近代消防 2021/08/11 (2022/9月号) p88-90
目次
1.背景
001
若い救命士にも現場活動を通して、技術を向上してもらう必要があります。しかし、活動しながらでは、若い救命士を常に見守ることは難しいです。そのため、指導が必要な場面を見逃してしまうことがあります。
002
現場で見逃してしまうなら、シミュレーション訓練をすればよいということになります。しかし、本格的なシミュレーション訓練には時間がかかります。出動があると中断されてしまい、なかなか最後まで実施できないのが現状です。
003
現場では常には見守れない。本格的な訓練は最後まで実施できない。そこで、短い時間でできる訓練を考案する必要があると考えました。
そこで考案したのが「超簡易型シミュレーション訓練」です。
2.訓練の実際
動画がわかりやすいので、ぜひQRコードをスキャンして動画を見てください(douga.mp4)。
訓練はこのようにします(動画4分。音声なし)
004
ポイントを説明します。状況評価、処置、搬送など、隊長と協力しやすい活動は省略します。聴取、観察、収容依頼といった、1人で行う活動のみ実施します。そしてなんと、最低人員はたったの2人です。つまり、内容と人員を極限まで切り詰めることで、勤務の隙間時間に実施できることを目指した訓練なのです。
005
それではこれから実際に、長さんと若君に「超簡易型シミュレーション訓練」を実施してもらいたいと思います。
若君が実施者、長さんが想定付与と傷病者役で進めていきます。
まずは、長さんから通報内容が伝えられます。状況評価は省略し、若君が接触、初期評価を実施します。
「分かりますか」「はい」
「気道開通、レベルⅠ桁です」
「呼吸と循環の確認です」「呼吸と循環は正常です」
もし冷汗など表現できない点があれば、口頭で伝えます。
006
続いて、通報内容と初期評価の結果にあった聴取を実施してきます。
「頭の位置で変わりますか?」「ずっと変わらない」
「『継続』してるんですね」
「吐きましたか?」「2回」
007
これから、聴取内容に合わせた2次評価を実施していきます。
もし瞳孔不同がある想定なら、再現できないため、口頭で伝えます。
008
次に指を注視してもらっていますね。垂直性眼振があったようです。
次は・・・鼻指鼻試験ですね。若君は陽性と判断したようです。
009
脳卒中を疑って、シンシナティ病院前脳卒中スケールも評価していくようです。
010
2次評価の次に既往歴を確認します。既往歴を2次評価の後に聞いて、疑い疾患と矛盾がないか確認します。
また、意識レベルも詳細に評価してもらいます。
011
聴取と2次評価終了を宣言するとバイタルサインをもらえます。
012
必要な情報が揃ったら、傷病者に同意を取って、収容依頼の電話をかけます。長さんはその病院に合わせて、医師や看護師の役割を演じます。訓練開始からここまで5分を目標にしています。
013
活動が終わったらフィードバックです。
フィードバックは長くなり過ぎないように、ポイントを絞って伝えます。フィードバックは2分を目標にしてもらいます。
3.訓練してみて
実施者を若い救命士、指導者を隊長救命士として、勤務の隙間時間に「超簡易型シミュレーション訓練」を実施してもらいました。調査期間は令和3年6月15日から令和3年7月5日までの21日間です
客観的評価として、その日の訓練回数、活動時間、フィードバック時間、その日の出動件数を記録しました。
その結果、1日の平均訓練3.7回、活動時間5.9分、フィードバック3.2分の計9.1分、平均出動件数8件でした。訓練回数と出動件数に明らかな相関関係は認められず、訓練回数は出動件数に左右されにくいという結果になりました(014,)。
実施者と指導者を対象にアンケート調査も実施しました。対象は実施者4人、指導者5人です。気楽に実施できた、成長を実感した、繰り返し実施できるので経験になるとポジティブな意見を多数いただきました。ネガティブな意見としては、指導者の技量に左右されやすい、想定を考えるのが大変という意見をいただけました。
014
訓練回数と出動件数の相関図。相関係数は0,078で有意な相関は認めない
4.考察
今回考案した「超簡易型シミュレーション訓練」は1回あたり、10分以内に実施でき、出動件数が多くてもやりやすいものでした。成長を実感できたということは、これまでの活動と訓練では指導できなかったことが指導できたと考えられます。今後は誰が指導者でも成果を得られる工夫が必要であり、現在、ポイントを明確化した想定集を作成して対策をとっています。
コメント