ延べ面積が6,000 ㎡以上のもの。
3 使用上の留意事項
(1)設置されている防火対象物では、本設備を積極的かつ有効に活用します。
(2)送水口への送水は、原則同一車両からのホース2線による送水します。
(3)同一配管の放水口の使用にあっては、3口までとしてください。
(4)放水口は、煙による障害や狭隘による活動障害を考慮して使用する階段を選定してください。
(5)筒先圧力は、放水口バルブで調整してください。(多口放水の場合は、元ポンプで
の圧力調整はできません)
(6)多口放水している場合の筒先の閉鎖は、他の筒先に急激に高圧がかかり危険ですので、一度噴霧注水に切り替えた後徐々に行ってください。
(7)連結送水管の送水口付近には仕切弁が設置されており、通常は「開」の状態になっていますが、「閉」の場合、送水できないので留意してください。
(8)連結送水管の主管が屋内消火栓設備と兼用になっている場合がありますので、屋内消火栓設備の使用の有無を確認し、送水圧に十分留意してください。
※屋内消火栓設備を使用中の場合は、使用中止の措置をとってください。
(9)連結送水管の配管は湿式が一般的ですが、乾式の場合には次の点に留意する必要
があります。なお、高さ70mを超える防火対象物は湿式となっています。
ア 初動時は、湿式と比較して多くの水量が必要となり、放水口からの放水に時間が
かかり、タンク水もすぐに水量不足になるため注意してください。
イ 筒先に急激な圧力がかからないよう徐々に送水します。
(10)放水口に直接、分岐金具等を接続することは、急激な圧力がかかった場合、非常に危険なので、放水口には耐圧可能な消防用ホースのみを接続してください。
(11)連結送水管の配管の耐圧は、現在の技術基準では、高圧タイプで1.6Mpaで
すが、老朽化したものや古い建物については、配管耐圧が減少している可能性があ
るため必要以上に送水圧を上げないよう注意しながら送水します。
(12)11階以上の放水口格納箱に設置されている管そうやホース等も積極的に利用してください。
4 設備の仕様
(1)送水口
ア 消防ポンプ自動車が、消防用ホースを利用して、連結送水管へ送水するホース接続口になります。
イ 埋込型、スタンド型等があり、スプリンクラー設備、泡消火設備、連結散水設備の送水口と同型式です。
ウ 結合金具(送水口、放水口ともに)は、呼称65㎜の差し込み式です。
エ 消防ポンプ自動車が容易に近づける位置にあります。
オ 送水口の付近には赤色の位置表示灯が設置してあります。※各市町村により設置内容に差異あり。
カ 「連結送水管送水口」の表示があります。
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(2)放水口
ア 放水口は、消防用ホース接続口です。
イ 原則、3階以上の階ごと及び地階に設置してあります。
ウ 各階の各部分から、一つの放水口までの水平距離が50m以内ごとに設置してあるため、大規模な防火対象物には複数放水口があります。
エ 屋内消火栓設備と放水口が併設されている場合は、屋内消火栓設備の消火栓箱の外部に「放水口」の文字が表示されています。
オ 11階以上の高層部分の階は、双口形の放水口となっており、50㎜ホース4本及び 50㎜ 筒先(フォグガン等)2本が設置されています。
※各市町村により設置内容に差異あり。
※平成2年以前の防火対象物は、65㎜ホース2本以上及び65㎜筒先1本以上が設置されています。
5 当本部の取り組み
(1)指令端末装置への情報表示
当本部では、連結送水管が設置されている防火対象物について、指令端末装置に送水口の位置及び出入口となる場所を表示しています。
また、警防計画を作成している防火対象物については、内容を確認することが可能です。
これにより、出場前から消防用設備の有効活用について確認し、戦術をたてることができます。
(2)高層階セット
連結送水管を使用する場合、先着する消防隊は、使用する階の放水口まで各種資機材を搬送しますが、先着の消防隊1隊で搬送できる資機材の量はある程度制限されるため、資機材の選定が重要であることから、あらかじめ連結送水管を使用する場合の消火活動に必要な最低限の資機材(消防ホース、分岐金具及びガンタイプノズル(区画火災対応))を「高層階セット」として事前にホースバッグに入れ、それを車載しています。これにより、迅速に持ち出せるようになり、上階での資器材忘れを防ぐことができます。
(3)ポンプ運用技術の伝承
連結送水管を使用する場合、ポンプ運用の知識及び技術は必須です。
しかし、ポンプ運用全般に関しては、今まで、根拠に基づいた確立された指導が十分とは言えない状況で、いつまで経っても「プロの機関員としての技術」が伝承されにくい状況でした。
そのため平成24年から平成30年3月までにさまざまな実験を行い、そこから導
くことができた合理的な手法や技術をまとめた「実践!ポンプ運用」を作成し、それを基に機関員の育成強化を図っています。
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6 おわりに
連結送水管が設置されている建物は、基本的に高層もしくは大規模な建物となります。
このような建物を建設するためには、消防法や建築基準法によって、多くの費用がかかります。
冒頭にも少し述べましたが、火災発生時、設置した設備が上手く活用されず、関係者に損害を与えたり、消火活動に遅れが生じるようなことがあっては、消防への信頼を損なってしまいます。そのようなことにならないためにも、今回紹介させていただいた内容が、少しでも皆様の現場活動の参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメント
分岐金具を取り付けた時に、
少し開けた方が送水が早いですか?