近代消防2017/06,
今さら聞けない資機材の使い方(50)
パルスオキシメーター:特にネイルについて
富良野広域連合富良野消防署占冠支署 山田克己
目次
著者
名前:山 田 克 己(やまだ かつき)
年齢:23歳
所属:富良野広域連合富良野消防署占冠支署
出身:北海道旭川市
消防士拝命:平成27年4月1日
好きな食べ物:寿司
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みなさんはじめまして。3年目に入ります、富良野広域連合富良野消防署占冠支署の山田克己と申します。今回、「今さら聞けない資機材の使い方」の執筆を担当させて頂きます。よろしくお願い致します。
【復習編】
今回の資機材は、「パルスオキシメーター」です。プローブを指や耳朶等に装着し、非侵襲的にSpO₂(経皮的動脈血酸素飽和度)を、リアルタイムで連続的に測定することを可能とします。その数値は、救急現場やリハビリ施設、看護、介護等において、患者の容態変化に気付くポイントとなるため、パルスオキシメーターの取扱方法や、機能、表示項目等について理解しておく必要があります。今さらではありますが、検証しました。
写真① 指用パルスオキシメーター使用時
【SpO₂とSaO₂の違い】
SaO₂(動脈血酸素飽和度)は、動脈血中の酸素に結合したヘモグロビンの割合であり、PaO₂(肺胞内酸素分圧)と相関があります。SaO₂は動脈血ガス分析装置に組み込まれたCOオキシメーターで測定できますが、経皮的にパルスオキシメーターを用いて測定したSaO₂は、上記を区別するためにSpO₂と表記されます。
【SpO₂の測定方法】
パルスオキシメーターは、プローブ部分と本体からなります。プローブには指や耳朶に挟むもの、鼻に貼付するものがあり、それらを装着することでSpO₂を測定します。
プローブ内には、発光部と受光部があり、発光部からは赤色光と赤外光が出ます。酸化ヘモグロビンは赤外光をよく吸収し、還元ヘモグロビンは赤色光をよく吸収する特徴を持っており、それぞれの光が生体を透過し、それを受光部で受け、透過率から酸素飽和度を求めています(図①)。
図① パルスオキシメーターの光の透過性
【パルスオキシメーターについて】
全身に輸送される酸素量は、主にヘモグロビン濃度(貧血の因子)、心拍出量(心臓の因子)、ヘモグロビンと酸素の結合の程度(肺の因子)の3つにより決定されます。そのため、SpO₂の値によって患者が低酸素状態や、呼吸困難等の状態であるかを数値的に分析することができ、以下のような場合、パルスオキシメーターの数値が重要となってきます。
・ショックや呼吸困難等で低酸素状態を疑う場合
・骨折や、外傷での出血等が確認された場合
・呼吸器疾患や、循環器疾患が疑われる場合
・ガス中毒、酸素欠乏の場合
・酸素投与の開始を判断する場合等
パルスオキシメーターは、すべての症例において、傷病者接触時に使用していると思われます。血中の酸素含量が十分な状態でも、心拍出量が低下していると、酸素供給が不十分となり、ヘモグロビン濃度が低い場合も動脈血に含まれる酸素の量は低下します。
SpO₂が正常であるにもかかわらず、呼吸困難を訴える場合があります。呼吸困難には、呼吸の努力感と充足感が大きく影響し、SpO₂が直接結びつくとは限りません。前述した低酸素血症以外にも、運動による呼吸刺激や、心理的な興奮、外気温の上昇、疾患による換気障害など、原因は様々であるため、SpO₂の異常のみならず、他の影響因子も考慮したうえで評価する必要があります。
【SpO₂測定に影響する因子】
・寒冷による末梢血管収縮などの末梢循環障害
・プローブの装着不良
・汚れやマニキュア、ネイルチップによる透光性の低下
・体動や搬送時の振動
・一酸化炭素ヘモグロビンなどの異常ヘモグロビンの増加
・直射日光や赤外線、電磁波の影響
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【ネイルに着目・検証】
今回の記事掲載にあたり、SpO₂とネイルの関係性について、どれ位数値に変動があるのか常日頃、疑問を抱いていたため、以下の3種類について検証しました。
•ジェルネイル~ジェルと呼ばれる液体を爪に塗り、UVライト又は、LEDライトを照射することで固まり、仕上がるネイル。
•ネイルチップ~両面テープや接着剤を用いて、爪に貼り付ける付け爪。
•アクリリックネイル~アクリルリキッド(アクリル樹脂の液体)とアクリルパウダー(アクリル樹脂の粉)を混ぜ合わせ、爪に塗り、人工的に爪を作るネイル。
写真②検証したネイル
※その他5本にあってはジェルネイル
写真③ ネイルチップ
<検証結果>
※取材時間の都合上、上記の表のみ検証しています。
※ジェルネイル作成手順~①ベースジェル(下地)を塗る、②カラージェルを塗る、③トップジェルを塗る(仕上げ・艶出し)。
※ネイルチップ作成手順~①爪に両面テープを貼付、②ネイルチップ(付け爪)を付ける。
※アクリリックネイル作成手順~①爪にフォーム(土台)を付ける、②爪にプライマー(下地)を塗る、③爪にミクスチャー(人工爪のようなもの)を塗る。
※黒(ジェルネイル)にあっては、SpO₂解析後92%と表示され、脈拍は表示されず。6秒ほど経過して98%と表示され、脈拍も正常に表示された。
※アクリリックネイル(右薬指 銀ラメ)にあっては、プローブを縦に装着すると、爪が長いため指の先端まで挟むことができなかった。(92~95%を表示)指の先端を横から挟み測定すると、99%と表示された。
写真④ ネイル上から測定中画像
<ネイル・マニキュアを剥がす方法>
当支署では、ネイルやマニキュアを付けている傷病者に対応するため、除光液を救急車両に積載しています。しかし、除光液はマニキュアのみしか取ることはできません。
一方、ネイルは種類によって剥がす方法に違いがあります。
•ジェルネイルはアセトンという成分が入ったジェルリムーバー(下記画像参照)をコットンに染み込ませ、ネイルに塗布し、アルミホイルを巻き、10分間温めることで、ジェルネイルが柔らかくなり、剥がれます。それ以外の方法では、基本的に剥がすことはできないため、救急隊が容易に剥がすことは困難と考えられ、爪やすりで削り落とす方法もありますが、時間がかかる上、傷病者の爪や皮膚を傷つける恐れがあります。
•アクリリックネイルも、ジェルリムーバーを用いて剥がすため、時間を要します。
•ネイルチップは、両面テープや特殊な接着剤で付いており、両面テープの場合のみ手で剥がすことが可能です。
よって、救急隊は、SpO₂測定時、ネイルによって支障がある場合は、マニキュア及びネイルチップは除去することは可能ですが、それ以外のネイルは救急活動上、搬送に遅延が予想されるため、ネイルの上から測定した数値を搬送先医療機関に報告するのが良いと思います。
写真⑤左:マニキュア除光液、右:ジェルリムーバー
写真⑥ネイルチップ接着剤
【検証結果・結び】
今回の検証で、数値にさほど誤差はありませんが、紹介したネイルの種類はごく一部に過ぎず、他の影響因子によりSpO₂値に誤差が出ることがあります。
一昔前までは、ネイルと言えばマニキュアが主流でしたが、近年ではジェルネイル等のネイルが主流であるということが、今回の取材を通してわかりました。
傷病者と会話が可能であるならば、ネイルの種類を聴取し、除去可能なのか。また、搬送先医療機関の医師にネイルをした上での数値であるということも伝えるべきであると思います。
救急現場では、現場状況や傷病者状況等を考慮し、容態変化にいち早く気づくとともに、安全・確実・迅速な活動ができるよう、日頃からの準備が重要であると考えます。
写真⑦ 山田克己 写真
取材協力:
「Atelier HEUre」ネイリスト 渡邊有希菜
写真⑧ 「Atelier HEUre」店内写真
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