近代消防2022/04/10 2022年6月号p92-93
●今さら聞けない資機材の使い方 109
高崎市救急隊員シンポジウムシリーズ(1)
小物の活用
B
bluetoothイヤホンを用いて現場滞在時間を短縮する
竹内 俊之
吹田市消防本部
目次
プロフィール
名前:竹内 俊之(たけうち としゆき)
所属:吹田市消防本部
出身地:大阪府大阪市
消防士拝命:2005年(平成17年)
救命士合格年:2015年(平成27年)
趣味:トライアスロン、家族でキャンプ、旅行
はじめに
Bluetoothイヤホンを用いる事で現場滞在時間(現場到着~現場出発)を短縮できることを示します。
Bluetoothイヤホンはハンズフリーで会話できるため、話している時でも両手が使えます。医療機関への受入要請と同時進行で傷病者を救急車内へ収容することにより、救急活動の質を低下させることなく、現場滞在時間を短縮するものです。なお、当消防本部の標準的な流れは、現場到着し傷病者の観察及び処置の実施→救急車内へ収容→継続観察し医療機関へ受入要請開始→搬送先が決定し、現場出発、となっています。
材料と方法
1)Bluetoothイヤホン
市販のもので、骨伝導タイプのイヤホンです(B_001)。骨伝導により耳を塞がず通話が可能です(B_002)。耳介にかかるため落下しません(B_003)。Bluetoothイヤホンは出場途上で装着し、スマートフォンと接続した状態で現場に向かいます。
001
骨伝導タイプのイヤホン
002
骨伝導により耳を塞がず通話が可能
003
耳介にかかるため落下しない
Bluetoothイヤホンを使用した活動を動画で示します(B_004)。今回動画の中で感染防止は省略しています。動画の活動は当地域のプロトコルに沿ったものとなっています。現場での観察の流れは従来の活動と同様です。
004
動画
緊急度判断及びそれに伴う医療機関の選定は全隊がスマートフォンアプリで大阪府救急搬送支援システム(ORION)を使用し行っています。医療機関を選定し、ハンズフリーで連絡を開始します。同時に搬出準備も開始します。
搬出準備が整い、安全に搬出できると判断した時点で、ハンズフリーの状態で搬出に移ります。搬出途上で個人情報等、伝えることができない情報があれば、現場出発後にセカンドコールで医療機関へ伝達します。
2)現場滞在時間の検討
同一署管轄内の4隊(A・B・C・D隊)を対象に実際の救急事案を抽出し比較検証を実施しました。
A隊はBluetoothイヤホンを使用します。車内収容前に医療機関への連絡を開始。Bluetoothイヤホンを使用し、ハンズフリーの状態で 医療機関連絡と同時進行で救急車内へ収容します。
B・C・D隊はBluetoothイヤホンを使用しません。救急車内収容後に医療機関への連絡開始する活動を実施します。
研究期間は令和3年4月1日~6月30日としました。
対象事案を表1に示します。
表1
対象事案
——————
転院、交通事故及びPA連携事案は除外
発生場所が住宅及び公衆のみ
医療機関への連絡回数1回のみ
現場到着から車内収容まで3分以内の早期搬出事案除外
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結果
対象件数は計393件で、A隊~D隊各々約100件前後となりました。
A隊の平均現場滞在時間が12分29秒で他の3隊と比べ、約6~11分短い結果となりました。
なお、現着~車内収容の平均時間は4隊とも約8~9分とほぼ横ばいとなっていますが、車内収容~現場出発の平均時間ではA隊が3分57秒で他の3隊と比べ、約7~11分短い結果となりました。
考察
Bluetoothイヤホンを使用し、医療機関への連絡と車内収容を同時に行うことで、車内収容までに病院決定することが多く、車内収容後短時間で現場出発できることが最大のメリットであることがわかりました。その結果、車内での活動時間が大幅に短縮されており、現場滞在時間の大幅な短縮に繋げることができました。
Bluetoothイヤホンを使用することにより、救急活動の質を落とさず、現場滞在時間短縮に繋げられることを示しました。日ごろから訓練を実施し、活動の熟練度を高めることにより、更なる時間短縮も期待できると考えます。
今後も訓練及び検証を継続し、現場滞在時間短縮を目指した活動の研究を進めたいと考えています。
結論
1)Bluetoothイヤホンを用いる事で現場滞在時間(現場到着~現場出発)を短縮できるか検討しました。
2)Bluetoothイヤホンを用いる事で平均現場滞在時間を約6~11分短縮できました
3)訓練により活動の熟練度を高めることにより、更なる時間短縮も期待できると考えます
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座長コメント
年々、救急出動が増加し、病院収容時間が延伸する中、救急隊は常に早期医療機関への搬送が求められおり、肉体的疲労に加え、精神的疲労も増加している。今回提案された「Bluetoothイヤホンを使用した医療機関への連絡方法」は、救急活動時間のスキマを狙った方法で、検証結果からも現場滞在時間の短縮が確認されており、有効活用できれば、救急隊にとって強力な武器になる。ただ、医療機関への受入要請と同時進行で傷病者を救急車内へ収容する活動は、意識散漫になり救急活動の質の低下が懸念されることや、病院連絡が不慣れな隊員にとっては、精神的負担の増加が危惧される。そのため、継続的に訓練を続け、その環境に適応していくことが必要である。
今後は、Bluetoothイヤホン活用のポイントや緊急度により搬送時間がどう変化するかなどの検証が加わると、導入を検討している消防にとって貴重な情報源になっていくだろう。
座長プロフィール
・名前:木嶋 浩之(きじま ひろゆき)
・所属:高崎市等広域消防局 高崎北消防署群馬分署 係長代理(消防司令補)
・出身地:群馬県前橋市荒子町
・消防士拝命:平成18年4月1日
・救命士取得:平成26年救急救命士国家試験合格
・趣味:ダンス、散歩
座長プロフィール
・名前:木嶋 浩之(きじま ひろゆき)
・所属:高崎市等広域消防局 高崎北消防署群馬分署 係長代理(消防司令補)
・出身地:群馬県前橋市荒子町
・消防士拝命:平成18年4月1日
・救命士取得:平成26年救急救命士国家試験合格
・趣味:ダンス、散歩
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